富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2017-06-09

農暦五月一五日。スポーツ紙ばかりか一般紙も大きく巨人13連敗伝へるなか自民党紙たる読売新聞系のスポーツ報知だけが巨人ネタ放置してボクシングのネタを1面トップに。盛夏。冬瓜が八百物問屋の店先に並ぶ。早晩に鰂魚涌。七姊妹道の樂意粉麵で牛什麺を小腹に入れてから近くの倉庫ビルにあるアートスペースで開催された凸版印刷の“Graphic Trial Hong Kong”で末席を汚す。アートイベントなのだが日系企業賀詞交換会の如しで挨拶に立つた香港代表するデザイナーで、このスペースのオーナーでもあるアラン=チャン氏が「こゝにこんなにスーツ姿の男性が集まつたのは見たことがない」と。香港総領事松田大使の挨拶は日本語と英語巧みで笑いも織り交ぜ客を飽きさせぬ「話芸」は大したもの。そのあと日本から参加の浅葉克己先生がぼそぼそ、と挨拶のあと「皆さん、手でピストルの形を作って頭上に向けて」と何かと思へば、そこで「一斉に」と「トッパントッパントッパン!」と。これもお見事。そのあと卓球6段!のアキバ先生は卓球のラケット取り出し客のほうに「アランチャン、アランチャン、アランチャン」と卓球の球を打ち場を和ませる。展示はグラフィックなのだが同時に「トッパンVR」といふ文化財のデジタル化による保存プロジェクト(こちら)で東大寺大仏殿を見せてもらふ。これもまぁ精緻。イベント続いてゐたが途中で退場。軽食もないレセプションだつたのでKerry Centreの粥麺館に寄り雲呑湯麺啜る。このレセプションの間に珍事あり。須磨帆のメッセージにジャカルタ在住の知己からメッセージ入り「今忙しい?」と。珍しいアプローチでちょっと怪訝に思つたが、レセプション中にちょうどこの方にお伝へしたいと思つた小ネタあり画像で送つたが、それに反応なし。その上で「手伝ってほしいんだけど?」と単刀直入に思はず「餅つき?」と返したがウケもせぬ上に「近くのコンビニでBit Cashカードを買つてきてほしい」で15万円分だといふ。ははーん、これがネット詐欺の手口か、で適用に相手してゐたら相手にされなくなりお終ひ。このアカウントのご本人から暫くしてアカウント乗っ取られてゐた、と連絡あり。そこもまだ少し怪しいので知り合ひの名前を符丁にして確認。早寝で夜中に起き小松左京『日本アパッチ族』読了。 昔読んだときは「鉄を食べて生きる超人類」といふ設定や戦後日本が憲法改正し強い政府と軍といふ体制……のフィクションぶりにピンとこなかつたが今になつて読むと憲法(戦後の新憲法)に謳はれる「権利」の80%が「義務」に変はり……とまさに自民党改憲草案で、勤労も義務となり失業は刑法上の罪。上司の鼻を曲げてみせた主人公は解雇され失業したことで大阪市内の「追放地」に追はれる。この程度が罪なら有罪で死刑廃止ゆゑに「永久追放」される国民は多く、とても殺伐とした追放地で孤独に耐へといふ環境がピンと来ず主人公がアパッチ族に救はれアパッチ化してゆくところまでは大阪弁の会話も活き活きとしてゐて「先代萩みたいに、めしめしぬかしゃがって。千松つぁんを見てみい」なんて。それが物語の後半は対国家権力との闘争があまりに大それた筋で説明ばかりになる点が気になるのは以前読んだときと一緒。それでも陸軍による追放地征伐が「演習」と誤魔化され大量の軍の被害も隠蔽され大阪市街での軍事作戦も「そいえば何かドンパチが聞こえましたな」で済まされてしまふ社会がどこか今の日本を彷彿させるから小松左京の「読み」の鋭さに今更ながら敬服するばかり。「人道主義の危険はそれに拠る人間を正義の名のもとに盲目的にすること」と。巽孝之によるあとがきで東京タワーは朝鮮戦争休戦で朝鮮半島から米軍戦車が日本に運ばれ、その鉄が東京タワーになつた、と知る。


日本アパッチ族 (ハルキ文庫)

日本アパッチ族 (ハルキ文庫)