四月廿八日(土)曇。ムスティスラフ=ロストロポービチの逝去について小澤征爾は昨年12月の新日本フィルをロストロポービチが指揮した彼自身の畏友たるショスタコービッチの8番が素晴らしかったと述べる。小澤氏がロ氏に最後にあったのはこの逝去のわずか1ヶ月前、3月下旬のロ氏80歳の誕生祝賀会だったそうで「彼は来世を信じ、楽しみだと言っていた。あの世で待ってくれていると思う」と(朝日)。いつもクラシックの巨匠が逝くとメールしてくださるO氏の言葉を引用。
カザルス亡き後、チェリストといえばこの人。反体制運動・亡命、マルタ・アルゲリッチとの関係、話題には事欠かない人物。日本好きで神田神保町のロシア料理『ろしあ亭』には顔を出していた由。指揮者としても悪くないが、やはりチェロ。神経質でない、チェロがもつ骨太感と男のリリシズムが最大限に発揮されていて心地良し。
とO氏の推薦は、バッハ無伴奏チェロ組曲集、ドボルザークチェロ協奏曲(この曲は何度も録音されておりカラヤン/ベルリンも悪くはないがグリーニ/ロンドンフィルのものがベスト、と本人引き振りのハイドンのチェロ協奏曲集(アカデミー管弦楽団)の三枚。合掌。昼まで書斎片づけ。貰い物の南部風鈴あり。風情あるが短冊の
やわらかに柳あをめる北上の 岸辺 目に見ゆ 泣けとごとくに 啄木
という歌はいいが色合いなどいただけず、ふとライカの小箱があったので、これで短冊を作る。ライカ風鈴の出来上がり。午後、九龍で野良仕事済ませ早晩に尖沙咀東。フランシスコ撮影器材店を覗く。ライカMのファインダーの近視補正用レンズが欲しいと思ったのだがHK$600という言い値も然る事ながら、この店の主人の愛想の無さというかふてぶてしさが不愉快で店を出る。時々あまりに愛想のない例えばタクシーの運転手であるとかレストランの給仕とか、に遭遇すると「肉親を日本軍に殺された……とか」とまず思ってしまうのはアタシだけかしら。「再開発」で変貌甚だしき尖沙咀の裏通りを歩き河内道(河内は大阪っぽいが越南のハノイが河内と綴られる)の独逸麦酒のバーBiergartenにBitburger一飲。Z嬢と待ち合せ。CitysuperのCook Deliで元八の野菜らーめん食す。Z嬢はちなみにオリエンタルカレー。晩に台湾の雲門舞集(Cloud Gate Dance Theatre of Taiwan)の香港公演、今晩は今回の香港公演二晩目で「白」参観。必要最小限の大道具(ほとんどない)と経費といえばわずかに衣裳。香港のこの大劇場で四晩満席の好況で入場料とてけして安からず(S席でHK$380)。劇団の収益で見れば雲門舞集はA+の評価となろう。舞台を収益率で見ることも大切。浅利慶太の劇団四季ではないが林懷民という人も禅の坊さん風情でありながら、商売のできるプロデューサーとして超一流。けして時流に乗らず確固たる自分の美学があるが、それが例えば大野一雄先生であるとか大駱駝艦とか山海塾とか「わかる人にはわかるがわからない人にはわからない」ではなく、誰が見ても「美しい」と感動する「ぎりぎりのところ」で、しかも世界各地何処に持って行っても感銘のある表現芸術。香港のCCDCであるとか、この林懷民のここまでの現代舞踏の商品化はできず。大したもの。今晩は舞台跳ねた後に林懷民氏が参観者と一問一答あり。この林懷民なる人、見た目寡黙な禅僧の如し、だがいったん喋り出すと噺家かおすぎとピーコの如きゼスチャー多し。寡黙徹する方が演出としては良かろうに。寧ろ楽屋で、舞手らがお師匠さんが観衆と喋くり続ける間、化粧落としたり着替えたりの最中に楽屋話で何を語っているのか、のほうがよっぽど気になるところ。
富柏村サイト http://www.fookpaktsuen.com/
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