富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

八月五日(木)曇り時々小雨あり。広東省東莞訪れる機会あり参観団に参加。香港島より西海底隧道潜り青衣島抜け汀九橋渡り大欖隧道潜ったバスは新界の深いところ走り落馬州の境界まで四十分ほど。落馬州といふとかつて「竹の窓帷」の向こうの共産中国見渡す展望台の印象だが現実にはかつて荒涼とせし丘陵が今ではビル建並ぶ都市の光景。寧ろ香港側が米埔自然保護区に接するこの一帯の開発避けて田舎の風景。落馬州の境界は香港側でバスを降り香港出境し運転手が乗ったまま出境手続き済ませたバスがImmigrationの先で待っており、それに乗り数百メートルで境界をば越えて再びバス降りて中国の入境手続き済ませ……と面倒だが二十分ほど。中国に入り(実に一年半ぶりか)深センから廣州結ぶ高速道路の高架道に入ればいきなり貨物自動車高速から身を乗出し貨物車と接触のバンは横転の事故現場(写真)。東莞は深センをぐるりと囲む広域都市にてかつては誰も知らぬこの場所も今では広東省で最も大規模なる工業地域にて工場街続きその処処に商店など林立の市街地あり。本日の訪問先はマブチモーターの莞城協益電子廠(広東第三工場)。小型モーターで世界中のシェアの過半数を占めるマブチモーターこの広東省一帯6工場で三万五千人の工員雇用し年間十一億個の小型モーター生産。これが現在国内生産ゼロのマ社の生産の六割といふ主力生産拠点。そのうちこの広東第三工場は一万一千人で四億個。つまり日に百五十万個ほどの生産続ける。香港への進出はかなり早く1964年。これは当時香港が世界の玩具生産の七割!占め小型モーターの需要高く日本からの輸出を現地生産に。香港の産業構造の変化や人件費の高騰などあり86年より広東省での生産に意向。会社側の説明によれば「コストが安いから中国か」と思われるのは遺憾でありマブチの求める高水準の生産が十分な生産効率で維持できるだけの労働力が確保できるのがこの工場の存在意義と。工場内見学させていただくが確かに数千人の所謂田舎出の「女工」が黙々とかなりの効率で就業している様に圧倒される。マブチのモーターといふとどうも玩具だのの印象が強いが印刷機からCD、MD、車のドアロックまで広汎な分野で利用されており携帯にも、と言われ携帯電話のどこにモーターがあるのかと思えば振動機能がそれ。工場で立派な日本食の弁当頂く。午後は同じ東莞でも珠江に面した虎門に向かふ。虎門は阿片戦争で有名な林則徐が阿片焼いて中国からの阿片一掃に着手した記念すべき場所でこの虎門の砲台より英国などの艦隊砲撃した場所。各企業の工場とその工業従事者の住宅と商店街がそれもここ十年でできた殺風景な市街が延々と続く東莞にあってこの虎門だけは歴史に名を残す古い町でその街の佇まいにどこか安堵。まず虎門の阿片戦争博物館のうち虎門林則徐記念館訪れる。清朝末期の中国が外国列強に植民地化される中でこの阿片戦争が中国立上がる契機になった記念すべき場所なわけで「愛国主義基地」の看板ずらり(写真)。此処が愛国主義教育の拠点になるのはわかるが、なぜ各地の大学だの教育機関がそれぞれ此処を愛国主義拠点にしている看板を此処に掲げねばならぬのか。結局「ウチの学校は政府の指導下こうして愛国教育に力を入れています」といふ意思表示。その愛国主義拠点の記念館もその傍らは、珠江に流れ出ずる、市街流れる川の汚染甚だしく悪臭立ちこめる。ゴミも川に投棄(写真)。かつての東京の新川などこれよりひどかった、と同行のA氏。珠江の河口にかかる虎門大橋(写真)の真下が威遠砲台旧祉。英国艦隊に向けた砲台の跡地。この河口の海岸に海戦博物館あり。内容は虎門林則徐記念館と同じものを新しく豪華に見せるだけだが場所は珠江河口の整備された広大な敷地にあり高速道路から降りてすぐ、といふのも実はここが江沢民君の東莞の開発視察に当てて作られた施設だからであり虎門大橋にも他あちこちに江沢民の揮毫多し。厳密には東莞のこの工業都市化も江沢民といふより登β小平の施工だが……。この博物館の展示室に一角に「反毒」展示場あり。麻薬について国家が麻薬をば撲滅しようと麻薬の害毒を展示し国民に啓蒙教育。阿片、コカイン、覚醒剤……でとってつけたように大麻。かつての美人女優が麻薬中毒で脳までやられ最後は自害する様だの過度の麻薬摂取での発作死など生々しき写真。どうもこの写真展示といふのは写真見せられると「なんと虐い」と思うのだが問題は写真にあるキャプションを信じるわけで、もしかすると単に心臓発作でショック死した者の写真に「麻薬の過度摂取でのショック死」と書かれるとそう思うのが写真の怖さ。麻薬被害の防止を否定するわけではないが……。展示の白眉はマネキン人形つかった「麻薬の悲劇」の現場(写真)。麻薬に溺れ働きもせぬ自棄の夫と、子供抱え危惧する妻の図。夫の中毒ぶりも妻の怯えも表情がやけにリアル。このほか市街の裏町で麻薬の売買する若者らの再現人形もあり(館内写真撮影禁止で警備員の目を盗んで撮影したがブレて失敗)。麻薬についてかなり詳細にわたり原料から製造、その害まで解説あるが、当然、麻薬密輸で財をなした人の出世話だの、大麻一服してリラックス中の中島らも氏の写真といった展示はない。東莞などこうして実際に市街目にするのは初めてのこと。予想以上に工業都市化著しくここに数百万人の「女工」が中国各地より集められ中国経済成長の様。高速で九十分ほどで深セン、四十分で香港島へと戻る。

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