富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

風野春樹『島田清次郎 誰にも愛されなかった男』

癸卯年六月初六。大暑。気温摂氏21.3/29.7度。快晴。水府は他の土地に比べるとまだほんの少し涼しいのはありがたい。

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夕方からの東風の涼しさは格別。水戸市内でも海に近い東の低地は塩害も少なからずあるといふが沿岸から8kmくらいまでで旧市街の下市にもそれは及ばない。

島田清次郎 誰にも愛されなかった男

風野春樹島田清次郎 誰にも愛されなかった男』(本の雑誌社)読む。島田清次郎『地上』通読したので島田清次郎(1899~1930)のことは金澤近代文学館の展示で少しは知つてゐたが折角だからもう少しこの作家のことを知りたいと思つたら、この本があつた。それにしても大正時代に一瞬、若き流行作家として登場し数年で狂人となり早逝の作家である。同じ石川出身で似たやうな半生では藤澤清造(1889~1932)あり藤澤は西村賢太が私淑して取り上げたことで再び脚光を浴びたわけだが作品すら現在入手困難でほとんど忘れ去られてゐた島田清次郎について、こんな評伝が2013年に発表されてゐたことも驚き。この著者(風野氏)は現役の精神科医。偶然に漫画化だかされた『地上』を読んだことから島田清次郎といふ作家を知り関心をもつて調べ始めたら子どものときから人気作家になり「誘拐」事件を起こすまでのことは詳しく書かれてゐても、そのあとのことが発狂で略されてしまつており詳しい記録もなく著者は精神科医としての立場からもそこが気になり、それを調べてこの評伝の上梓になつたのださう。まさに奇特。著者によれば清次郎が常習的なDV加害者だつたとしても、それは精神病だといふことは意味しないといふこと。DV加害者はほとんどの場合、精神病に非ず、それは修正困難な行動特性であつても精神病といふわけではない。

清次郎を「狂人」と呼ぶ場合、絶頂期の誇大妄想と舟木事件*1などに見られる暴力行為、そして「早発性痴呆」(現在の総合失調症)と診断されて入院したことすべてをひっくるめてのことが多い。しかし慢性で特権意識をもったDV加害者と「早発性痴呆」という診断の間には、展と地ほどの違いがある。

この評伝はもし島田清次郎がこれを読むことができたら、さぞや自身の生涯の記録としてありがたく感じたことだらう。

大相撲七月場所、豊昇龍優勝決定戦で北勝富士下し初優勝。伯櫻鵬は本割で豊昇龍に土で初入幕優勝機会逸す。豊昇龍感極まり涙。内閣総理大臣杯の授与は岸田代理が河野太郎とは。場内からも「帰れコール」や揶揄聞こえなくもなし。

*1:東京府立三女の生徒だつた清次郎ファンの舟木芳江(石川県出身の海軍少将舟木錬太郎の娘で、のちに中野要子の名でプロレタリア演劇女優)を半ば強引に誘ひだし徳富蘇峰に仲人を依頼するため泊まりで葉山に向かふが、帰途逗子駅で皇太子(昭和天皇)の葉山御用邸行啓を警備中の警官に怪しまれ尋問、検束された事件。