富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2007-09-18

九月十八日(火)晴。速晩に薮用あり長沙湾へ遠出。茘枝角の地下鉄駅楼上の長沙灣廣場なるSCになにげに入る。繊維業かつて盛んな場所柄「女装」のブティックがフロアに所狭しと並ぶ(長沙灣道向いの香港工業大廈は更に圧巻)。どう見てもダサいが製造場所直結で繁華街のブティックより廉価、各製造会社の製品展示も兼ねる。でこのブティック多いのは「なるほど」とわかるのだが長沙灣廣場で不思議なのは「果物屋がやけに多い」こと。中秋節まえでご贈答用に籠に満載の果物売れるため、この季節、果物屋が賑わうのは承知だが果物屋などふつうは街路に面しているもので場末の商業ビルに果物屋並ぶのは異様。確かに長沙湾には公営の蔬菜批發市場あり、此処から1kmと近し。だが、だからといって、かつて秋葉原東京青果市場あったからといってアキバが「果物の街」には成らず。で「長沙湾の商業ビルになぜ果物屋が多いか」は憶測で生きているアタシもすっかりわからず。帰宅途中にジャスコで葡萄酒二本(ジャスコが意外と葡萄酒の数は少ないが品揃え充実、値段も他大手に比べ安かったりすること最近、発見)と好物の大班冰皮月餅いくつか購う。ジャスコの月餅売り場でも大班麺麭の一人勝ち。アタシも含め、どう見てもご贈答でいただいた月餅はうんざり、で自分が食べるのに冰皮月餅購うと見受けられる客ばかり。なにせ要冷凍なのだからご贈答には向かぬ。広東省で家禽インフルエンザ再発〜!のなか晩餐は鶏腿肉のヨーグルトソース煮。葡萄酒はすっかりハウスワインとして定着の智利のEscudo Rojoの04年。NHKテレビでニュースに続き「歌謡ショー」始まってしまいテレビを消すの逸するは最悪の火曜日。小林旭の「熱き心に」がいくら微妙に音程が♯する小林旭でも往年に比べ完ぺきに「旭ちゃん、半音♯しちゃってるぜ」で、アタシがバンマスならオケを半音上げるだろうが上げたら上げたで小林旭はさらに半音♯するのかしら。怖い。「文珍・南光のわがまま演芸会」という番組で文珍師匠の「マニュアル全盛時代」を聞く。無条件で可笑しい。先日の信州旅行で、わがライカで初めてカラー写真撮影(こちら)。現像してみてそのライカの色彩に驚く。
▼先日、母から聞いた亡父の思い出話。藤島親方逝去が惜しまれた時なら新聞にでも投稿したのだが。
昭和三十三年の正月、若乃花(初代)初優勝パレードに沸き立つ花籠部屋ありし阿佐谷。当時、先考は杉並警察署の巡査。その日、一人の迷子に出くわせば、幼き子、口を結びたるまゝ、名前も住所も全く答へやうとせず。さんざん問ひたゞして、やうやくわかりし其の子の素性。若乃花の末弟、將來の初代貴乃花なり。兄の優勝パレードの日、迷子になつては兄に迷惑をかける……。それで警官に名前も明かせず、とは根性坐りし八歳の少年。花田少年、杉並で中學生になると水泳で頭角を現し数年後の東都ヲリンピックの水泳選手かと囃され、其の後の大相撲での奮鬪ぶりは我等の知る通り。
▼広島の暴走族が「集会」開催を警察に阻止されたことで「集会の自由」謳った憲法に違反、と訴訟。天晴れ(笑)。だがここまでするなら暴走族も派手な外套の背中に「憲法擁護」と刺繍して「憲法改悪反対」の雄叫び、「護憲」の幢を靡かせ、までしていただきたいところ。暴走族が自民党本部の門前に集り「憲法改悪反対〜!」と集会すれば面白いのだが。
内田樹先生の『村上春樹にご用心』について。タイトル読んだだけでも可笑しそう。読みたいが書籍購入し過ぎで自制。紹介にあった本文よりの引用「私たちの平凡な日常そのものが宇宙論的なドラマの「現場」なのだということを実感させてくれるからこそ、人々は村上春樹を読むと、少し元気になって、お掃除をしたりアイロンかけをしたり、友だちに電話をしたりするのである。それはとってもとってもとっても、たいせつなことだと私は思う」を読んで、言えてるなぁ、と読んだつもり、に。そう、なんでもない日常生活が実は凄いミラクルワールド、ワンダーランドなのだ、と。なんでもない小市民的な消費生活を「おいしい生活」とした80年代の西武をふと思い出す。
The Economist誌(9月1日号)の巻頭特集記事“Who's afraid of Google?”は出色。ある面では上述の「村上春樹がなぜウケるか」に近い、心地よさ、あり。みずからが一つの個にすぎぬのに地球の場所での在り処の確証。広告で成り立っているのに「広告が邪魔しない」洗練さの見事。数数多ある雑誌のgoogle特集のなかで、さすが一流経済誌、と敬服。
▼紐育での法界坊だけでも勘三郎君には驚いたが今度は山田洋次監督が中村屋文七元結を映画化の由。文七元結と聞くとアタシャやっぱり圓生志ん朝の落語が先だが仁左衛門の文七も見てみたいところ。この映画どうなることか、山田洋次の作風もけして好きとは言わぬが近年の時代劇もの全て香港で見ており中村屋の文七もきっと見ることになるかしら。
▼ふと思い出したが土曜日に中環のStanley街歩いていると陸羽茶室の隣が大々的に内装工事中で今度は何が開業か、と思えばPeninsula Pharmacyが此処に。ペニンスラファーマシーと言えばかつてペニンスラホテル内で日本人観光客相手に大繁盛、が香港観光の主客が大陸田舎漢となり時流に乗れずペニンスラホテル出て移転先が蘭桂坊のど真ん中。歌舞伎町ならさしづめ強精剤と避妊具だろうが、蘭桂坊は「変なおクスリしか売れましぇーん」な場所。看板に日本語だけは「ペニンスラホテル薬局」とまるでペニンスラホテル系列の薬局の如く書いてあるのも御愛嬌だったが場所の悪さで三度び今度は陸羽茶室の隣というのも「さもありなむ」な場所。確かに観光客狙いでわからぬでもないが……もはや日本人相手に観光薬局というコンセプトぢたい無理あるのではないかしら。
▼信報で依然、陳方安生女史の立法會補選出馬につき百家争鳴続く。社説にてアンソン女史出馬牽制の信報はついに林行止専欄で「天馬行空屬「?笑」現實政治兇險多」載せる(それにしても見事な漢題!)。けしてアンソン女史の立法會出馬否定はせぬ、が泛民主派の領袖気取りは凶事、と。だが同じ本日の紙面で香港の大橋巨泉・鄭經翰と民主党元老・李柱銘が挙ってアンソン女史出馬で将来的な民主党と公民党の合併の可能性に言及。当のアンソン女史は今日になってアタシはようやく読んだが月曜日の信報が出馬表明後のアンソン女史に独占インタビューで一面全面での特集記事掲載。信報の立場も微妙だが社論としてはアンソン女史出馬に懸念、だが信報の実質上の社主はRichard李澤楷君で(最近「李嘉誠の次男」と呼ぶにはシェークスピア劇的にいろいろあり)リチャード君が財界では民主標榜でアンソン女史出馬で資金提供ありやなしやと噂あり、で面白いところ。で、この独占インタビューでアンソン女史、冒頭から「今回の選挙の焦点はreal issueでなく、候補者のcharacter integrityなのよ」と断言。つまり「香港の良心」たるアタシを取るか、恐怖政治の保安局長を取るか、と迫るようなもの。語るわ語るは歯に衣を着せず、で矢面に立たされるのは自由党党首のJames田北俊(田少)。田中真紀子の如き口調で「あの人、記憶喪失じゃないの?」と今回、親中派統一候補になるであろう葉劉淑儀支持表明の田少に対して「基本法23条での立法の時は自由党が反対にまわったのに今回は当時の保安局長のレジーナを支持するわけ?」と言いたい放題。それに対して田少曰く「当時はあの立法が香港のためにならぬ、と反対したもの。董建華であるとか葉劉淑儀、その各人に叱責しておらず、今回は自由党の立場として香港の安定重視で親中的な、愛国的な立場をとる候補を推挙するのみ」と。これはこれで御意。

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