富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

七月十三日(水)快晴。猛暑続くが日陰に入れば香港にしては涼しくもあり。木陰でバスを待ちながら余も愛用のMacintosh製造するアップル社社長のスティーヴ=ジョブス氏によるスタンフォード大学の卒業式典(学位授与式こちら)での来賓祝辞が話題になつており読んでみる(こちら)。有名大学でこの晴れの場で(毎年一人のこの祝辞述べるは栄誉も栄誉)大学を出ずとも大成したジョブスが、で内容は“Stay hungry, stay foolish”とテキストを読めば「それほど話題になるほど?」と思うがスピーチというのはその場でその空気のなかで、而もプレゼンテーション上手のジョブスであるから彼が式典で話すのを聞けば殊更感動するのかも。北角で食材など買い出し。豆乳を売る店が北角はことさら多い事実。注意して歩くと北角道あたりは数軒に一軒が豆乳を売る。買い物終わり陽もまだ高く開店早々の寿司加藤にかなり久々に寄る。当然まだ客はおらず口開け。エビスビール小瓶。板前N君の用意してくれた胡瓜とぬた、焼蛸で冷酒で澤の泉コップに一杯。半時間でさつと辞す←美学。近くの勝利小厨で海南鶏飯をテイクアウトし帰宅。雑事済ませかなりたまつた未読の新聞切り抜き数時間かけて読む。
▼今月初旬の信報の記事だが香港大学の民意調査の雄、鐘庭耀氏が専門的立場から自称政治家ドナルド曽の立法会での所信表明演説について分析。ところでふと思えばドナルド曽などと呼びつけしていたが彼は英国女王から大英勲章(The Most Excellent Order of the British Empire)授けられており大英勲章でも序列ではGBE(Knight Grand Cross of the Order of the British Empire)に次ぐKBE(Knight Commander of the Order of the British Empire)で「ナイト」なのである。男爵だ。サーの称号でサー・ドナルドと呼ばなければならない(サーの称号は臣茂と同じで姓でなく名前の前につける)ので今後は自称政治家サー=ドナルドか自称政治家ドナルド曽卿と呼ぶこととする。KBEがどれくらい偉いかといふとビル=ゲイツと同位。でちなみにGBE、KBEに続きコマンダーでCBE、オフィサーでOBEと続き第五位のメンバーでMBEまで。エリック=クラプトンがCBEでベッカムはOBE、ビートルズがなぜか真田広之と同じでMBE。閑話休題。で鐘教授はサー・ドナルドが所信表明演説中にかなりの時間割いて中央政策組による民意調査のデータ用いていること。市民の関心は経済問題(5割弱)、民生(3割弱)、政治と環境(それぞれ1割)で調査に提示した二十五の問題テーマのうち市民の関心高いトップ10を挙げると雇用拡大と失業対策、政府行政改善、環境、公営医療、貧困、行政府と立法会の関係改善、義務教育での少人数クラス実現、年金、旧市街開発、などと続きサー・ドナルドが強調したのは基本法二十三條での公安立法は18位で普通選挙実施は13位と市民の関心低きこと。鐘教授は世論調査の具体的な数字が政治行政に反映することはいいこと、としながらも、このサー・ドナルドの用いた調査は「いつ、どこで、誰が、誰を対象にどのように」調査したか、といふ世論調査で公表すべき前提の基礎データが正確に公開されておらぬ点を指摘。「誰が」は中央政策組」のようだが演説中に「この調査は香港の大学の専門機関に委託」と述べてもいること。どうも怪しい。が怪しい以上にサー・ドナルドが意図的なのは(以下、富柏村私見)この市民の関心あるテーマは現実の生活に関係あるものと政治的関心の2つの異なるファクターが混在している点。雇用拡大と失業対策、環境、公営医療、貧困、義務教育での少人数クラス実現、年金、旧市街開発などは直接の生活にかかわり、政治的関心は政府行政改善、行政府と立法会の関係改善に続きで普通選挙実施があり当面は立法化のないであろう基本法二十三條での公安立法が下位にある。しかも政府行政の改善と行政府と立法会の関係改善は現実の政治上での関心であり、普通選挙実施はこの関心テーマのなかでは政治的関心で而も将来的関心ではわずかにこれ一つのテーマであること。つまり「ごちゃまぜ」のなかで政治的将来的関心である普通選挙が13位にあることはどれだけ関心が高いか、と認識すべき。このような調査項目の整理は社会調査ではとても基本的なこと。それが理解できないのか、だが多くの場合、理解していてデータをば意図的に利用改竄する場合、このテの誤用が意図的にされるのが事実。
▼十日の蘋果日報日曜版で陶傑氏の政治評論連載「星期天休息」が面白い。香港の政治がサー・ドナルドと世渡り・許の公務員コンビの「行政主導」となつたことで、これからの香港で子どもにならせてはいけない職業は「政治家」である、と(笑)。而も政治家を選ぶのは選挙で、選挙こそチャーチルが“No part of the education of a politician is more indispensable than the fighting of election”と述べたほど選挙が政治家を育てる。地域議会から市政局、立法会へと政治家が育つ。香港でいへば廿年前に英国植民地政庁が市政局議会の普通選挙実施から始めた政治民主化の動き。この頃に政治活動志望した若い世代が今、立法会で立場こそ左右に分かれても李柱銘や曽[金玉]成、周梁淑恰、李卓人など活躍しているのはその証左。だが市政局議会が廃止され、区議会もほとんど地元の中小企業社長のお座敷化。選挙制度は肝心の行政長官は間接選挙、立法会も業界枠あり政府に有利、選挙でも親中派や財界、御用労組が後押しして愛国陣営が自らの政治力量以上の得票を得るのが現状。廿年前に始まった選挙制度改革が無駄になる。上述の李柱銘以降の世代は育たず。
▼香港フィルの今季最終の演奏会、マーラーの五番はかなり上出来と李欧梵氏が信報の文化欄で絶賛。地元贔屓もあろうだろうが現在の世界のオケでマーラー奏でて秀なるはオランダ放送フィルと維納フィルで、ベルリンは抑揚ありすぎシカゴは響かせすぎ、サンフランシスコは上手だが意気込みがなく紐育、フィラデルフィア、ボストンもマーラーでは理想的とは言い難い。勿論、香港フィルは世界の水準からは「有待百呎竿頭」だが一歩の進歩あり、と李欧梵氏。そう、言われてみれば昨年の九月だつたか鳴り物入りでWaart氏が音楽監督就任して最初の本格的な口開けがマーラーの一番であつた。マーラーで始まりマーラーで〆る。
▼築地のH君が自民党靖国「慎重派」の勉強会、誰がメンバーなのか詳しく知りたいと欲すればさすが産経新聞(笑)で発起人の名前一挙掲載、は右翼の人たちに「このメンバーを恐喝せよ」の教唆か。産経の記事は実に党紙じゃあるまいに「相次ぎ発足した両議連の動きに、「ただでさえ郵政民営化で党内が混乱しているのに、党内の亀裂がさらに拡大するのでは」(党中堅)と危惧する声も出ている」と(笑)。読売新聞は勉強会への参加者リストまで掲載。さすが。勉強会の講師は剃刀後藤田先生。朝日新聞は隙かさず後藤田先生の「A級戦犯には結果責任がある」「東京裁判受け入れで国際的約束」「首相の靖国参拝は説明つかず」といふ後藤田先生の筋の通ったインタビュー記事を掲載。で派閥別にまとめると下記の通り。発起人は★で勉強会欠席の場合は☆
森派衛藤征士郎★、谷畑孝塩谷立中山泰秀柴山昌彦
橋本派小坂憲次★、後藤田正純★、萩野浩基☆、竹下亘☆、小泉龍司、小淵優子
高村派高村正彦★、大島理森★、北川知克☆、伊藤信太郎
小里派加藤紘一★、園田博之★、原田令嗣
亀井派渡辺喜美☆、青山丘宇野治、三浦一水
山崎派野田毅☆、稲葉大和
堀内派真鍋賢二☆(参)、林芳正☆(参)、西野陽
河野派中馬弘毅
(無派閥)舛添要一☆(参)、荻原健司
という布陣。政治家の先生であるから勉強会参加の思惑もお寺さん背景であつたりいろいろであろう。が荻原健司君の参加が目立つ。ふつうスポーツ業界出身の自民党代議士は失礼だが人寄せパンダ的であるし荻原君も「この国に、スポーツマンシップを!」とか主張はよくわからない。ブログを読んでも一般論。全日本スキー連盟靖国に否定的といふ話も知らない。勉強会と聞いて「なんでも勉強しよう」といふ好奇心だろうか。群馬県出身で早稲田が同窓で福田康夫次期首相の関係とか。
▼SARSの疫禍にてこの疫病が果子狸からのウイルス感染であること突き止めた香港大医学部の研究員夫婦が学会誌に中国での流感蔓延での調査しようとしても中国政府農業部の規定により流感のサンプルだの実体把握困難であること言及。中国にとつて国家的規模の伝染病感染は国家機密といふこと(本日の蘋果日報二面記事)。

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