富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

伊東豊雄公演会「公共建築はみんなの家である」

癸卯年六月初五。気温摂氏21.1/28.7度。晴。関東は梅雨明けださう。梅雨明太夫澤瀉屋)逮捕拘束されてゐても梅雨は明けるか。

常総撃破の「ミラクル茨高」準々決勝で明秀日立と接戦 : スポーツ報知

これで茨高が明秀日立に勝つたら大変なことになつてゐたが関西や台湾から優秀な野球君たちを集めた明秀相手に4-5の接戦とは大したもの。

この佐藤君といふ投手あつての茨高にとつての奇跡だが佐藤君には一般入試で大学進学で無理せず大学野球での活躍はあるのかも。茨高の野球部はこれから何うなのか。まさか強豪校にはならないだらうが野球部人気でそれなりの実力チームになつてゆくのかしら。

あれほど伊東豊雄設計の水戸市民会館への罵詈雑言並べてゐたアタシだが憶測や邪推多く本日、同会館にて伊東豊雄先生の公演会あり拝聴。

水戸には芸術館あり。それは当時の時代の要請。吉田秀和をトップに小澤征爾鈴木忠志、中原祐介といつた日本を代表する音楽、演劇と美術の天才が「こんなコンサートホール、劇場とアートスペースがあつたら」と理想の形を実現したもの。あくまで優れた音楽、演劇と現代美術を楽しむ空間。それがある上で隣に計画された市民会館の役割。あくまで多目的ホールであり市民が気軽に立ち寄れる施設に、といふコンセプトは正しい。伊東豊雄はそのこれまでの具体的としてせんだいメディアテーク(2001年)を挙げ311の大震災での「みんなの家」の意味を語る。その公共建築の設計の具体例として岐阜市立中央図書館を紹介。

また直近のプロジェクトとして挙げるのが大阪は茨木市の市民会会館跡地再開発計画(こちら)。それが水戸市民会館はなぜかういふ理想的な形にならなかつたのか。伊東先生も竹中工務店もやはり強調されるのは木(モク)を大胆に使つた構造なのだがコンクリートの箱物の周囲にお飾り程度に木構造を据ゑてみせてゐるにすぎない。「みんなの家」といふが市民が自由に使へるスペースなど西陽が強烈にあたる壁沿ひの学習スペース程度。伊東先生が「今日ぜひ見て行つてほしい」と仰つた屋上の芝生広場と庭園も今日は楼上のお茶室では茶会披きで屋上は立入り禁止。屋上の「開放」は今月だと14日(金)〜17日(月)と19日(木)と20日(金)、それに27日(木)と31日(月)の8日しかない。結局のところ貸施設なので施設の利用がないと人も集まらない点では民間のコンベンションセンターと同じ。これは伊東先生の責任ではなく水戸市の元々の発想の貧困。この施設が出来ても本当に市民が集まるのか何うかは施設を何う使つてゆくかにかかつてゐると奇しくも伊東先生も地元側の設計担当の建築家(横須賀満夫氏)が今日の鼎談で指摘してゐた。この鼎談は冒頭から芸術館側のプレゼンで水戸芸術館についての哲学や思想、磯崎新の業績など回顧に始まり伊東先生も地元の建築家も専門の立場で水戸芸術館をどう感じたか?なんて話から始まつた。さらに資料として配られたのが磯崎新の「文化施設を活かすために」といふテキスト(1999)。

f:id:fookpaktsuen:20230724114214j:image
こゝに書かれてゐることはまさに市民会館的な「施設」の否定であつて実際に何をやりたいのか、何う使ひたいのかの思想もあつての空間。まるで水戸芸術館側からの水戸市民会館批判。その場に伊東豊雄先生を重要参考人として事情聴取のやう。では何故にかういふイベントになつたのか。本日のこのイベントの主催は公財の「水戸市芸術振興財団」で共催が水戸市民会館。何ういふことかといふと水戸市民会館には運営事務局こそあるが、これはあくまでも施設管理組織。会館の「指定管理者」として市と契約してゐるのが株式会社コンベンションリンケージ (以下、CL)でコンサートの企画などはこちら。そこで市民会館のイベント情報(こちら)見ての通りCLが企画する民間のコンサートの他はNHK水戸児童合唱団ミニコンサートやいけばな展、地元の吹奏楽部の発表、今回の伊東豊雄講演など公共的、非営利的な事業の開催は水戸芸術館(芸術振興財団)が請け負ふ=出しゃばることになる。芸術館側も芸術館の運営だけで水戸市の年間予算の1%を使ふなかで仕事を増やされたやうなもの。そこで施設管理者である市民会館(運営事務局)が主催するイベントは偶然にも本日開催の「スタンウェイを弾きませんか」だけ。まさにこんなおかしな体制の中での公共施設の運営なのだから「みんなの家」の創設にはほど遠いのが現状。悲しいかな。ところで本日の伊東先生(82)と横須賀氏(84)偶然にも二人とも白色のジャケットにシャツとパンツは黒、豊雄のメガネがトレードマークの白のフレームなら満夫のメガネは赤のフレームでステージに二人で並ぶと〈豊雄満夫〉といふベテランの漫才みたい!とアタシが同席の家人に呟いたら周囲は竹中工務店など関係者多かつたやうだが聞こえてしまつて笑ひ誘つてしまつた。それにしても今日の400人の参加者の多くはもつと素直に「水戸市民会館に託した伊東豊雄の思ひ」を聞きにきたはずで、まさか「水戸芸術館による芸術館の存在意義と磯崎新の思想の再検証」になるとは思はなかつただらう。それはそれでアタシなどは面白かつたのだが。

水戸市民会館開館記念事業〈アートセンターをひらく 2023-地域をあそぶ水戸芸術館現代美術ギャラリー

その伊東先生講演会のあと隣の芸術館で開催中の夏のイベント参観。これがまたいつたい何なのかチラシとか見ても全くよくわからない。内容もよくわからない上に、これまた芸術館主催の「市民会館開館記念事業」なのである。

水戸芸術館の隣に開館する市民会館の門出を祝い「地域」と「あそぶ」をテーマに当館から周辺地域へつながる展覧会を「アートセンターをひらく」第2弾として開催します。本展では当館現代美術センターの「アートセンター」としての特徴をふまえギャラリーを「展示と鑑賞」に加え「アートが生まれる場」と捉えます。アートセンターの「創造」の役割を前面に押し出し、アーティストはもちろん地域の人びとの創造性が引き出されるような場を目指します。

いずれにせよ「どんなもんだい」で市民会館にはできない芸術館のギャラリーだからこそのイベントであることは明らか。それでも夏休みの子ども相手のイベントと思つて入つたら、これが面白いったらありゃしない企画。

第1室(ひらくの間)からして好きに工作のできるアートスペースなのだけど気の利いた小さなな図書スペースがあつてなか/\面白さうな本が並んでゐて好きに読書してゐられる。ヂョン=ヨンドゥによる映像作品〈マジシャンの散歩〉は2014年の水戸で夏まつりの時だらう市街を手品師のイ=ウンギョルが散歩しながら手品など披露して芸術館近くのトヨペットのスペースでは最後、ジャズピアニストの小曽根真とのコラボ。これはパフォーマンスと映像の演出もさることながら当時の、今では市民会館建設での再開発ですでに消滅した旧「京成西口商店街」が映像に映つており実に貴重な、面白い映像作品。これは当時、水戸芸術館でイ=ウンギョル展が開催されたときの作品なのださう。

ヂョン・ヨンドゥ 地上の道のように|水戸芸術館現代美術ギャラリー

そしてもう一つ蔡国強が1994年に水戸で中国風水学の権威・王其亨(当時、天心大学建築学教授)と水戸の風水、水脈を探しての巨大な作品〈水戸風水龍脈図〉も初めて拝見。

f:id:fookpaktsuen:20230723060130j:image

水戸の水脈から龍を描き、このパフォーマンスのあと実際に水戸では龍の頭にあたる水戸城本丸=水戸一高の崖下、水郡線沿線の位置と、龍の尾の付け根にあたる水戸大工町交差点(吉田石油)に「鎮物」として一対の巨大な獅子像まで据ゑてゐるのだ。そんな面白い展示の間、間に何かしら工作とかできるスペースがあつて、そこに1日ずつと滞在してゐられるが今回の10月まで!のこの企画、入場パスを入手すると、それで無制限に再入場可能。

これこそ伊東豊雄先生のいふ「みんなの家」のアート企画ではないかしら。かうしたものがあれば面白がつて人が集まつて来るといふもの。