富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

七月十四日(木)快晴。早晩に献血。あつといふ間に三ヶ月の一度の献血献血の針刺す前に刺部への麻睡の要不要尋ねられ最近の好みは不要。普通の注射針よかいくぶん太めの採血針が静脈に刺される。450ccの血液が採れる間の気だるさ。ここまでは森田童子的だが採血終わり血液検査のため真空の試験管四本に次々と血が勢いよく吹き出す様眺めていると気分は朔太郎。五分ほど安静にしていろと言われ針を抜いたところに脱脂綿当て反対の手の指でそこを押さえ献血用の簡易だが坐り心地良き仏蘭西製のリクライニングチェア(これは香港赤十字ご指定のようで何処の献血センターも同じ椅子)に横になつたままでいる、その時の微睡みほど快感は他にし。香港で実に三十度目の献血で顔なじみの職員に礼を言われるが献血(実際には抜血)したあとの首や肩凝りの痛み失せる気分を思えば寧ろ一回毎にHK$100払つても抜血したきほど。時代広場のページワン書店にてヰリアム登β達智が信報に随筆でずいぶん前だが紹介していたGary張智強の写真と随筆“Hotel as Home”購ふ。この書店は新嘉坡で創業。十数年前になるが創業者のT氏が香港での事業展開図りまずは自店のまえに問屋として本配給考えていた頃にお会いしたことあり。すぐに銅鑼湾の柏寧酒店の商場に店構え発展は今日に至るが香港の旗艦店であるこの店は時代広場といふ「上下階に動きづらい」商場の而も九階は残念。慣れていれば十階以上の食堂街に上がる昇降機で十階へ行き一階下るか、実はオフィスタワーの昇降機も便利だのだが。昔はかなりアート系写真集の揃えが良かつたが今はデザイン系はあるが写真集は非常に乏しい。単価が高く売れないと全く売れぬ写真集は敬遠なのだろうか。地下のCitysuperにて食材購ふ。博多屋の豆腐。日系のパン屋でそりゃ美味いのだろうが食パン一斤と菓子パン数個購いHK$62と言われ千円だ、普段買わぬのでとても驚く。ジンのうちタンカレーが切れていたので補充。芋焼酎の白波もついでに。帰宅して冷奴にネギ焼。とろろ芋に麦飯。焼酎。散乱つたままだつた机上をいつきに片付ける。何年も使つておらずの初代iMac、当然だがボンダイブルーが美しい。ずつとMac IIと一緒に窓辺に飾つておいたのだがさすが書斎で場所をとり断念。余丁町散人氏もお使いだつた(こちら)。iMacの前にさりげなく置かれたジタンが絵になつている。いつ放出してもいいように中身再インストールしてきれいにする。どう処分するか。従兄のS兄から晩の早い時間に浅草の神谷バーで叔父(従兄の父)と従弟のT君と飲んでいる画像がメールで届く。神谷バーはやはりハンチング帽が似合ふようにならないとサマにならない、と叔父の姿を見て思ふ。叔父が被つているのは我が亡父の、つまり叔父にとつては弟の遺品のハンチングかも。ダワー『敗北を抱きしめて』下巻少し読む。
大河ドラマ義経」で物語はもうすぐ屋島の戦。(以下、ナレーションは白石加代子風に)屋島といへばぁ那須与一でございます。九郎義経さまが与一に「あの扇を弓で射落としてみよ」と申されましてからぁ……時代は八百年ほどすぎたのでございますぅ。与一の故郷はぁ那須塩原、現在のぉ栃木県大田原市。奥州への街道筋とは申しましても所詮は下野の鄙地、那須と八溝の山にはさまれたこの地は海もなく、玄海の彼方には高麗、唐国には宋が栄えるも知らず、無知ゆへの度胸か、来年度から市立中学校で「新しい歴史教科書をつくる会」扶桑社の歴史、公民教科書の採択を決定したのでございますぅ……とここでタイトルの「義経」の文字、アシュケナージ先生の指揮するN響の奏でるテーマソング流れ、本編へ。。(朝日)さすが栃木、大田原の快挙。教育委員会で全会一致で採択。もはやカルト。日本政府も海外マスコミもこの極右教科書が検定通り出版はされたとはいへ採用は国家神道系の極右反動私立校か石原の鮴押しで都立中高一貫校だの養護学校だけで一般の公立学校は採用しておらず全体のシェアの1%にも満たない、といふことを「安心してください」の説明としていたが栃木の田舎者の反乱でご破算。突然「男を上げた」市教委の小沼隆教育長は「自国の伝統、歴史を正しく学習して日本という国に愛着をもった子どもが育つと思う」と宣ふ。那須のご用邸も近いこの地で「日本を愛する心を育むことで天皇陛下にも晴れて那須塩原駅をご利用いただける」とか勝手に感動しているかも(笑)。しかし今上陛下なら寧ろこの大田原の愚挙に呆れ那須ご用邸に参られる際は那須塩原駅お使いにならぬのではなかろうか。教委での採択決定に先立つ教科書採択協議会では会場が「ホールの窓はカーテンを閉め完全非公開」で「採択委員がトイレに出るさいも職員がつきそい、ものものしい雰囲気」(赤旗)と圧力かかつた栃木の未開の地の寄合いの怖さ。茨城栃木の民度の低さ(群馬は除く)は今更指摘するに及ばぬが(東北地方への偏見も実は最も強いのがこの北関東=自分たちが精神的に田舎者であることを理解しておらず)東北新幹線や高速自動車道で那須塩原を通り過ぎる際は知的判断力が鈍らぬよう、また未開が染らぬよう注意すべき。栃木は前回採択の際に小山市のある地区で扶桑社教科書の選定を決めたが各市町教委が良識でこれを不採択とし決定が覆された過去あり。今回は扶桑社側の復活戦で保守王国の名に恥じぬ快挙。このカルト的な大田原の教育委員会であるがカルトといへばオウム真理教の信者の子どもの公立学校入学拒否したのもこの教育委員会のこの小沼隆教育長で、つまり「男を上げた」のは二度目。立派。
▼栃木県大田原市の快挙も怖いが逆に千葉県船橋市の市立図書館の司書が「新しい歴史教科書をつくる会」や関係者の著作などを勝手に処分(朝日)。これもカルト的な怖さ。同館の「除籍基準に該当しないにもかかわらず」つくる会や同会関係者の著書30冊、西部邁君の著書43冊と渡部昇一君の著書25冊を含む百冊余を廃棄。最高裁も書籍処分は違法判決。この司書らは偶然の結果だと主張し破棄した本の中には岩波書店の『世界』や週間金曜日もあつたといふ。逆の意味でちょつと気になるのはこの程度の規模(こちら)の図書館で(蔵書数は電話で聞いたら25万冊)廃棄されただけでも西部君43冊と渡部君25冊あつたといふのは意図的に多すぎ。

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