富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

六月廿日(火)晴。昨晩は忙しさにW杯蹴球に賭ける機会すら逸す。朝日新聞(社会面)に「神の手包む最新技術、グローブ、守護神演出」と日本チームの門将・川口君のはめるアシックス製の専用グローブの紹介あり。紹介は紹介でいいのだが記事の結びに「ブラジル戦。川口が目立たない試合ができれば、「奇跡」を引き寄せることができるかもしれない。」とあり。ゴールキーパーにとっていかに理想的なグローブが出来たか、という話を延々語っておいて、の、この日本に対ブラジル戦で奇跡を願う、しかもキーパーが目立たなければ、という。その願いは勝手だが、この記事の結びだと思うと脈絡もなく書き手の見識のなさ感じざるを得ず。また整理部のいい加減さ。本日は路線バスの運転手による賃金めぐる労使交渉でのゼネスト予告されていたが回避される。ゼネスト実施されれば九龍巴士、新巴、城巴で六千人の運転手が参加し五千五百輛のバスに影響あり。香港はきょーびの好景気にッ久方ぶりのベースアップに涌くなか路線バス会社は組合側の2〜4%のベースアップに応じる気配なく、の労使交渉。不合理もわかるが、何より驚くは650万人の人口に5,500輛というバスの数。よっぽど通学時間の学校密集路線にでも乗り合わせぬかぎり立席にもならず路線バスの数の多さは渋滞、大気汚染の元凶。ちなみに都バスの保有車両数が1,481輛であるから、どれだけ香港のバスが多すぎかは明らか。バス運転手の待遇改善の要望はよくわかるが会社も会社で、常識的に考えて今の運行数は収益バランスがかなり悪いのでは?と思う。諸事忙殺され帰宅してドライマティーニ二杯。菊正宗一合。筍の炊込みご飯食しつつ、フジテレビのドラマ番組『踊る大捜査線』の97年「歳末特別警戒スペシャル」の中国製(当然海賊版)DVD、Z嬢誰だかから借りたものを観る。冒頭のキャメラ長回し見事。よく出来たドラマ番組だと思うが、中国版では唯一の欠点が稲垣吾郎君演じる殺人犯、覚醒剤かがきれた発作で余計に発狂するのだが、中文の字幕スーパーでは何度も「大麻」「大麻」と(笑)。マリファナがきれたくらいではイライラして殺人も犯すまいに。青島刑事、もし番組制作がポスト青島であったら「石原です。都知事と同じ名前で……」になっていたのだろうか。たぶんそうだろう、フジテレビで。晩遅くに昨日の新聞読んでいたら信報の社説が「減少巴士数目、加薪方有曙光」とやはりバス車両の削減により収益改善を説く。バス路線の拡大と運行本数の増加は、かつての九龍巴士と「遅かろう悪かろう」の中華巴士の市場独占時代に比べれば乗客数の増加につながったが、近年はMTRと KCRによる鉄道路線の拡大と、それに対抗する運賃値下げもあり、バス会社は減益に転ず。三大バス会社で01年の乗客数が15億21百万人であったものが05年には13億91百万人へと8.5%の乗客減。さすがに運行本数の増加はこのところ見られぬが世のため人のため削減こそ必須。
▼晩の八時に台北より阿扁総統の所信表明テレビで流れる。反阿扁の世論にどう応えるか、と思えば「夫人のそごう商品券絡みの贈賄が明かされれば退陣」と言い放っただけで具体的な疑惑の解明には言及せず寧ろこれまでの阿扁政府の成果の羅列に徹底。それにしても、で阿扁総統は終始、台湾語。香港ではCable TVなど当然、国語での演説期待したのかニュースの冒頭で生中継したが福建人除けば珍紛漢紛で中継打ち切り。ところで「そごう」も日本では新生そごうで名前こそ残ったが、台湾ではすでに名義だけ「そごう」の地元資本ながら「そごう」の商品券が台湾の将来すら左右する存在にて、中共中央も台湾の「そごうの商品券」に注目とは可笑し。
李嘉誠の次男(李澤楷、Richard Liという名もあり)所有のPCCWの香港全域に架る電話網、携帯電話、ケーブルテレビ権益をば豪州の投資銀行(Macquarie Bank)に売却の話あり。この次男氏に紆る可笑しき話、先日、羽仁さんに聞く。数年前には衛星テレビ網のStar TVをばマードックに売却の際に中国の軍事にもかかわる衛星放送網の売却につき中国で人民解放軍の各地の謂わば軍閥の親方たちのかなり逆鱗に触れたという話もあり。今回も中国の「パートナー」の反発は必至。
朝日新聞大江健三郎君の「定義集」という月イチだかの連載あり。かつて梅原猛氏の連載「反時代的密語」に代るもの。中野重治の戦後すぐの『おどる男』なる短編引用し「心に内在する残酷さ」なる話。滑稽さを見つめる目がしばしば残酷さを同居させることを語る。それほど読んで唸るほどの随筆には非ず。だが一つ印象的なる事は、冒頭で「滑稽」という言葉を大江君が持ち出したところで、すぐ余には「伊丹十三」の名前が浮かぶ。十数行読み進めば、高校の図書館で『史記』の和訳の「滑稽列伝」なる書籍読むような高校生の大江君に「きみは本をよく読むが、コッケイなやつだ、といってくれる同級生に会い……」と後に義兄となる伊丹十三との出会い。伊丹十三は余にとってはテレビドラマ『コメットさん』の(当然、大場久美子に非ず九重佑三子のコメットさん)での父親(石原三郎)役の伊丹十三の、とても子ども相手のゴールデンタイムのドラマとは思えぬ怪演の印象が、そして大河ドラマ峠の群像』の吉良上野介役が、伊丹十三の『お葬式』からの映画監督としてよりも、ずっと印象的。今にして思えば演じすぎて滑稽なほど。映画では意外なほど地味な印象あり。

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