富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

日本の一番長い日

fookpaktsuen2015-08-30

農暦七月十七日。朝からの雨歇まずジムのトレッドミルで走る。昼に半田めん啜る。午後に近くの映画館で『日本の一番長い日』見る。帰宅して見たNHK晩6時のニュースはトップニュースはスズキ自動車の独VW社との提携解消で「国会前」は野党党首の演説のみ。7時のニュースはバンコク爆破の犯人が昨日逮捕されましたが「今日も取り調べが続いています」で二つ目がスズキ自動車、やっと3つ目で国会前。現状のやうな不安定な時代で(って実はこれまでのどの時代よりも安定し てゐるのだが)ダウンタウンの松っちゃんのやうに「反対と言っているだけで対案がない」といふ意見もあるが尾木ママ曰く「対案を出すべき」といふ論点の根本的間違ひは「この法案自体が憲法違反であること」といふのはとても明解。樋口陽一先生は若者たちの運動に「一人ひとりが自分の考へで連帯する、まさに現憲法が謳ふ個人の尊厳のありやうです、憲法が身についてゐる、といふことです」と。寝しなに入江相政日記の昭和廿年の三月大空襲から終戦まで再読。
▼日本のマスコミが国会前の報道反応鈍いなか蘋果日報は速報で
日本民眾今午發起百萬人大遊行,在全國不同城市舉行反安保法案示威,東京國會議事堂附近有大批民眾聚集,抗議首相安倍晉三強推安保法案。示威規模之大,是近年罕見。不少網民上載遊行照片,見到大批民眾「包圍」國會附近,現場可見人頭湧湧,地鐵站內亦擠滿人潮,民眾高舉反戰標語,學生組織用擴音器高叫口號,要求廢除安保法案及安倍晉三下台。主辦人士宣佈,有多達12萬人「包圍」國會一帶,從空中片段可見,國會前的大道水洩不通,場面震撼。
と伝へる。かういふ報道は漢文の調子がやはり良い。改めて認ためておくが
憲法第99条 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。
晋三ら現行に不満なら全力をあげ憲法改正を!憲法改正回避は立憲主義の蹂躙でしかない。
▼今日見た映画『日本の一番長い日』(半藤一利原作)は1967年の大宅壮一原作版見てゐると、やはりそれとの比較になる。前作が昭和廿年八月十四日正午の御前会議から翌日正午の玉音放送まで24時間でまさに一日だつたのに対して今回は同年四月に鈴木貫太郎首班指名から四ヶ月が描かれ、だうしても内容が忙しない。今回の主人公は阿南陸相、別役広司が前作の三船敏郎比べればスマートでさらりとしてゐるが平成的には?好演。ずいぶんと優しさが史実以上に?伝はる。和平工作に向け陸軍でかなり難しい立場で映画では理性派の軍人と映るが香港で見てゐると阿南も支那戦線での話になると「いけいけ、どんどん」で所詮、侵略軍の一軍人に過ぎず終戦への和平工作も「國體護持のため」だけかとなる。もっくん演じる昭和天皇はもっと普段の口調から成り切るかと思つたがさうでもない、でもそのまゝ真似したら滑稽になる嫌ひもありか。鈴木首相は前作の笠智衆も味があつたが今回の山崎努のほうがずっとニンあり。最後まで和平工作に反対し宮城でクーデター企図する若き将校・畑中少佐は前作のいかにも血気盛んな若い軍人の黒沢年男に対して今回は大本営ではさぞや断袖分桃の誉れ?といふほどの松坂桃李、後半はかなりテンション高い演技。汗をかいてこなかつた大本営の若き将校らが将棋の如き基盤上の計画だけで戦況把握したつもりでいかに狂信的だつたか、はまるで今日の新自由主義の官僚ら見るが如し。内閣書記官長(迫水久常)が前作の加藤武と今回の堤真一ではあまりに印象異なるがトリックスター的には同じ役回り。木戸幸一矢島健一)は前作の中村伸郎の方が印象強いのは今回この元老があまり話に関はらいため。藤田尚徳侍従長麿赤兒がニンあり。前作の青野平義がスマートさでは大したものだつたが何処か神がかり的な役柄はさすが赤兒。アレクサンドル=ソクーロフ監督の映画『太陽』(2005年)では佐野史郎が同じやうに藤田侍従長演じてゐたこと、その昭和天皇イッセー尾形)は小心さや神経質、情緒不安定などお上の内面の葛藤かなり演出されてゐたこと彷彿。それに比べ今回の昭和天皇はあまりに理知的で安定。気になるのは侍従たちがぴーちくぱーちくと今回まるで紫禁城の宦官の如き「ご機嫌やう」ぶり。確かに市井に比べれば食料も豊富で終戦の一ヶ月前とて侍従宿舎では愉快に過ごし藤原義江、勝太郎のレコード聴いてゐるのだが(入江日記)……徳川義寛侍従は前作は小林桂樹、今回はかなり目立つ役柄を狂言師の大藏基誠はどこか古川ロッパのやう。前作では「これぞ侍従」といふ品格の児玉清が戸田侍従役であつた。そして何より不思議なのは入江相政が袋正→茂山茂いずれも、あまりにも長躯英俊なる相政さんには似ても似つかぬこと。日記読み返しても相政さんは二二六事件の際の奮闘に比べると終戦直前は塩原に若宮のお供が主の任務で葉月十四日に上京してポツダム宣言受諾決定までの緊張も知らず同僚に「温泉で肌もつやつや」と揶揄されるばかり、相政日記読むと八月十四日の深夜から翌十五日未明までは近衛兵の動き怪しいと察しつゝ御文庫各所の鉄扉厳重に閉め待機した程度で、後になつて近衛兵らが御警衛内舎人武装解除求めたと聞いた程度、映画に描かれる侍従も巻き込んだ混乱とはだいぶ印象に違ひあり。今回の作品は「女性の存在」も印象深い。前作でも陸軍大臣官邸の女中(お絹さん)新珠三千代キムラ緑子はゐたが今回はそれに加へ皇后、女官長、鈴木首相夫人たか(西山知佐)、首相長男鈴木一の妻、NHK放送局員・保木令子(戸田恵梨香)ら。今回もかなり地味でも個性的な俳優に政治家、軍人演じさせてはゐるものゝ前作の山村聰の米内光政、宮口精二東郷茂徳、森赳・近衛師団長の島田正吾は強烈な印象が今でも。情報局総裁の下村宏は志村喬→久保酎吉いずれも面白い。横浜警備隊長・佐々木は今回松山ケンイチ抜擢は前作が天本英世の狂気的演技あつたがゆゑ(だがやはり死神博士である)。他に前作で神山繁宮内庁総務局長)、浜村純(同・庶務課長)、北竜二(侍従武官長)、藤木悠(侍従武官)や東京放送会館警備の憲兵中尉の井川比佐志など脇役まで前作はどこまでも個性的。今回の作品で特筆すべきは前作には登場しない東条英機元首相になりきりの中嶋しゅうであらう、背丈まで本当にそっくりそのまゝ。総じて今回の作品は前作に比べると、やはりスマートといふかさらりとした印象。前作では戦争体験者ばかりなのが今回は辛うじて戦中に生まれたか戦後世代。だうしても四月からの歴史のお浚ひも必要で通史的にならざるを得ず。また海外でこの作品を見てゐると「日本の一番長い日」も、すでにこの時期までに和平派が実質的には主流となり大君の判断も御聖断仰ぐまでもなく決まつてゐた中でポツダム宣言的なものが出れば受諾は必須といふ状況では、いくら陸軍の若手将校らクーデター企んだ攻防ありとて、あまり大げさに「日本の一番長い日」といふよりポツダム宣言といふ結論出てゐながら玉音放送まつ「待ち」が何とも長かつた一日と思ふ。