富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2007-04-27

四月廿七日(金)ひどい胃痛。昨晩遅くから今日にかけて、で赤瀬川原平『鵜の目鷹の目』読了。今月初めに赤瀬川原平さん本人があたしに署名してくれた大切な本。月内に読めたが、ついいつもの癖でいくつか本文に線を引いたり書き込みしてしまう。後悔遅し。で話の中にステレオ写真について、がありオリオン座の写真がステレオで撮影されているのだが(藤井旭氏撮影)、赤瀬川氏はそれをStereo Viewerを使わずに裸眼で見ろ、と言う。ステレオ写真など見慣れた赤瀬川氏が藤井旭のオリオン座のこれを裸眼で見たのが最も感動した、と言うのだから、実はここ数日挑戦していたのだがいっこうに見えない。で今晩も半ば諦めていたのだが臥床前にぐびっとジャックダニエルを寝酒にキでひっかけて酔ったからだろう、見事に裸眼でこのオリオン座のステレオ写真が立体に見える。ほんと見惚れる。いったん慣れると裸眼でのステレオ写真鑑賞は楽、というのは本当。翌朝、白面でも見るには見えた、がやはり酔っている時のほうがずっと素敵。この本は凄く面白い写真鑑賞満載なのだが、これが「日本カメラ」に連載されていた時はもっと面白かったはず。連載は連載だから、の命、ってものがあるはず。で一つ驚いたのが「最敬礼の問題点」という、1989年の先帝大喪の礼に集まり陛下にお別れしようとする人たちを写した写真(土田ヒロミ)についての記述。大喪の礼という弔いの厳粛な場の風景を、これでもか、と写真の構図としての面白さで語り尽くす。不敬!ととられても不思議でないほど著者の筆が冴える。左翼なんて人たちは足下にも及ばない、さすが「櫻画報」の芸術家としての「体制からの距離」(反体制ではない)を見た思い。早晩に尖沙咀の香檳大廈で中古カメラ店冷やかしDavid Chan氏の店でSummicronの50mm(沈胴型)のレンズ尋ねる。現有のものが所謂「キズ玉」で、勿論値段もそれゆゑ破格だったが予想よかずっとよく撮れて気に入ってはいたがレンズ表面の摩耗はやはり気になり、DC氏の所有するSummicronはそりゃ上質で現有のキズ玉をこちらの言い値で買い取ってくれ上玉を入手。明後日のQE IIはアドマイアムーンで決まりか、とDavid Chan氏。Z嬢と待ち合せ厚福街の雲南桂林過橋米線に食す。?湾の路徳圍での開業はもう何年前だったのかしら。この雲南米線が起爆剤となり?湾で店賃が低かったことが幸いし路徳圍に中国各地の麺が集まる結果に。この雲南米線は成功し今では尖沙咀銅鑼湾などに十軒ほど支店有するに至る。香港文化中心にてLondon Symphony Orchestra(倫敦交響楽団)の演奏会。指揮はDaniel Hardingだ。公演に先立ちバイオリンの成員で楽団のマネージャーだという団員がマイクを持ち壇上に現われる。一瞬、急な指揮者かソリストの交替か?と思う。この楽団とも何度も共演のチェロの巨匠、ムスティスラフ=ロストロポービチ氏逝去の由。享年80歳。会場から失意のため息があがる。で倫敦交響楽団であるが「機動戦士ガンダムSEED DESTINY」だかのアニメ映画音楽の演奏までしてしまうらしい。それはいいとして今晩はハーディングの指揮で最初はヴァイオリンにFrank Peter Zimmermannを招きベルクのバイオリン協奏曲。あたしにとっては難解、の一言。ただツィンマーマンのバイオリンの音色がきれい、と。で後半はマーラーの5番。5番は二十世紀初頭にマーラーにとってウィーンでの絶頂期の作品で、もう「あれもこれも」のてんこ盛りであたくし個人的にはちょっと食傷気味の70数分。第4楽章アダージェットをヴィスコンティの映画『ベニスに死す』の挿入で聴いたのがこの5番との出会いだったこと思い出す。この5番、とにかく「あれもこれも」で、とくに木管金管にかなりの責任があり、そんじょそこらのオケが演奏すると大変なことになってしまふのだが、さすがLSOだけあって、このフルコースの料理を見事に「演奏しきって」みせた。アンコールなし。ハーディングは感激一入で何度も何度も深く礼をしながらも。真剣にマーラーの5番演奏したら、もういいでしょう。

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