富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2008-07-30

七月卅日(水)出発までホテルで寛ぐつもりが中庭のプールもフィトネスセンターのジャグジーも朝から準備できてをらず。旧大統領官邸(統一会堂)まで散歩するが内部見学するほど時間もなく官邸裏手の文化公園の労働宮?(Workers' Club)のレク施設内を徊す。国営百貨店。ホテルに戻り荷造り。昼にチェックアウト。タクシーでホーチミン鉄道站。旅情もなにもない殺風景でこぢんまりした驛舎。ハノイ行きのSE6列車は出発まで1時間あるが、すでに乗車可なのもいかに出入りの列車が少ないから。昼食にバスケットパンのサンドヰツチ購ひ乗車。四人用の個室寝台だがZ嬢と二人で四人分の寝台券購ひコンパートメントを占領。ホームにベトナムでは珍しくコンビニタイプの売店あり。鉄道での長旅に酒を所望するがウヰスキーは銘柄がWall StreetとTitanicで前者は悪酔ひしさうだし後者では沈没しちまひさうなのでサイゴンウォッカの二合瓶購ふ。寝台のコンパートメントは寝台や寝具など毛布がちよつと汗臭くシーツも毛髪がついてゐたりお世辞にも清潔とは言へぬが、まぁ許容範囲。出来る範囲で掃除してダナンまでの17時間に耐へ得る居住空間を作つてしまへば良い。ベトナムの鉄道は時間は正確の由。定刻で発車。構内を出るともう単線。十数分走ればもう更地や草地もあり。鉄道の引込線や市外の站の跡地散見されるのはベトナムに限らず貨物含め鉄道の衰退と相対しての自動車網の整備。車窓から景色眺めるほど愉しきことはなし。個室寝台で、これが飛行機なら最新鋭のA380だらう。鉄道ならかうして17時間でD580,000が飛行機ならファーストクラスでUS$5,800なら差し詰め166倍なり。よく手入れされた農作地帯が続くなかライチーが実る季節。ドラゴンフルーツが肉厚のサボテンのやうな葉に、ちやうど月下美人のやうに葉から実がなることを初めて知る。寝台列車は予想以上に快適。洗面所が格別清潔。同じ一等寝台の車輌には旧宗主国たるフランス人御一行多し。サイゴンウォッカは29.5度だが味もなくあまり酔へもせず。車窓から眺めれば日暮れ惜しむかのやうに農村の休耕地で蹴球に興じる子どもら。牛飼ひ。車窓からの食堂車はないが弁当や飲み物の車内販売あり、夕食はそれで済ます。車中、吉田健一の「金澤」を読む。健一さんなら上野から金澤に向ふ車中ですでに酩酊。「金澤」は鳥渡泉鏡花のやうな数奇な物語。健一さんの著作はかなり読んでゐるつもりが氏の小説はこれが初めて、と今更ながら。四方田犬彦氏が解説で書いてゐるが昔は地方の都市で旦那衆らが東都から、とくに戦後、作家や画家の文人も窮した折は地元に招き酒肴と宿を宛てがひ連日遊んだもの。我が祖父ら最後の旦那衆も版画家の川瀬巴水を招くなど、さういふ時代あり。この「金澤」の世界、個人的には好きだが健一さんはやはり小説より随筆。
エミレーツ航空A380のフライトでファーストクラスで世界初のシャワー設備の由。水の供給量には限界がありお一人様一回5分。だが運行にあたり水の搭載量はこのシャワーのために0.5頓で従来の25%増し。折からの原油高に燃料浪費で馬鹿/\しい話なり。

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