富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

一月五日(日)晴。Nike香港10公里挑戦賽 03、将軍澳工業団地にて開催され参加。HKAAA主催にて香港の10kmレースでは最大規模、数千名参加あり昨夏開通した将軍澳の地下鉄駅にて 専用バス待つ長蛇の列。54分台と5分30秒/kmと余にすればまずまずの記録、ふだん練習など全くせずこうして大会に参加しこれまで途中棄権なく完走し ているだけでも我ながら感心しつつどうせなら日々鍛練すればもう少し記録もよかろうものをそれをせぬのが余の致命的欠陥なり。終わってZ嬢とタクシーで清 水湾道を上がり釣魚翁郊遊經6.5kmほどを歩くことに。西の眼下にはさきほど走っていた将軍澳の工業団地広がり東には清水湾の海岸と絶壁にたつ高級住宅 地を見下ろす。この經にては釣魚翁(High Junk Peak)344mが最高峰であるがこの香港三大尖頂(他は屯門のCastle Peak、西貢のShark Peak)の一つは径路に急崖危険立入禁止の表示あり道遮断。急崖はいいが径に薮茂りとても入る気にならず郊遊經の通りまずMiu Tsai Tunを迂回するがやはり凛々しく聳える名峰にてちょうどMiu Tsai Tunからの尾根道にあがる横路を見つけそれを上がり釣魚翁に登る。絶景。ただし東の清水湾側は確かに彼方から眺めると美しい急稜も真上から見ると足の竦 む急崖。さすがに10km走行用のReebokの薄底の超軽量靴をはいており下りで膝から足首がかなり痙痛。靴がいかに重要であるかと思い知らされる。こ の清水湾半島の稜線から西半分が見事に崖まで崩されその岩土にて将軍澳が埋め立てられる。この郊外自然公園の境界線ぎりぎりまで岩盤100mほどの高さま で削られた奇景。朝、工業団地(当然全面通行止め)を走っていた時も汚水の悪臭あり工業団地で下水未完かと疑ったが稜線を歩いていても時々悪臭あり不思議 に思えば将軍澳もかなり南に新設の下水処理場ありそこの汚水処理での悪臭が広範囲に漂うと察す。汚水処理といへばマレーシアから生活用上水を購入している シンガポールがマレーシア側の水道料値上げに対抗して星港にて汚水処理から生まれた真水を飲もうといふキャンペーン実施、政府キャンペーンが全ての管理国 家において首相みずからがこの飲料用水のペットボトルの水飲み懸命に宣伝していたことを思い出す。香港も中国側に水の供給止められたら一発で破綻する都市 であり、それも英国から中国への復帰決定の一因。地堂咀まで到着、大廟と呼ばれる天后廟参拝。南支那各地にある天后廟であるが此処は大廟という名からして も香港の九龍側の最南端の位置する、ここから大海に船出する重要な位置であることからしてもかなり見事な廟。仏像も拝むに値す。この大廟の波止場から香港 島の西湾河まで船があると地図にあったがすでに実質的廃線。大澳と岬を挟んで東北に位置する布袋澳にて海鮮で遅めの午餐。海鮮島なる料理屋。南Y島の天虹 の如くこの海鮮島が布袋澳では一人勝ち、か。生簀には蟹、蝦、蝦蛄、貝類と豊富であるし他よかかなり廉価であるがZ嬢と二人なのに「小さめで」とで石班魚 を選ぶ。ふつうかなりの人数での海鮮で出てくる石班魚であるがすでにかなり満腹状態で出てきた石班は美味いのに白飯のおかずでざっと白身だけ喰って終わ り、であるから、たまには寧ろ他は何も食べずに清蒸石班だけ、それに清炒豆苗だけで、じっくりと骨の髄まで石班を食べよう、という次第。美味。客は西洋人 多し。子供づれ、和やかであるが親の威光の絶対さがあるのだろう、どんな巫山戯た餓鬼でも親には忠実で、親という存在の絶対性を垣間見た思い。ファンキー な運転手の超古いミニバスで坑口站、地下鉄で帰宅。夜、昨年あれだけ揶揄して一度も見ておらぬNHK大河ドラマにて『武蔵』見る。唐沢某ぢゃなく顔良し、 声良し、姿良しの成田屋の主演とあっては見ぬわけもなし。それにしても新之助演じる武蔵の父親はビートたけしではあるまひ。ビートたけしじたいはいい役者 だが新之助の父といふニンではなし。まさか実父の十二代目もニンが異なり、歌舞伎でこの役が演じられる役者がおらぬ(故實川延若とかニン)。この役でニン があるのは実際には無理な話だが役者でもあった張芸謀監 督でしょう、やはり。ジャニーズの松岡演じる小次郎かて歌舞伎で役者おらず。歌舞伎の役者の層の薄さ。ハイビジョン用?、画質が鮮明すぎて背景の緑だの滝 だのまで必要以上に映ってしまひ役者は役者で特撮で背景にハメコまれたような像となってしまい、現実感を通り越して煩いだけの映像となってしまっている。 成田屋といへば今日の朝日の大岡信折々のうたに「助六は凧となりても傘挿せる」と。はやく新之助海老蔵襲名で京屋の揚巻相手にした助六が見たいもの。 『武蔵』見てから(といっても時差で一時間早いのだが)夜遅く映画館で『金鶏』見る。先日何年ぶりに『無 間道』見て香港映画の奮闘に驚いたが普段香港映画のことなど語らぬ劉健威氏が絶賛した『金鶏』(監督:趙良駿)も素直に面白い。呉君如演じる妓女が深夜銀 行の現金引出しで強盗(曽志偉)に襲われたが停電となり其処に閉込められた二人、そこで呉君如が自分の十五歳からの風俗人生を語るという設定は『蜘蛛女の キス』とか『東宮西宮』など映画や芝居の定石、これまでの半生を香港の経済成長、六四、移民潮、香港変換と不況……といった香港お得意の“滄桑”、 その時代の風潮で少女風俗から夜総会、バブル炸けて売春宿での淫売から性感按摩、一樓鳳(自宅淫売)と風 俗の変遷。ここに出てくる客がAndy劉徳華、Leon梁家輝が真骨頂の好事家役などいい役者ばかり、胡軍は渋い大陸ヤクザ、産婦人科医の張堅庭など、こ れでもかといふほど芝居のできる役者総出演。老いたスケベ客の俳優たちも名前は知らぬが実は日本でいえば藤原鎌足、伴淳、殿山泰二といった渋い老俳優が出 演。いい役者がいていい脚本(ホン)があれば他は何もいらず。