富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

ミッシャ=マイスキーのチェロリサイタル

fookpaktsuen2010-10-03

十月三日(日)快晴。朝から夕まで野良仕事。一旦帰宅してZ嬢と中環。かねがねarchitectmadeの“bird”(Kristian Vedel作)が一つ欲しくて丹麥まで行かなければと思つてゐたが、実際には東京の麻布あたりで購入できるとは知つてゐたが香港でもGough街のaddictionなる商店で扱つてゐることを知り鳥を一羽購ひに出かけた次第。「一寸、不在」と店の扉にメモ貼られてをり晩のコンサートの時間もあり近くで夕餉済まさうと思つたが日曜のGough街は寂しいもので西洋料理の「銀杏」と向かいに上海弄堂が開いてゐるだけで銀杏でゆっくりも出来ず上海弄堂に入り夕餉。この上海の家庭料理屋、十年近く前だかに天后に出来、老女将の素朴な滬菜が評判となり当時かなり美味と思つたが跑馬地にも分店がすぐ出来、その後ここは何軒目なのかしら。老女将が店で切り盛りしてゐた頃が懐かしい。もうだいぶ違ふ食肆となりぬ。食後、addictionに店員戻つてをり鳥一羽入手。尖沙咀。文化中心でMischa Maiskyのチェロリサイタルを聴く。今回の演奏は娘(Lily)がピアノ伴奏。曲はベートーヴェンモーツァルトの『魔笛』の「恋を知る男たちは」の主題による7つの変奏曲変ホ長調 WoO.46が一曲目。全く期待してゐなかつたマイスキー嬢が父娘ゆゑか息が合ひ娘もけして緊張もなく父の伴奏者としてきちんと役割を果たさうとしてゐて大したもの。続くショパンの円舞曲イ短調作品34-2、夜想曲 ハ短調(遺作)とエチュード作品25-7嬰ハ短調は円舞曲がKarl Davidovによるチェロとピアノのための編曲で、後二曲はマイスキー先生ご自身の編曲。アタシのマイスキーの印象はバッハの無伴奏(第一回録音)に象徴される格調高さと、そして女将アルゲリッチとの何ともバトル的なソナタに尽きるのだが今晩のマイスキーはこのショパンの三曲がとてもポピュラーであるからだがメロディーを詩情豊かに歌ひ上げる様がとても新鮮。シューマンの幻想小曲集 op.73はクラリネットとピアノをチェロに、で中入り。後半はラフマニノフのヴォカリーズとエレジー。続いてデ=ファリャのスペイン民謡(マイスキー編曲)、これは娘さんには申し訳ないが父のチェロを相手に弾きこなすにはまだ/\で、やはりアルゲリッチなら格別だらう。最後はドビッシーのチェロソナタだが、これもパスカル=ロジェでドビッシーをよく聴いてゐるのでドビッシーのピアノは「 f は f でも、さうぢゃないの!」と言ひたい、といふZ嬢の指摘も納得。だが娘の伴奏で、マイスキーのチェロは冴へる、冴へる。世界最高の技量と感性のチェリストの62歳といふ、まさに円熟で技術も体力も衰へる前の最高の時期の演奏をアタシは手の届きさうなところで聴いてゐるのだ。だがこの最高峰のチェリストで、何が困るか、といへば「のだめ」でシュトレーゼマン先生役を演じた竹中直人マイスキーに似てゐるのか、マイスキーが「竹中直人の演じる」シュトレーゼマンに似てしまつてゐるのか……。デザイン的にはチェロ演奏に特化してゐるのだらうが前回の香港公演ではまだ黒だつた衣装が今晩は前半は銀で後半はメタリックブルー。肌ゐた胸にネックレスといふには派手すぎの豪華な宝石の胸飾りがギラ/\で、きつとバッハの無伴奏の時とかは地味なのでせうが演奏よりも、どうしてもこのキャバレー舞台のやうな衣装が気になつて仕方ない。アンコールではデ=ファリャの「ロマンス」、ショスタコービッチスケルツォ?、チャイコフスキー、R.シュトラウス……と続き最後が“When I met you”まで30分近く。客席で一人最初に立つてマイスキーに絶賛の拍手を送る婦人あり誰かと思へば蘋果日報社主・黎智英氏夫人でお隣にご主人も本当に満足さう。富豪が誰彼となく不動産不正売買や法令不遵守など顰蹙かふ今日この頃、何らさうした間違ひもなく全く庶民的な、どころか地味すぎ、でたヾかうして素晴らしい演奏をお二人で楽しまれる生活とは本当に頭が下がるばかり。
スプリンターズステークス(国際G1、中山、芝1200m)で香港馬のウルトラファンタジー(10番人気)が優勝。まさか……。蘋果日報は「反華浪潮下、攻日成功」と(笑)。一番人気は同じ香港馬のグリーンバーディーでこちらが一番人気。ウルトラファンタジー、香港では全くぱっとせぬ八歳馬で騎乗が黎海榮君。確かに今年に入り地場G1のスプリントで二、三着に入り晩成ぶり?を見せ五月の地場G2で6番人気の28倍で大穴勝利となつたが月末の次のG3(沙田ヴァース)ではどん尻。日本で単勝が2,930円で香港のサイマルキャストでは33倍だかでご祝儀、声援もなかつたのか。黎海榮騎手は初の国際G1制覇、香港馬騎乗で初国際G1制覇の地場騎手、日本で中国人騎手の初勝利の由。競馬にも「悪しき隣人」の脅威かしら。(笑)

富柏村サイト www.fookpaktsuen.com
富柏村写真画像 www.flickr.com/photos/48431806@N00/