村上春樹の顔をしたリトルピープルたち

fookpaktsuen2017-02-28

農暦二月初三。久ヶ原Ｔ君尊宅新築完成入居の報に何を贈ろうか、清酒なら何にしようかと出雲大社の御神酒で八千矛。出雲で酒元の旭日酒造通販してをらず米村本店に注文し宅急便での集荷が昨晩六時と連絡受け今朝何気に宅急便で追跡すると御神酒が羽田到着済み。12時間も経つてゐないのに。羽田から久ヶ原だから自転車でも配達できる距離だが昼には配達。ヤマト運輸で従業員の過労緩和が話題になるが本当にご苦労さま。お届けといへば新井一二三『我和中文談戀愛』（台湾・太田出版）が一二三さんご本人より届く。二年前に実に二十年ぶりだかで再会した一二三さんだが、その年に出版された『獨立，従一個人旅行開始』にアタシが自分でも忘れてゐたやうな一二三さんとの物語りでの話題、旅行について「幼いころ自転車で隣町への遠出、バスで祖母宅への小旅行、小学生のときに従兄とのユースホテル泊まつての国内旅行、大学の時の中国放浪……と旅は続くが自分にとつての旅は実は小学生の時からノウハウも感動も（いい意味で）同じで人間は（いい意味で）成長なんてしない」といつたやうな話を紹介してくれてゐて恐縮したが、この度上梓の『我和中文』には２つの話に富柏村が登場してしまひこそばゆいかぎり。一つは羽仁未央さんの思ひ出話。90年代に返還前の香港で何度もよく痛飲した仲。そしてもう一つのお題では80年代の仙台から一二三さんとアタシの不思議なご縁。実際に会つたのは仙台で一度か二度、ずつと飛んで九十年代の香港で再会となるが、アタシが当時、一二三さんがトロントから香港の雑誌『九十年代』に連載してゐて、それを読んで編集部経由で手紙を送つたこと、アタシはすつかり忘れてゐたが一二三さんがそこまで覚へて書いてくれてゐた。返還前に一二三さんは東京に戻られ、その後の再開が二年前に劉健威兄の留家での会食となるのだが、確かにアタシが香港に移住する前に仮住まひしてゐたのが国立の谷保で一二三もずつと国立にお住まひで偶然とはいえご縁あり。それでも付き合ひが頻繁かといふとそうでもないアタシのことを物語つてくれた上に、そこで〆に書かれてゐる、アタシにとつては最高に嬉しい一二三さんの一言は、自分が亡くなつたら送辞をアタシに書いてほしい、と。それはその場でアタシこそ一二三にお願ひしたいと即答したが「気心の知れた仲」といふのがまさにこれなのか。それにしても一二三さんほどの人にさう言はれると嬉しくないはずもない。この三頁の記述はそのまゝアタシへの弔辞になるわ。早晩に金鐘。Island Shangri-laのなだ萬に早酒独酌。酒は魚沼の鶴齢。海鮮丼（小）なるもの頼んだら先に焼き海苔供され、それもタバコ箱大の焼き海苔が数へたら28枚……何かの間違ひか。海鮮丼の具とシャリで手巻きでもして頬張る趣きらしいが何とも一流であるはずの日本料理で異文化体験。尖沙咀。香港文化中心。チェコのバルノ国立劇場のオケと合唱団でヤナーチェクづくめの音楽会。当然のやうにシンフォニエッタから始まり合唱曲のカンタータ『永遠の福音』で中入り後は『グラゴル・ミサ』。シンフォニエッタのあのトランペットのイントロが聞こえた瞬間に思はず首都高３号戦で池尻大橋あたりから渋谷に向かつてしまふ感覚に襲はれ「村上春樹の顔をしたリトルピープルたち」が「ヤナチェクヤナチェク、ヤナチェクヤナチェク」と掛け声に合はせアタシの耳に入つてくる錯覚を覚へる。嗚呼……。ハルキムラカミは困つたもの。