富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

菊之助の盛綱陣屋

陰暦二月十二日。気温摂氏6.5°(水戸)/24.1度(東京)。快晴。家人といつもの水戸駅初08:13の上り列車に乗つて寛いでゐたら土浦到着前に車内放送が「この列車は次の土浦駅で約12分停車、発車は09:12となります。この先、東京へお急ぎの方は土浦駅で反対側のホームから9時ちょうどに出る特別快速にお乗り換へください」といふ。「え?」と思つたら昨日(13日)の春のダイヤ改正でさういふことになつたやう。土浦始発の常磐線特別快速はこれまで10時が始発だつたが9時発が登場で、アタシのお召列車がその煽りで土浦からが遅くなつた。土浦で乗換へは多少面倒だが普通列車のグリーン料金も通しであるし(土浦特快が始発からすでに満席でもない限り)上野着は09:57と3分早くなり終点が上野ではなく品川で東京ばかりか新橋に停車もありがたい。

東京駅に着いて昼までとくに用事もなく取敢へず中央線で四谷に行き聖イグナチオ教会から「ソフィア通り」を紀尾井坂の方に歩く。会社員は上着脱ぎ、半袖姿の人も少なからず。平河町を抜け半蔵門へ。山田松香木店の支店で新しく出た練香(露葉)と防虫香購める。


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国立劇場で観劇の前に小腹を満たすには甘味おかめ(麹町店)が良い。からみ餅豆かん。さすが元々数寄屋橋の老舗だけあつて美味。豆かんは単純なやうで豆の質から茹で加減まで美味い、不味いがはつきりと出る。

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国立劇場(大)で歌舞伎は久々。こゝは菊五郎劇団の印象強く正月も八犬伝だつたが今月は菊之助(初役)*1で〈盛綱陣屋〉なり。盛綱といへば播磨屋偲ばれるところ竹本は葵太夫さんが小四郎(丑之助)の出から幕切れまで人物の出入り多いところを演奏。その葵さんが稽古のときに丑之助君に吉右衛門Ⅱの面影が見えたといふ。村上湛君も(彼のこの劇評はまだ出てゐないが)丑之助君好演は無論のこと美吉屋の微妙役が傑作で大変なものと聞いてゐたので楽しみな今日の舞台。盛綱役で菊之助の心情がよく表され丑之助君は本当に型の決まり方から足の指先までの演技力にこれぞ歌舞伎役者と感心させられるばかり。完ぺきに小四郎になりきつてゐる。畏怖すら感じる子役ぶり。播磨屋が娘婿とお孫のこの好演を見たらどれだけ目を細めたことか。菊之助も倅も播磨屋の期待に応へやうとしての結果。高綱妻・篝火役の梅枝も良い。そして盛綱の母・微妙は菅原伝授手習鑑の覚壽、本朝廿四孝の越路と並ぶ役つくり六ツかしい「三婆」の一つで、このお役は盛綱が松嶋屋なら秀太郎兄さんが、東京なら神谷町が勤めるやうなお役で、それを吉弥さんが本当に見事に演じてゐる*2。美好屋は松嶋や我當兄さんのお弟子だから微妙=秀太郎さんへのオマージュがあるかもしれない。今日はとてもよい芝居を見せていたゞいた。

2階最前列中央の所謂「天覧席」で5千円なのだから国立劇場は(劇場にしては地味すぎるが)舞台への距離の近さといひ悪くない。筋書も歌舞伎座のものに比べてデータ満載で、こちらだと筋書も買ひ求める。建物は昭和41年建立で来年秋で閉めて建替え工事に入る由。

ところで芝居の前に盛綱陣屋解説(萬太郎)あり、その「プレゼン」のあとの中入りでちょうど席を外して戻つてくると1階席最前列で大声で怒鳴るヲンナがゐて何かと思へば(家人の話では)近くの席の客が開演前も中入りでもマスクを時折外して隣席の連れと話してゐたさうで、このヲンナはそれに怒り「みんなつらいの我慢してマスクしてんだ、なんでオマエはマスク外してるんだ!」と。あまりの執拗なキレ具合に思はず「待ってました!」「たっぷり!」と声をかけたいほどだつたが誰かれともなく機転のきく客が大きな拍手。さすがにこのヲンナも席に戻り盛綱陣屋開演となつた。これが座長が勘三郎だつたら「まぁまぁまぁ」ととりなしに舞台袖から出てきたかも、と家人。


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本当に暖かいといふか暑い。永田町から地下鉄で四谷経由で新宿。お彼岸はまだ少し先だが柏木の常圓寺に掃墓。西武新宿駅の方に何だか派手な末期的な超高層ビル建造中。偶然にも新宿で別行動してゐた家人から、このビルはスカラ座跡地にとLINEあり。墓参りの他はとくにすることもなく新宿駅西口地下徘徊。もうすぐ再開発となる小田急デパートに入る。京王デパートは駅弁を買ひに出かけたことがあつたが小田急なんて小学生のとき以来かもしれない。


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暑さゆゑ東口地下のベルクでビールが美味い。家人とほてい屋角で待ち合せて二丁目の鼎へ。土佐しらぎく(斬辛)と能登菊姫を飲む。筍の若竹煮。女将は変はりないが店員もワイシャツにネクタイで(数年前かららしい)昔の役者崩れ感もない。メニューもワープロ印字で何となく雰囲気がよそよそしくなつた感じ。ふとフツーのラーメンが食べたくなり家人を〈中本〉に案内しようと二丁目を抜けて歩いてゆくがマンボウで夜の営業はお休み中。とても久々で隨園別館。こちらも昭和の昔とは随分と変はつた。御苑から丸の内線で東京駅、20:23発の特急(ときわ)に飛び乗り。


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水戸駅国鉄401系「赤電」塗装の電車(E531系)にやつと遭遇。この特別塗装は1編成のみなのでなかなか出会ふことがない。今日は22:25始発の常磐線下り大津港行き(623М)が、それでした。

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金沢市長選。当選は自公が支援する副市長。私らに金澤駅前で声をかけてくれた永井さんは3番目の得票数でダブルスコア負け。永井さんと同じ無党派で30代の若手市議が次点で立憲と共産がそれぞれ擁立では票の喰ひあひで自公の副市長の利となる。石川県知事選が同日。

「こんなに使い勝手がいい人はいませんよ」新石川県知事・馳浩の評価がプロレス時代と全く同じという件について | 文春オンライン

森喜朗は相変はらず元気。それだけ。


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*1:音羽屋にとつては初代菊五郎も盛綱を演じてゐる。

*2:美吉屋の微妙は2019年12月に白鸚の盛綱のとき以来2度目。