農暦三月二十日。イースター連休の日曜日。快晴。官邸で細々と書類整理。随分と陽も長くなり黄昏にそら豆と啤酒。 そら豆の皮入れに作つた広告紙の紙箱がルイヴィトンで豪華なものになつてしまつた。NHKスペシャルで熊本城再建でわかつた石垣構造の英知を見る。「サムライの英知を未来に」とか、さういふチープなタイトルはいたゞけない。片山杜秀&島薗進『近代天皇論 「神聖」か「象徴」か』(集英社新書)読む。博覧強記の杜秀先生と宗教学の泰斗で立場的には戦後の象徴天皇制高く評価する二人の対談で今上様の「お言葉」のあとの対談でだいたいの主張はわかる。だがこの対談は天皇制どころか日本の幕末からの政治史としてかなり包括的な内容でそちらとして面白い。だが結局のところ明治維新から戦後、今日まで日本の政治=天皇制である。日本会議派は今上様に対して天皇は祭祀に徹すれば、といふが一年の宮中の神道祭祀の殆どが明治期に出来た新しいもので、右派は天皇制をいゝやうにしか利用せず敬ふどころか逆の言動。そもそもこの二人に言はせれば
- 明治維新は「王政復古」による「近代国家」の創出といふアクロバティックな逆説に始まり国民意識の形成不十分なうちに近代国家として兎も角「国民もどき」を作らねばならないといふ切羽詰まった状況下、謂はゞ苦肉の策で「臣民」が考案される。
- 軍隊も国民の軍隊としての幕藩体制のあと命をかけて「日本」なる国を守る理屈が実感できぬから殿や将軍の代はりに「天皇陛下の御為」といふことにして「天皇の軍隊」を生み出し戦死しても近代軍として遺族補償ができぬなか靖国神社で神として祀る。
- 大正デモクラシーも明治期にどうにか近代国家としての形は整えたものの第一次世界大戦で負けたのはドイツやオーストリア=ハンガリー帝国、オスマン帝国といつた王制の古い体制国家で(ロシアも共産革命で崩壊)、勝つたのは英仏、そして漁夫の利を得た米国と民主主義体制の国で、日本は今後の近代国家としての発展は民主主義体制の確立が必要で、しかも共産主義運動の広がりで、それに抗するには、といふ判断でのデモクラシーがあつた、と。
- 「天皇あつての国」といふイメージ構築は国民に浸透し昭和になるともはや修正も利かず国体護持の為には一億玉砕しても当然といふ近代国家理性状態も陥る。
戦後も國體の維持が米日双方の選擇となり「天皇のための国民」が「国民のための天皇」になり、昭和天皇の人間宣言から象徴天皇としての形が出来た上で今上さんがそれを実践し見事な象徴天皇のあり方が出来たことを二人は高く評価。たゞ戦後ずつと天皇制廃止と共和制の実現を唱へてきたやうな左派勢力が今上様を擁護し、本来は親皇思想が全てのやうに装つた右派が天皇は利用するだけで立憲主義をも否定するするやうな宗教カルト化で、日本の政治思想は全く育まれず寧ろ危険な方向に動いてゐるのが現状といふこと。杜秀先生が引用してゐるロジェ=カイヨワの近代の発想が(もはや明白のことだが)大切。
郵便はラブレターを送るためにあるのではない。税金の督促や徴兵の通知を送るために存在する。小学校から音楽の授業をするのも軍隊ラッパやマーチのリズムを聴きわけられるようになるため。体育の授業も将来の兵役に備えての身体訓練。標準語は全国から人間を集めても軍隊や工場で円滑な意思疎通をなしうるため。
さう、鉄道もさう。国民をなぜ運ぶか、は旅行のためではない。
▼千葉で小学生女子が殺された事件、その小学校の保護者が容疑者として検挙されてをりマスコミもこの男が犯人とほぼ断定で報道がされてゐるところ。この女の子のベトナム人の父曰く「本当の犯人かはわからないが警察には本当の犯人を日本の法律で処罰することをお願いしたい」。絶望と犯人への憎悪の中で、この発言にはただ/\敬服あるのみ。
▼毎日新聞「偽ニュースと確証バイアス」藻谷浩介・日本総合研究所主席研究員
(こちら)。
(中国が日本を侵略しようとしているなどという説すら流れるが、中国が日本を攻めれば)中国は日本国内に基地を持つ米軍を敵に回す。米国を最大の市場とする中国が何でそんなけんかを売るだろう。それとも米国が日本を裏切って中国の侵略を黙認するとでも言うのか。いずれにせよ話の現実性のなさは最近はやりの「偽ニュース」のレベルだ。それを「誰の目にも明らかでしょう」と断言する人は強い「確証バイアス」に支配されているのではないか。何かを強く思い込むあまり自説に反する事実が見えなくなっている状態だ。道路を車で逆走するドライバーが極端な例だが、彼らはきちんと走っている他の車こそ逆走していると信じて突き進むのである。確証バイアスの強い人は往々にして被害者感情と他罰的傾向が強く、キレやすく、「お前だってやったじゃないか」と子供じみた言い訳を好む。偽ニュースもニュースだとうそぶき、証拠を示さずに断言する彼らは、あまり偉い地位に就けてはいけないタイプなのだが、残念ながら日本でもアメリカでも、政界や言論界で増殖しているようだ。古き良き自民党員の皆さんを含む、大人げのない態度を憎むすべての人に申し上げたい。この世界がお子様たちのワンダーランドになってしまう前に、日々事実を掲げ、確証バイアスの支配と戦い始めませんか。
まさに、この検証バイアスの強い人が晋三でありトランプだと思ふと何故にそんなのを選んで職を任せてゐるのかとぞっとするが現実。
▼近代の思想書としてのマルクスの『資本論』を大澤昌幸先生が読んで語るとなんて面白いのかしら。
▼陶傑の「為何當前世界危險」(蘋果日報連載、こちら)。 民粹(ポピュリズム)について。
ポピュリズムの最初はフランス革命で王政廃止と急激な民主化のあと改革の大きさに人々がついていけず巨大な反動で以つて王政復古とナポレオンの登場を生んだのが最初。中国の文革をポピュリズムとする説もあるが文革の場合、無制限な民衆運動ではなく結局のところ毛澤東が仕組んだ宮廷闘争だと思へば紅衛兵などポピュリズムは寧ろ弄ばれた側。
民粹產生的另一個原因,是精英統治出現了故障。一艘輪船沒有遇上海上風暴,而是船長的品格和專業判斷出現不服衆的問題而引起海員和乘客的叛亂(Mutiny)。輪船要專業的船長開航,但由於不同的原因爆發了叛亂。民粹用精英設計的民主方式來顛覆民主,打倒精英。民粹聲浪的理由和民主一樣:少數服從多數,你們精英是少數,我們民眾是多數。
英國公投退歐,美國人選出川普,如果是民粹,是民粹的第二種。民主有演說家(Orator),民粹雖然沒有領袖,但後來必有「煽動家」(Demagogue)。希臘羅馬的文化傳統下來,能分得清楚二者。但其他的文化如納粹時的紱國、列寧時的俄國,以及沒有辯論傳統的毛澤東的中國,民眾不知二者的分別。時代已經不同了,但沙皇的精英和國民政府的精英無法正常形成,無法駕馭急變的局勢,此時民粹從下而上洶湧而起,以革命為名,以「民主」為圈套,製造騙局,在騙局裏衍生仇恨和屠殺。
民粹不是好事,因為世界確實要精英來領導。但問題是當精英本身也腐敗而愚昧,有的民粹反比他們更聰明,反過來牽引墮落的精英回到正確的方向。但此一階段,必須是短暫的,而且有相當的風險。現在的西方世界,處於此一時刻,於是人類文明的前途,就押成了很大的賭注。
- 作者: 片山杜秀,島薗進
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