富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

白石加代子〈百物語〉

陰暦十二月初八。気温摂氏2.8/9.4度。曇。最低気温が氷点下にならないだけで暖房のない室内など暖かいと思ふ。午後に水戸芸術館。白石佳代子の独り語り〈百物語〉とアートギャラリーで〈佐藤雅晴追跡〉をもう一度見てみる。

f:id:fookpaktsuen:20220110202120j:plain
f:id:fookpaktsuen:20220110202123j:plain

白石加代子〈百物語〉はこの傘寿迎へた役者の、その声量と動きの機敏さに言葉もない。30年近く前に始めた百物語は数年前にその壮大な企画が済んだがアンコール第3弾で昨年コロナで中止となつたものの仕切り直しで今回はその巡演には入つてゐなかつた水戸も加えられ今回の巡演の初日が今日の水戸。序段に夢枕獏〈ちょうちんが割れた話〉で記念すべき第1話の筒井康隆〈如菩薩団〉から中入り後は半村良の〈箪笥〉で最後に和田誠〈おさる日記〉の4話。〈ちょうちん〉は怖いといふほどでもなく〈如菩薩団〉はその面白さがアタシにはわからない。あれは活字で読んだ方がまだ面白いかもしれない。〈箪笥〉はその能登方言と白石加代子の演出力はすごいが、この話の怖さもとても観念的なもので「怪談」ではないだらう。〈おさる〉は今日の話の中ではいちばん怖いだらう。ご本人も舞台で語りの後に「今日は本当にこの話が怖いと思った」と仰つてゐたが、これはアタシは読んでゐたので初めての時の怖さがなかつた。

〈佐藤雅晴追跡〉は何度見ても飽きないどころか一度目より更に面白さが増す。ご本人は上顎癌の闘病のなかで創作活動を続けられたがシーンの机上に必ずのやうにタバコと灰皿があつてご本人はかなりの愛煙家で、それも病因だつたのかしら。同じ動きの反復、永久運動、表と裏、不条理、刹那……「存在の不在、不在の存在」といふテーマも含めて、とても勝手な印象ではあるけれど佐藤雅晴さんにはドイツといふ世界は彼の創造にとつて適合する環境であつただらう。一連の作品を見ながら一つ一つの前に立つて自分の何かしらの抽斗が開いて、そこからどこかの遠い過去や創造の世界に誘なはれてゆく。会期中にもう一度くらゐ見ても良いかもしれない。

夕食で家人と二人で久々にワイン(イタリアはプリマテッラのプリミティーヴォ 2017)を一本空ける。

シンプルの正体 ディック・ブルーナのデザイン

酔ひ心地よく夜9時にはベッドに入つてしまつて『シンプルの正体 ディック・ブルーナのデザイン』を読む、といふか眺める。ディック=ブルーナーは何といつてもミッフィーが日本では大人気だが、この本にもあるブラックベアのシリーズこそ白眉。ブルーナーがピカソやアンリ=マティスの影響を受けたといはれて、この本で一連の作品を続けて眺めてゐるとさまざまなところにそれも納得。この表紙にもある闇や、その限りなく線を削ぎ取る様式が美しく彼が日本の文化を愛したこともなるほど納得できるところ。なぜこのブルーナーのデザインを見てゐるとこれほど落ち着くのかしら。佐藤雅晴もさうだけれどコロナの時代にあつてかうした世界に安心を求める心がやはりあるのだらう。

f:id:fookpaktsuen:20220112094958j:plain

蘋果日報、立場新聞、衆新聞と民主派系メディア潰しは順調だが党紙・大公報が今度は『明報』の報道姿勢を非難するに至るとは。明報は査良鏞(武俠小説家・の金庸)が1959年に創刊で香港メディアが中共系か国府系かの時代から良識的中立で香港代表するクオリティペイパーに。民主派系で政府に批判的なメディアが一掃されたことで中立紙が今度は反政府的と映る。中共であるから政府系メディア以外要らないわけでシンガポールだつて反政府系メディアなんて存在しないのだから香港がさうなつて何が悪い?

 古谷浩一(社説余滴)「人民」って一体誰のこと? :朝日新聞

敵と見なされた人々は封殺される。そして、それは「ごく少数をたたくのは大多数を守るため。独裁は民主の実現のため」(白書『中国の民主』)だと正当化されてしまう。
香港では立法会の選挙から民主派が排除された。それでも中国の高官が「民主的だ」と強弁するのは、敵を取り除いた選挙がまさに「人民の民主」の実現だからにほかならない。
「人民内部では民主制度を実行する。選挙権は人民だけに与え、反動派には与えない」。毛沢東は1949年にそう言っていた。

f:id:fookpaktsuen:20220110080355j:plain

f:id:fookpaktsuen:20220110114512j:image

日本では感染対策で感染場所の公表も営業自粛や時短等に応じないとか十分な感染対策に不備といつた場合にいはゞペナルティ的に公表される場合があるのだが香港では防疫優先で情報公開が容赦ない。 キャセイパシフィック航空(CX)による感染拡大を叱る党紙大公報。CXは操縦士やCAが香港での行動制限に従はず感染者が市中徘徊で株を撒き散らしてゐるらしい。

f:id:fookpaktsuen:20220110080353j:image

今回の「百人宴」事件では、その宴会場に来臨の感染者(#12838)と同居する母(#12821)が12月31日に天后の飲食店(陸田園)で友人(#12754)と会食してゐて、この#12754が今回かなりあちこちで病毒撒き散らしださうだが、その#12754の感染元がCXのCA(#12676)なのであつた。その感染ルートに「百人宴」もあれば紅磡体育館での歌手・張敬軒のコンサートもあり二人の幼児の通ふ幼稚園でのクラスターも懸念されてゐる。

f:id:fookpaktsuen:20220110123356p:plain

キャセイパシフィック航空から張敬軒のコンサート会場まで。何の関連もないやうだが大いなる勘ぐりでいへばCXは今でこそ中国国際航空の資本も入つたが英資Swire財閥の牙城で一昨年の香港抗争ではスタッフが「反政府不法暴力行動」に参画するも雇用者側が容認のやうな態度に圧力かゝり、さうした黒暴連中解雇処分に。張敬軒も体制批難すれば大陸市場で干されることで口を噤むが得策の香港芸能界にあつて民主化運動に積極的発言あり。今回の年末から年始の紅磡での連続コンサートもポスター一見すれば明らかなやうに「香港加油!」で「こんな感染拡大時に大規模コンサート開催とは何事か」と当局の顰蹙かふものであつた(感染者来場確認後の日程は中止となつたが)。さうしたCXや張敬軒への顰蹙感で相対的に「百人宴」の深刻さも薄まるといふ効果もなきにしもあらず。