富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

林真理子『奇跡』

陰暦六月十九日。気温摂氏22.2/29.3度。曇。今日は朝、昨日新宿のBergで購入した珈琲(ブレンド)を飲む。ベルクでは昼間でもビールを飲むので珈琲は実は店で飲んだことがなかつたが珈琲も美味しいとよく書かれてゐて豆はブラジルとコロンビアで多少深めのロースト。製造は蒲田のサンパウロコーヒーでした。

奇跡

家人に「読んでみる?」といはれ林真理子奇跡』(講談社)を借りて読む。(実話でよく知られた話なのでネタバレで書いてしまふが)梨園でも名門の歌舞伎役者の家の嫁が夫との不和のなか壮年のパリ在住魅力ある写真家と出会ひ恋に堕ち幼い息子を連れ実質的な内縁の生活を始め……破局を迎へさうだが夫とは協議離婚が成立し舅である大物役者もこの嫁に最後まで理解を示し息子も無事、役者として成長し胸を撫でおろしたところ数年後に写真家は肺癌で逝去。このヒロインの元役者の妻が著者とは息子の幼稚園でのママ友からの付き合ひで自分のこの半生を物語に託したさう。ヒロインがこの壮年の写真家との最初のデートのお食事が四谷の寿司屋で、そこから麻布の奥まつたバーに誘はれ門前で接吻……なのだが四谷の寿司屋も麻布のバーもアタシも良く識るところでリアル感たっぷりで多少の脚色はあつても実質的に実名小説で誰かしら憤慨しさうだが登場人物は恐らく最もダメに描かれてゐる役者の夫も外で女遊びが盛んだが根は良人と描かれてはゐる。だから「これはこれで好し」なのかしら。アタシが十五代目仁左衛門襲名披露の歌舞伎座松嶋屋の奥さまから「孝太郎の妻の博子です」と紹介されたときも実際にはもう写真家(田原圭一)との内縁関係にあつたわけで、それでも嫁の役をそつなくこなして……今となつて思へば大したもの。千之助君も多感な頃に両親のこの不和と名跡の重圧で普通ならグレさうだが母について家を出て田原のおじさまに可愛がられつ実家の祖父母、父とも良好な関係を保つなんて梨園ゆゑ。それにしてもかうしたプライベートなところをリアルな小説にしてしまふのだから「ほとんどビョーキ」の世界である。