富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2008-07-29

七月廿九日(火)旅で朝寝貪りたいが年寄りの性で朝六時起床。サイゴン河沿ひ走る自動車の騒音は深更にさすがに少し収まつたが朝の五時過ぎには再び活気。ホテルの旧館屋上にあるオープンエアーのカフェで朝食。クロワッサンと珈琲が美味くて朝から嬉しい。新聞はViet Nam NewsとSaigon某だつたか何れも数頁の薄さ。政府統制の紙面は面白くもなし。ホテルを出て東北に向けて漫歩。在サイゴン日本人の生活拠点のやうなLe Thanh Tom街を抜け動植物公園。勝手に多少殺伐とした動物園想像してゐたがいや/\どうしてきちんと手の加へられた林の公園のなかに古い獣舎は獅子や豹など猛獣までも手の届きさうな距離で当然、朝だから餌を貰つた動物たちも元気に動き回る。動物の種類や数は限りがあるが園内を散歩が目的なら各地の動物園のなかでも富柏村的にはお勧め。大蛇の餌が、すでに絞めてはあつたが可愛いウサギが丸ごと一匹で蛇がそのウサギを丸のまゝぢんまり呑込んでいく様をガラス窓越し至近距離で見るのはゐたゝまれず。直射日光は暑いが涼風が林を抜けて結局動物園好きのあたしら二人は午前十時すぎ迄二時間近く遊ぶ。動物園は朝に限る。かつての南ベトナム政府の官庁街であつたレユガン街に出る。米国の総領事館(かつての在南ベトナムの米国大使館)は渡米査証申請(或いは藁をも掴む希望での申請願ひ)の者が路上に鳩る。が米国の在外公館の徹底した不親切で申請者を総領事館査証部入り口にも寄せ付けず人々はレユガン街の反対側からぼんやりと米国総領事館を、或いはその館内の、更にそのずつと空の彼方の米国をぼんやりと眺めてゐる。米国など、少なくともブッシュが総統の間は絶対に足を踏み込まぬ、などと軽口を叩いてゐるあたしやさういふ者のいかにお気楽なことか。近くのキムタインといふ農場直営の軽食屋で馳名のプリンとヨーグルト頬張り炎天下、市中心部を抜け散歩続け泊まるマジェスティックホテルと(えつ……と驚く古い雑居ビルのやうな)日本総領事館近くのニューランといふ評判の食堂でフランスパンに豚肉など挟んだサンドヰツチの昼食済ませホテルに戻る。ホテルの中庭のプールサイドで独り寛ぎ読書と午睡。ヘルスクラブで入浴、按摩。昏刻、散歩がてら夕食を済ませませう、とホテル出ると不安な暗雲が迫つてくる。日本総領事館を越えたあたりで市街はたちまち真つ暗になり街路の砂塵やゴミが一気に空に舞ふ強い突風が旋う。それでなくとも五月蝿いバイクや自転車たちが「すわ、大雨か」と勢ひづいて駆ける。夕立、俄雨、驟雨やスコールといふ言葉ぢやとても太刀打ち出来ぬ、まるで悪魔が手を掲げ魔術をかけたやうな暗天。停電。もはやこれまで、で幸ひ雨だけはまだ大粒だがパラ/\と落ちるうちに慌ててホテルに駆け戻る。と玄関を入るなり大雨。読書して雨の弱まるのを待ち再び出街。が出鼻挫かれホテルに近くのフォー24で済ましちまはうよ、とフォー24に入ると日本人捕虜収容所の如し。ホテルに戻り読書。二更にホテル新館屋上のバーで一飲。雨が降らねば欄干からサイゴン河を見下ろし酒に酔ふのだらうがベランダの軒先で。部屋に戻り吉田健一「金澤」読み始める。ホテルの客室でのwi-fiでのネット環境快適だがwww.fookpaktsuen.comには繋がらず。中国と同じで反体制系サイトなど気軽のサイト構築するtripodなどレンタル系サーバーには繋がらぬ由。
ホーチミン市に点在するロッテリアの多さに驚いたが小売業での韓国資本参入に勢ひあり。新聞にもロッテ系の大型ショッピングセンターの新店舗開業と今後の店舗網拡張の記事あり。小売業は過剰なインフレのなか俄然好調で超級市場チェーンが軒並み昨年比3割増の売上げ。だが電化製品などハイエンドの消費財はさすがに頭打ちの由。インフレで市内の市立幼稚園の給食とをやつ代が1日あたりVND10K(US$0.61)でもすでに家計には負担感あるものがVND12〜15Kに値上げで今後も更なる高騰は必至といふ。
上野千鶴子辻井喬の対談集「ポスト消費社会のゆくへ」読了。千鶴子教授の突つ込みと辻井先生のボケぶりは絶妙のコンビだが対談を編集せずに収録も意味あるが今回のこれは中央公論か朝日の論座ででも(文藝春秋とは言はぬが)廿頁くらゐにまとめて良い内容。堤清二の西武とセゾンの「反思」なのだが面白みといふか読み応へに欠けるのは結局のところ堤清二の実業家としての才覚も辻井喬の作家、詩人としての才覚も、二足の草鞋でそのいづれも中途半端であることだらう。

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