富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

六月廿九日(火)酷暑。早晩に、晩といふのも烏滸がましき丁度「吉田健一が銀座の蕎麦よし田に来るころ」に北角の寿司加藤。或る仕事片づき独り自らを慰労。店の開くか開かぬかの仕込みもまだ終わらぬ頃にお邪魔して恵比須麦酒小瓶一本で喉を潤し酒は峰の白梅をコップ酒、つまみは赤貝、これだけで他の客が現れ店も忙しくなり始めるころにさよりと小鰭でも2かんつまんだくらいで「それじゃ」と退く……とこれなら格好もいいが現れた客二人連れ、みちのくのお国言葉も余に懐かしく、そのうち一人は二、三年前にトレイルでご一緒したこともある御仁でつい歓談あり、それじゃ帰ろうかと思ったところに隣に来たお客が余と同年代でハルビンに仕事といふ香港には珍しき方で八十年代初めの同じ頃に北京から旧満州三省に旅したも一緒、ついハルビンの街の様子など話初め「日の暮れぬうちに」のはずが一更が二更、二更が三更と結局店仕舞ひでご亭主の閉めた後の一杯まで相伴に与る。本晩FCCにて天安門事件のフィルム上映あり不見。
▼この季節、香港の食の味覚は何といっても黄油蟹。蟹といへば上海の淡水蟹とこの香港の黄油蟹。ではこの黄油蟹といへば具体的に何を指すのか余も今ひとつわからぬままでいたが、ある雑誌見れば、この蟹、珠江河口より流浮山の一帯、丁度、珠江の河水と海水の混わる辺りに生息する蟹にて、農歴五月から八月が食べ頃。ふつう膏蟹(雌蟹)が産卵期にこの珠江河口の浅灘に現れ、いわゆる味噌の部分が夏の暑さにて蟹の成育中にクリーム状に変質し珍味たる黄油蟹となる。これが青蟹公(雄蟹)と交配すると蟹膏(蟹味噌)もち膏油蟹と云われる。高価な珍味にて高級店これ供すがとくに有名なのは東海海鮮酒家系列の高級店海都海鮮酒家。この雑誌によれば或る客よりの投書でこの海都に6名HK$2,680の黄油蟹コース食したところ蟹の甲羅割れば黄油少なく殆どが蟹膏に落胆したが隣の卓の常連客に給仕が「今月は黄油蟹はまだ熟れておらず来月が食べ頃」などと話すを聞き店のこの対応に不満あり。黄油蟹の場合、供されて客の前にて甲羅を開きじゅうぶんな黄油あること確認が肝腎、もし不満あり店も認めた場合は交換も可だそうだがこの客はそれを知らず。店側の説明では給仕が言及したは黄油蟹についてに非ずこのコースに含まれる鮑魚について、と。この客には店から再び黄油蟹コースの食事供されることとなる。いずれにせよ気になるは海都酒家の客の待ひで、この店、常連客への諛いに比べそれ以外の客への横柄ぶり気になり余は足を向けず。

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