香港で変異型ウイルスに感染してゐた男性が感染後8日市中漫遊してゐたさう。大公報と蘋果日報は同じ記事だが蘋果は記事本文読まないと、この感染者が男性でインド籍だとわからないが大公報は見出しから「印度男」。かうしたところで人権感覚の有無が問はれる。
▼本日農暦三月初七。昨夕から降り出した雨は今朝までに45mmの降雨量。今日は終日強風で最大瞬間風速は18.9mであつた。未明に目覚めて小林信彦『名人 志ん生、そして志ん朝』 を読む。落語の〈寝床〉の不条理さに気づいてゐた人は小林信彦をして「ぼくの知る限りでは」と山下洋輔氏の名前が上がりエッセイ「ベートーヴェンは笑わない」で、それに触れてゐる、と。昨晩まで読んでゐた本のことが出てくるとは。
昭和36年に志ん生は倒れて奇跡の復活を果たしたが「病後」はもう昔の志ん生のやうなキレはなかつた。その志ん生が倒れたときのことは知らなかつたが昭和36年12月15日で、この日は読売巨人軍の優勝祝賀会があり志ん生はそこでの営業。川上監督送迎の車が渋滞で遅れ監督を待たず宴会は始めることに。志ん生が宴会場に設た山台の高座で一席始めるタイミングで巨人軍選手の家族めらがバイキングで料理めがけて皿をもつて押し寄せて落語どころぢゃない。志ん生はそこで喋り始めたがかーっとなつて間もなく意識を失つたのだといふ。つまり志ん生といふ落語家をダメにしたのは巨人軍であり讀賣新聞といふことになる。それにしても昭和36年末で岩戸景気が終はる頃。巷間ならまだしもプロ野球で巨人軍の選手の家族ともあらうものが配給ぢゃありまいにパーティで料理に群がるとは何とはしたないことなのかしら。ところで直接、志ん生と志ん朝に関係ない筋なのだがジョン=レノンが歌舞伎座で歌右衛門の〈隅田川〉に涙したといふ話(木村東介)。
水戸の瀬戸物の老舗・十銭屋さんでいたゞいたお餅を焼いて頬張る。これがじつに美味かつた。あまりに強風で外に出るのも厭ひ肩の凝らないところで水道橋博士の『藝人春秋 』と『藝人春秋2 ハカセより愛をこめて』を読む。
もう皐月賞である。競馬新聞ではアドマイヤハダル、エフフォーリアとダノンザキッドを選んでゐるが1番人気のダノンザキッドを外してタイトルホルダーを入れて三連単。エフフォーリアが横山(武)騎手の見事な手綱捌きもありデビューから無敗のまゝ4連勝。近年ではディープインパクト(05年)、サートゥルナーリア(19年)とコントレイル(20年)に続く快挙。横山騎手は祖父からの三世代で皐月賞。これも大したもの。ダノンザキッドはブービーでタイトル2着、ルメール騎手のハダルが最後直線で3着に食ひ込むか!と息を呑んだが伏兵のステラヴェローチェが3着。
このChristofleのワイングラスはもう30年以上使つてゐるのだつた。細かい傷一つないのだから我ながら大したもの。今晩はこのグラスで「気分は維納」でGrüner Veltlinerの白葡萄酒をいたゞく。
旺盛に執筆活動続ける畏友の一二三同志がちくま新書で『中国語は楽しい』上梓された。これも今日やつと読めた。全くの中国語初心者から中国の政治思想に興味あるレベルの方まで楽しめる内容だが特筆すべきは第3章「中国語で「中国語」は何と呼ぶ?–始皇帝と毛澤東をつなぐ中国語史」で、これは中国語といふ言語を俯瞰的に理解する上でとても大切なことが書かれてゐる。そして第5章「漢字の創造は中国版「バベルの塔」という以上の原罪にあたり……」の下り。
世界に冠たる華麗な中国文明を開花させた中国知識人たちを象徴する「漢字」には、不思議なことにその始まりからなぜか一貫して、悲しき予感がしみついているのである。
これはチュウゴクジンが漢字によって授けられたしまつた文明的呪縛。良いとか悪いとかぢゃない。漢字がなかつたら、あんな〈帝国〉は始皇帝から中共までできない。その漢字の呪縛から地理的な幸いで逸脱できたのが新加坡の華人社会であり台湾なのか。香港は粤語表記に目覚めてしまったがために中共🇨🇳に睨まれるわけで。昨年この執筆中に香港の広東語の白話ばかりか「書き言葉」としての普及についていくつか確認があると連絡をいたゞき、それに答えたりしてゐたら、この本のあとがきで香港研究の専門家・倉田ご夫妻に続いて迂生に謝辞をいたゞいてしまひ恐縮するばかり。
▼成田屋のマメなネット投稿で偶然見かけたが倅が十一代目の面影があつて驚いた。この子からすると曽祖父である。歌舞伎といへば日本俳優協会が毎年出してゐる『かぶき手帖』だが2021年版の案内がないので協会に問い合はせたら昨年からの休演続きもあり21年版は休刊とするのだといふ。確かに20年版からのアップデートといへば播磨屋の〈須磨浦〉と海老蔵ファミリーでの演舞場占拠くらゐしかないかも。