富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

Sociedades controladas en Caracas y Kobe

辰年十一月初八。摂氏0.9/11.4度。晴。朝のNHKのラヂオ「著者からの手紙」で高山裕二さんが自著『ロベスピエール 革命を信じた「独裁者」』について語る。ロベスピエールといへばフランス革命ジャコバン派の領袖。民主革命を指導したが権力掌握すると独裁となり反対派粛清など広がり恐怖政治となり最後は処刑された、といふこと。それに対して民主主義の理念の重要性を説く上でロベスピエールは改めて読み直しが必要なのだといふ。21世紀になつて今もなお、どころか今でこそまた新たな独裁、ファッショのやうな焦臭い流れが生まれるなかで、この見直しがどのやうなものなのか、は一読してみないと。偶然にも韓国大統領による政局不安定に対する非常戒厳もあり。


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何かを整理整頓してゐるときが一番楽しい。郵便料金値上げで謂はゆる「差額切手」も買はないといけないし切手を整理するのに収納ケースの間仕切りが足りなかつたので厚紙で間仕切りを作つたら上手にできた。かういつたことにマメだつたり物事をきちんと整理しないといけないといふのは良いことのやうだが、さういふことに執着する人は意外と危ない人格なのかもしれないと最近思ふ*1

家人と午後あまや座(瓜連)へ。このところ見たいと思ふ映画があまや座によく掛かつて高齢者は1,100円で見られるのでありがたい。本日は二本連続となり一本目がこちら。自分のグスターボ=ドゥダメルは2015年に香港でLA交響楽団の演奏を聴いてゐた。

ドゥダメル指揮の羅府でマーラー6 - 富柏村日剩20150319

それでも家人とも/\SBYO(シモン=ボリヴァル=ベネズエラ青年オケ)の演奏を聴いたやうな朧げな記憶あり日記を紐解けば2008年のザルツブルク音楽祭にSBYO招聘された際の映像を2011年に映画で見てゐたのだつた。

香港金盃 California Memory 的中 - 富柏村日剩20110227

この映画(Viva Maestro! )は印象的な場面多いがアタシはそのなかでもLAからベネズエラに戻つたグスターボがカラカスにあるSBYOの施設を訪れ、そのときのメンバーとの交流で即興でドボルザークの新世界を演奏する場面。ぎこちない演奏なのだけれど何とも感動的。

この映画は本来はもつと素直に世界的指揮者にならうとするグスターボの当時の活躍とその誰にも真似できない指揮者としての神通力のやうなものを描くはずだつた。しかしベネズエラチャベス大統領によるが就任。チャベス大統領による社会主義化と経済の国家管理など体制強化がありチャペスを襲つたマドゥーロが独裁政権となり社会混乱、治安悪化など深刻に。そのやうな状況にあつて、それまで政治には距離をおいてきたグスターボもついに声をあげる。

Gustavo Dudamel Tells Venezuelan Government ‘Enough Is Enough’ - The NY Times 20170504

これによつてグスターボはベネズエラに帰国できない状況に。

Venezuela Musicians Rise Up After Violist, 18, Is Killed at Protest - The NY Times 20170610

SBYO出身の若い音楽家も市民による抗議デモに参加して軍警察の弾圧で犠牲に。

Opinion | A Better Way for Venezuela - The NY Times 2017719

グスターボは祖国のために更に現政権への抗議を表明。

Venezuela Cancels Gustavo Dudamel Tour After His Criticisms - The NY Times 20170821

グスターボの指揮で世界中を巡回する予定だつたSBYOの公演もマドゥーロ政権によつて取り消されてゆく。さういふ状況でこの映画は政治的な「なぜ?」を問ひかけるドキュメンタリー映画となつた。続いて空音央監督のこちら。上映時間ぎり/\まで客がアタシたち二人なので貸切か?と緊張したが上映開始直前にもう一人若者が来館。この映画、コン=インヤンといふ中国系の監督が日本を舞台に撮つた作品なのか、と思つてゐたら父親が坂本龍一だとはあばらかべっそん。

この映画、何が印象的か、といへば校長役の佐野史郎の好演とそのロケーションの妙。佐野史郎はおそらく「佐野史郎自身が最も嫌悪感をもつであらう人格」の校長だからこそ本当に陰険で太々しく演じられたのだらう。後半その校長がどこか愛着がもてるやうに思へてしまふのも面白いところ。そしてロケーション。何となく「渋谷かな」と思へたのだけれど校舎内と高校生たちのマンションとかの室内を除けば外のシーンが歩道橋の上だつたり、学校から出るとペデストリアンデッキに繋がり、平地の路面を歩いてゐても頭上や背景に高架の鉄道や自動車専用道路が映り込む。主人公たちの置かれた息苦しい社会、自然災害や外国の脅威から社会の安全と安定を守るため!といふ非常戒厳の常態化といふ「近未来」を描くとき、このペデストリアンデッキの上は地べたに立つてゐない不安定感があつて自由に歩いてゐるやうで決められた方向の選択しかないわけで、高架道がのしかゝつてゐる都市の圧力そんな情景がずつと連続してくるのがまことに視覚的に巧妙なものになる。映画を見ながらロケ地は渋谷あたりの東京だと思つてゐたけれど高架鉄道のこれでもかといふほどの堅牢な高架下の構造物など見てゐて、それが大地震の災害のあとの強靭化による再建であつて「神戸か」と思つた。阪神淡路大震災から年が明ければ間もなく20年。偶然なのだけど兵庫は知事選でも不思議なことが起きてゐる。

神戸ロケ作品『HAPPYEND』ロケ地マップ | 神戸フィルムオフィス

ベネズエラ独裁国家化と社会不安、治安悪化。日本でこの映画で描かれる近未来は大地震発生といふ予知により非常事態宣言での社会管理。まるで状況は一緒。同じやうな力が同じ方向に向かつて輻輳していつてゐるのかもしれない……否、本当にさうなのだ。

*1:フランス革命ジャコバン派であつたりとか革命後の独裁者のやうに(最悪の場合、ポルポトだとか)自分の思つた通りにならないことに対して思つた通りにするためにはかなり手段を選ばないやうな。