富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2007-09-17

九月十七日(火)昨晩テレビ録画にて平成中村座七月紐育公演の「法界坊」観る。隅田川続俤(すみだがわごにちのおもかげ)。浅草聖天町の破戒僧法界坊を汚き拵えにしたのは六代目だそうだが法界坊というとどうも勘三郎(先代)の、あのニンどころか地がトラウマ。でそれを勘九郎君(勘三郎)が演じるのだから中村屋父子にとってはもはや十八番か……(コメントせぬが)。この紐育公演、難癖つければいくらでも、だろうが「やっただけ偉い」。しかも海外公演で敢えて法界坊。紐育の目利きの客は「もっとシリアスな歌舞伎を観たかった」とコメント。それも素直な感想。だが、あれもまた歌舞伎。あんな、言ってみれば「ひどい」、歌舞伎座に掛けるを松竹なら厭う芝居を、あれも「やって損はない」のだから、やらず高尚なコメント並べられるよか「やったが勝ち」かも。アタシは贔屓の橋之助の道具屋甚三を観られただけでも有難い。その成駒屋勘九郎がさすがアリゾナに別荘、の達者な英語での台詞の中で即興で“He doesn't understand, because he finished elementary school only”だとか言ったのが可笑しい。当時、勘九郎君もそうだが梨園といえば暁星高校なのに(勘九郎君も暁星高校から國學院中退のはず)、橋之助君は役者修行に精進と中卒で(だから“just finished elementary”は言い過ぎなのだが)十五歳で祖父五世歌右衛門追善興行で橋之助襲名ももう随分と懐かしい話。扇雀ものびのびと。沢瀉屋舞台に立たぬも久しく歌舞伎にこのような役者一人くらいおらねば。で本日。朦霧続く。出街も厭う。晩に自宅にてドライマティーニ二杯。姫路のヤヱガキ酒造の「あらき」なる糯麦焼酎飲み蓮根と豚肉の炒め物食す。先日、松本でいなご社長にいただいた小布施堂の栗鹿の子と落雁、Kさんに香港でいただいた播磨屋本店(兵庫)の丹波黒大豆の甘納豆頬張る。いいお菓子があるとお茶が美味い。
▼土曜日の朝日(衛星版)に佐伯啓思氏の「保守理念放棄した自民党」という文章あり。安倍政権追い込んだものとして挙げるは一に「その場その場の出来事に情緒的に反応する不安定な世論」、二に「憲法戦後レジームなど大きな理念避け「政治のカネ」に絞った民主党の戦略、そして三に「自民党自身」。一年前の安倍担ぎ出しは小泉からの禅譲で国民的人気(当時の)、に肖り「選挙に勝てる」打算のみ。戦後レジームだのどーのこーのに非ず。で安倍では選挙に勝てぬ、となればの使い捨て。「小泉政治以来、首相は世論の支持を調達し、選挙に勝つための広告塔という役割を割り当てられてしまった」と佐伯教授は指摘(だが基本的に、例えば英国のブレアとて同じ、ぢゃないかしら)。「小泉政治によって、自民党は自らを大衆的人気主義の中へ投じ、もっとも急進的な「改革政党」へと変えてしまった」もので「もはや自民党保守政党ではなくなっていた」と断言。安倍三世は本来、自民党の党是的な部分(愛国心、自主憲法制定など)に基づくもので「政治手腕も理念も小泉氏のものとは大きく異なる」のに「小泉政治を精算することができなかった」ことで「憲法や教育という戦後レジームの見直しという保守的政策を掲げ、他方で改革の続行、成長の追求をかかげるという支離滅裂なもの」となった、とこの指摘は確か。佐伯教授の言う通り「グローバルな市場競争の強化は地方の疲弊と大量のフリーターを生み出し、「美しい国」とは矛盾する」し「日米同盟の強化は日本の自立心を失わせる」。もはや「保守政党としての自民党は確かに小泉政治によってすでに壊れていた」のである、と断定するのだから、佐伯教授すらがここまで言いきったら小泉三世はさぞやご満悦であろう。がさすが佐伯啓思、最後に一言「小泉政治のもたらしたつけは大変大きい」と(笑)。「つけ」なのだ。「つけ」ぢたい言葉は「借買い」でニュートラルだが「つけが回ってくる」は広辞苑に拠れば「以前の無理や悪事の報いがめぐってくる」こと。
▼同じ紙面に佐伯教授と同じ京大の大澤昌幸氏の「ナショナリズム 脱却への普遍性めざせ」。手許に大澤教授の大著『ナショナリズムの由来』と『帝国的ナショナリズム』あり未読のためご本人の新聞への投稿読むと氏のナショナリズムに関する言及の結論がさきに読めてしまいそうで怖いが、大澤教授曰く、今日のグローバリズムの世界でなぜナショナリズムか?と言えばナショナリズムは反動的感情に非ず、グローバリズムのなかで普遍的原理が見出せないからナショナリズムが生まれるのであり、それを克服するために、と大澤教授は<普遍性>を見出すべき、と指摘。その通りなのだが、その普遍性が見出せないから……と論は堂々巡り。この普遍性など、もうずいぶんと前から例えば樋口陽一先生が指摘しているもので、だが凡人には<普遍の理念>などわからぬから憲法改正なんて戦後レジームのナントカなどと馬鹿げたことをぬかす。
▼話は旧聞に属すが先週だかの蘋果日報で林丁山氏がマカオのVenetian Resortについて。開業日にこのホテル訪れた知人は余りの人出の多さにカフェに避難しミルクティー注文して待つこと15分、催促して更に10分待ち出てきたのが普?茶でミルク添えられていた由。もう一人の友人は午後三時にチェックインし部屋あてがわれたのが午後九時。部屋の冷蔵庫は空で飲料水など買いに出るハメに。で翌朝チェックインの際に「ミニバーはお使いになりました?」と尋ねられ「まさか……何も使っておりませぬ」と答えるとフロントの職員に「こちらの記録では冷蔵庫のお飲み物、すべてなくなっているのですが」と指摘された、と。近づかぬべき。

富柏村サイト http://www.fookpaktsuen.com/
富柏村写真画像 http://www.flickr.com/photos/48431806@N00/