富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

六月廿八日(月)溽暑甚し。晩に地下鉄にて目にした光景。頭髪桃金色に染めタンクトップにブーツは金属の尖がりいくつも勃つ所謂「田舎パンク」風の若者あり。友とでれでれと語らふが一見ヤクでもキメてるのだろうか必要以上にでれでれっとして呂律にも多少怪しさあり。手に持ったウォークマンの耳筒は地下鉄車輌の床に落ちたも気づかず。電車尖沙咀の站に入り彼ら下車にと席を立つ。向かいに坐す余を含む乗客の誰もがその耳筒忘れらるるを見てもつい「関わりたくない」的な若者の姿だが一人のオバサン「ちょっと、それ!」と注意せば若者「あっ」と気づきイヤフォン手にして下車せむと。だがまた若者戻る挙動不審。何も忘れ物もない筈がよく見れば座席に彼がポケットから落としたのであろう煙草のセロファン包装の丸めたやつ。若者「ゴミ、ゴミ」とそれを手にして降車す。ずっと状況見ていた乗客は余も含め「ヒトは見た目で判断しちゃいけないね」とゴミ片づける若者の道徳心に感心したのは確か。だがふと思ふはあのゴミへの執着は彼の道徳心ならよいが、もしかすると(かなりの確実で、あの行動の感じからして)ドラッグによる「何かへの執着」かも。その場合余り賞められたことにあらず、と思いつつ、この車輌にはもう一人かなり気になる、といふかこちらは迷惑な女性あり、乗車する時から延々と携帯にて大声で会話続ける。午後の九時半までずっと仕事していたであろうことは確か。その残業に忙殺されたままのテンションで帰宅途中。隣に坐られその声の五月蠅さに閉口し思わず余は席を移ると彼女もそれに気づいたのか、といっても声を抑えるほどのデリカシーある筈もなく余を睨み会話続け漸く会話終わったかと思えば即座に次の相手に電話が二、三度と続く。携帯での電話といっても携帯は手にもちイヤフォンマイク使っての会話、手や腕のゼスチャーも大きく迷惑甚だし。客観的に見ておれば携帯での会話といふより一人で漫談か、だがその女性の余りの「入りっぷり」にまるで霊の乗り移った恐山のイタコの如し。携帯電話中毒のトランス状態。電磁波にてかなり脳に異常きたしつ。今さらイヤフォンマイク使っても病状回復なし。前述のおそらくドラッグでキテしまっているのだろうが他人に迷惑かけずゴミ拾ふ若者と後者のイタコのどちらが極端な話、社会的迷惑かといへば後者とつくづく感じ入る。二更にFCCにて遅い晩食。医師R君と遭い談話三更に至る。
▼昨日のSCMP紙にシドニービエンナーレの紹介記事あり。何といってもロシアのAES + F(ビエンナーレでの紹介、オリジナルのサイト)が注目のマト。AES + Fといへば自由の女神にモスリムの女性のベール被せコーラン持たせたコラージュ(写真左)にて一躍有名に。これはIslamic Projectといふ世界のイスラム化イメージの一連の作品。だが今回の出展はAction Half Lifeで少年少女のイメージ起用しての戦争が主題(写真)。どこか印象にある情景で遠き記憶を辿ればなかなか名前も思い出せず、このAES + Fの少年少女は実写だが人形で辻村ジュサブローだの四谷シモンの名前は出ても仏蘭西の八十年代に当時のパルコ的な取り上げで……とかなり永く記憶辿り漸くベルナール・フォコンの名前思い出す(写真右)。このAES + Fの世界、ピンクフロイドにも通ずる印象あり。印象深し。今になってピンクフロイドが当時いかに前衛であったか、今になって現実的にピンクフロイドの歌った不安が理解できる感あり。

富柏村サイト http://www.fookpaktsuen.com/