富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2010-04-04

四月四日(日)曇。昼に尖沙咀。文化中心。SABU監督といふとV6の娯楽映画か堤真一の印象が強く香港の映画祭の常連だが今回はご本人の来港もなく多喜二の「蟹工船」(公式)。あの小説をどう映画化するのかしら?と思つたが突然の原作のリバイバルブーム(160万部)でも原作が読めなかつた者もすんなり映像で入つてください、でわかりやすさ。偶然だが今日も丸山、梅本、佐藤昇の鼎談「現代の革新思想」読んでゐてプロレタリアート独裁と世界観政党、独裁と民主の問題あり。松田龍平演じる主人公の新庄が蟹工船内で労組結成と罷工行動興す首領となるが「この首領のそれから」を考へるとスターリン的権力になりやせぬか、と思ふが殺され、仲間の労工らは「指導者なんて要らない」とリゾーム的に運動を続けようとするわけだが、運動論は毛思想的でもやはり「没有毛主席没有毛思想」で独裁が問題となる。「現代の革新思想」も今日の映画の合間に読了。文化中心では今回の映画祭の柱の一つであるブルース=リーの映画資料展示。映画の入場券をたくさん買つたので180頁ほどの特冊「小龍不死」受領。隣の香港芸術館で呉冠中の特別展(独立風骨)見る。呉冠中(1919〜)はアタシの最も好きな中国画家。伝統的なシナ画が洗煉され現代に蘇ると呉冠中。さらり、とその筆が動いただけで呉冠中。尖東站から西鐵で初めてAustin站へ。噂どほりの閑散。新幹線が広州から深圳経て此処に伸びるまでは閑古鳥啼く。圓方商城まで歩く。慥かに尖沙咀から中環経由の方が楽かも。圓方の映画館でZ嬢と待ち合はせ石井裕也監督「川の底からこんにちは」(公式)見る。東京で派遣社員する主人公(満島ひかり)が郷里に戻り父の営んだ倒産寸前のシジミ工場を任され……と情況設定は今日的。もう少し起死回生物にすれば面白いのかもしれないが今日的にそんなミラクルはない、と思ふと地味にシジミ工場が採算が合ふくらいが今日的か。それにしても個人的にはあまり面白いとは思へぬ中途半端。茨城の涸沼が舞台。言葉を茨城弁にしても面白くもないかしら。圓方で食事する気もおきず渡船角まで歩く。老趙越南餐庁に食す。夕方六時にもう満席。蔡瀾氏に唆され蔡瀾美食坊にまで出店した由。美味いが渡船角あたりにポツンとあるから、の美味さだらう。歩いて佐敦を経て尖沙咀。Charlie Brown Cafeで読書。ニ更に科学館。今泉浩一「家族コンプリート(公式)」見る。和服姿の監督と共演者も、もう見るからに新宿仲之町テイスト。で物語はジャパネスクハードコアホームドラマつて慥かにその通り鴨しれないが(以下、内容記述あり)家族が近親相姦、それも息子、その妻、その三人の息子らが全て祖父にだけ欲情をそゝられ、その原因は祖父のもつT型ウイルスの所為で祖父と性関係をもつと(つてまづそこが可笑しいが)このウイルスに感染し祖父にだけ性的欲望を感じ且つ肉体の成長が止まつてしまひ若いまゝ。と、おそらくこの摩訶不思議な物語は新宿の二丁目のバーとかでママを中心に馴染みの客が父との近親相姦なんて話題になり「父親と息子ならマダしもジイサンが對手つてありなのかしら?」みたいなお下品な笑話になり、そこから発想が膨らんだやうなものかしら。さらにお笑ひで済まないのは露骨な描写で、勃起した陽具の恥ぢらひもない露出、祖父との鶏姦が、さう書くとエロを通り越したグロのやうだが、なにせ役者は皆「成長が止まつてゐる」ので、いかにも所謂SG系の若者で(祖父役は監督自身)あまりにさらつと描写されるのが今泉監督らしさ、か(それでも何人か、とくに女性客が途中で劇場から退出したが)。この祖父との同性の近親相姦といふエログロさと可笑しさ、しかもウイルス感染といふのがかつての筒井康隆のやうで、映像は更に東京郊外の見事な屋敷での雰囲気が鈴木清順的、そのまるで鎌倉の閑静な環境での抑揚のない会話もどこか小津のやう、で性行為の場面の露骨さ、着物の衣擦れなど大島渚、で完全に巨匠の良いとこ取りなのが可笑しさ通り越して見事、とZ嬢と驚く。それにしてもあの性器や性行為の激しさでは日本でどうやつて上映できるのかしら? 映画祭で何ら修正もなく上映できてしまふ香港も大したもの。
田中長徳さんのブログで「骨拾ふ人に優しき菫かな」つて、もうこの世界が何ともたまらない。本当に平成の荷風なのだ、これは。
http://chotoku.cocolog-nifty.com/blog/2010/04/post-85d8.html
▼香港競馬。Chairman's Trophy(G2、柴1600m)で2007年のChampion Mile優勝馬のAble One(七歳)が優勝(単勝33倍)。一番人気は今季七勝目の史上新記録に挑んだBrave Kidは沈没。最近このテの古参馬のリベンジが目立つ香港競馬。

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