富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2011-03-31

三月三十一日(火)薄曇。午後遅く尖沙咀。Z嬢と映画「Peace」(こちら)看る。想田和弘監督の作品は二年前に「精神」看たが前作の重さに比べると「Peace」は人間の生と死に本当に余計な意味づけをせず文字通り「無我」の世界。素敵なドキュメンタリーの制作者。この監督の撮りぶりはアタシの好み。Star Ferryで中環。そのまゝ紅磡行きのフェリーに乗り換へ。かつて香港島と九龍結ぶ交通の基幹であつたフェリーも地下鉄や自動車隧道の充実に押され利用者減で紅磡航路もスターフェリーが1999年だかに油麻地フェリーの営業権継承で細々と運行してゐたが利用者減で本日で廃止。存続望む声も強いが営業継承名乗る他のフェリー会社もなく今日が最後。紅磡、黄埔地区の住民には香港島主要部に渡る便利な足だが中環の埠頭が埋立てで不便になつてからは金鐘などに通ふ会社員など通勤路線として機能せず痛手。今日は運行最終日でかなり利用者多いが普段は昼間など十名なんて当たり前田のクラッカー。紅磡に着き今度は紅磡〜湾仔航路。これも今日が最後。離島航路除くと湾内は尖沙咀と中環、湾仔結ぶスターフェリー、北角と紅磡、九龍城結ぶFirst Ferryのみとなつた……なんて書くと好事家に「北角〜観塘の富裕小輪、西湾河から観塘と三家村行きの珊瑚海船務もあるでせう」といはれるはず。帰宅するZ嬢と別れ中環。FCCのラウンジでご執務とご夕食。湾仔。芸術中心。21:45からの映画祭晩場でチベットのSonthar Gyal監督の“The Sun Beaten Path”看る(こちら)(Trailer)。母を誤つて事故死させた青年の放浪、仙人の如き老人家との出会ひ、贖罪、家族の包容、チベット生老病死……贅肉の一切ないストイックな映像のなかにさうした魂が満ち足りて……。
▼然る著名なる進歩的文化人として名高き自称「国家主義者」某法学教授の今回の震災と核禍についてのコメントを築地のH君より聞く。

  • 今回露わになったのは「国家の不在」。一私企業の東電に対し国家は何ら為す術もない。国家主義者として残念に思うが、しかしポストモダン流の「国家はいらない」「国家はもう関係ない」という議論の無効性も明らかになった。
  • 海外メディアと国内の世論の温度差。これ何なのか。海外メディアの中には明らかに煽りすぎのものも目立つが、国内の危機感のなさもまた異常。
  • 政府や東電だけでない。世論の関心の希薄さは、かつての「一億総懺悔」を思いださせる。「こんなときに批判は控えよう」とか、きわめて日本的な言説だが、それって結局「死ぬときはみな一緒だから」ということでしかない。
  • 下々の民草が、自分の判断を放棄している。一方で支配層も何も考えていないのは「八月十五日」と同じ。理屈ではアメリカに勝てない、原子炉は危険、とわかっていても「まさか、国が滅びるようなことにはならないだろう」「そこまで行く前になんとかなるだろう」と根拠もなく楽観し、結果的にカタストロフを迎えた。同じ歴史を繰り返している。
  • 庶民は、「東大を出た秀才(陸士を出た秀才)なら、それくらい考えてるだろう」と思っているが、実は、エリートは何も考えていなかったし、いま現在も何も考えていない。原発事故によって、東大理学部の失墜は、いずれ明らかになるだろう。
  • こんなときにふだん「国を守るために命を捨てろ」とわめいていた右派、保守派の連中は何をしてるのか。今こそ命を捨ててでも原発を冷やしに行けばいいだろう。「これを機会に憲法改正」とか言ってる櫻井よしこは論外の外。

と。御意。
▼香港中文大学の政治行政系といへば今は香港政府中央政策組首席顧問の劉兆佳教授の古巣。かつて歯に衣着せぬ劉教授の政府批難のコメントは面白かつたが政府の知恵袋となつてからは果たして何処まで役立つてゐるのか不明だが劉先生の後を襲つたのが蔡子強氏(同系高級講師)でこの人の政治批評が面白い。以下、ポスト文革曾の行政長官について元ゲシュタボ保安局長、現立法会議員で保守良識派?のレジーナ葉劉淑儀女史についての蔡氏の批難(昨日の明報)。レジーナ葉がSCMP紙などでポスト土共曾の香港特区行政長官候補といはれる唐英年(政務司)、梁振英(行政会議召集人)のこの二人が特区首長になつたら自分はお仕へ出来る、と大胆に批判。実際に唐と梁の二人に領袖としての器量など期待できぬがレジーナ葉が二人批難は裏返せば「私こそ特首なのよ」が本意。また特区政府の政治下手にも苦言呈し先日の立法会の香港政府予算案審議で否決は御用政党保守派の多くの議員が全人代、政協の両大会に香港代表として参加ゆゑ予算案審議の場に不在、それに加へ本来、賛成に回るはずのレジーナ葉らが欠席、での否決。レジーナ葉は欠席につき「今回は財政司や当局、副局長か次官級から何ら事前連絡もなかった」と当局の根回し不足を批難。だが葉議員の欠席理由が「港島南区で私事」では「政府からの働きかけがなかつたから」をば理由にするのは学校の先生に「宿題を提出しろ、と言はれなかつたから」出さなかつたやうなもの」で議員が議会出席、審議は当然で、かのやうなこといふ者に特区首長たる資格があらうか、と。

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