富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2009-04-28

四月廿八日(火)某大手ホテルチェーンが120分のホテル紹介と顧客インタビューに応じればマカオの某カジノ系ホテルご一泊かAEのクレジットカードへのHK$1,000の現金贈呈といふ企劃あり。先週、半ば冗談で電話で申込んだら確約のご連絡いたします、としたッきり返事もないまゝに先方の指定が今晩。昼前に先方に問ひ合せるとマカオご一泊は反響大きく已に爆満ですがHK$1,000はまだお受けできますので是非、と。必ず相方が必要のペアご招待で、Z嬢と出ようか、と思つたがTANSTAAFLてなわけで、どうも話が美味すぎはしないか。ホテルの宣伝見せられ、ゐろ/\質問に答へるだけなら良いが、きつと最後は具体的に何処ぞのリゾートの優待価格での予約だの勧められ……かしら。而もこの観光不況の最中、對手も売上げ増に焼け糞のはず。で参加辞退。早晩に湾仔。久々に天気良かつたので、しかも全く暑くもなければ湿気も50%ほど。バルナックライカのIII型の出番だ。藍屋、石水渠街のあたり、古めかしい板金や自動車整備の工場。さういふ風景を写真撮らうとすると嫌がられさうだが、そこがライカの強み。しかもバルナック型なんかでピント合はせファインダー覗き込み、なんてやつてゐると對手が不思議と「なんだ、写真か」程度で応じてくれる。デジイチとかの速写でバシッバシッバシッバシッとは違ふのだ。湾仔新街市の生菓寶で皮蛋を購ふ。広東語で話したのに「うちの皮蛋は有名だけど日本人が買ひに来るのは珍しい」と愛想の良い女主人に笑はれる。何となくHopewell Centreの60数階への展望エレベーターに乗る。十数年ぶり。もう他に超高層のビルも多いが、かつては香港一の高さ誇つたこのビルは、場所が湾仔の懐みたいな立地もあり、他にない絶景。しかも昇降がゆつくりなのが味。他に誰も乗客もをらず何度も上下する……つて、これつて山口文憲(笑)。そこから見下ろすとHopewell Centreの向ひの眼下のビルの最上階になかなか良さげな半屋外の空間あり。訪れてみるとHなるラウンジバー。グラスで葡萄酒は智利の葡萄酒(Casa La Joya?のCab Sau)を飲みパイプ燻らす。地上29階は風が心地良い。Z嬢来る。ふと気づけばZ嬢が飲むはコロナ麦酒。墨西哥産だよ、と笑ふ。いぜんからとても気になつてゐた皇后大道西の北方餃子源に食す。拌青瓜と大蒜白肉も美味いが、餃子本格的な山東餃子。豚肉の美味さをつくづく堪能。死ぬ前に食べるのに白菜と韮の餃子のいづれか一つを選べ、と言はれたら白菜と韮のどつちを選ぶ?とZ嬢と考へたが結論出ず。帰宅して「餃子のあとはベートーヴェンのセロソナタだらう」とカザルスがホルショフスキーのピアノで奏でる、を聴く。1936年と39年の録音。今日のカメラのレンズはエルマー35mm/f3.5で、こちらは1930年製。カザルスはCDだが70年以上前の録音の音楽と80年近く昔のレンズが現役なのだ。人生などこれに比べ儚い。が、その音楽もレンズも人類の遺産なのね。
▼トンフルで「マスコミがパンデミック」ななか信報の社説「豬流感只會對經濟造成短暫衝擊」読み溜飲下がる思ひ。(以下、要旨)
墨西哥除けば幸ひ、現時点で死亡事例なく大部分が治癒。世界銀行が2008年一月に疫禍が世界規模となれば経済損失はUS$三兆に達し、これは全世界の総GDPの五%に匹敵。何度かの疫禍経て対応も格段の進歩を遂げたことは楽観的条件。今回の豚フルは現時点で感染者の死亡率は6.77%で、これは一般の流感に比べれば高いが鳥フルの死亡率(60%)に比べれば段違ひに低く、2003年のSARSの方が厳重。(以下、略)
また紐育時報も“Hong Kong, Minding SARS, Announces Tough Measures in Response to Swine Flu”と世界各国の情況の一つとして香港の安全性を紹介。それに比べ豚フルで、もうこのウイルスに罹つてしまつた人、殊更ながら日本に多し。兎に角、情報を発信することが死活のマスコミは墨西哥よりも「潜在的な疑惑の疫病大国」で中国への関心高し。さらに県庁レベルでは「うちの県民はいつたひ何人、メキシコにゐるんだつぺ?」「世界中で感染者が出てッから、どうせなら、世界中どこに県民が何人か調査してみつけぇ?」と余計なことばかり。墨西哥=海外=危険、といふ幻想が「海外安全情報」を生み日本=安全に安堵する誤謬かしら。
▼今年の流行語大賞は、もう“Swine”だらう。日本語の「豚インフルエンザ」は間抜けだし漢語の「人類猪流感」も何だか「人類豚」がB級SFつぽい。が“SwineFlu”だ。豚を聚合的に指す一般名詞としてのSwineだが、音的にジョージ=オーウェル動物農場の印象が強く、そして何よりピンクフロイドだ。空を飛ぶ豚だ。それにしてもswineなんて「豚」を意味する古語はアタシは全く知らず。「あの豚野郎めつ!」といふ時もこのswineが使へる由。家禽のpoultryとかに近い語感かしら。
▼英語といへば日本語での「フェーズ」も耳に汚い。「パンデミック」もさう。WHOが「伝染病警戒を段階3から4に引き上げました」で良いのに、なぜフェーズを使ふのか。外来語の響きで余計な危機感煽るばかり。どうせなら日本国民全員に「フェーズ」のスペルと意味のテストしたら?、国民の一割くらゐは正解かしら。しかも重要なことは、この数字(1〜5)はあくまでインフルエンザの感染度が動物、動物から人、人から人、その拡散……を表示するだけ、で繰り返すが「感染度」であつて「死亡率ではない」のだ。極端な話、「感染率だけは異常に高く、だが死亡には至らない」フェーズ5のパンデミックなインフルエンザだつてあり、といふこと。

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富柏村写真画像 http://www.flickr.com/photos/48431806@N00/