富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2016-07-29

農暦六月廿六日。早晩に銅羅湾で散髪。HMVトミカの日産セドリック2000GL(1975年)と懐かしい「いすゞ」のHillman Minxを贖ふ。ヒルマンミンクスにお洒落して乗りたいわ。帰宅して浅蜊のパスタ。AustraliaはClare ValleyのGrossetでSpringvale Watervale Riesling 2014年飲む。ピアノストの中村紘子さんご逝去。陋宅に4冊の随筆あり。本当に素晴らしい文章家でもあつた。『ピアニストという蛮族がいる』でホロヴィッツの言つたといふ「世界のピアニストには三種類しかいない、ユダヤ人とホモと下手クソだ」の言葉の強烈さ。この文庫が中古でamazonで10,092円なのだといふ。この方が可愛らしい少女で昭和40年のショパンコンクール入賞(この時の1位がマルタ=アルゲリッチ)が日本の高度経済斉唱の中で「うちの子にもピアノを習はせやう」にどれだけ影響を与へたか。物故といへばケーズデンキ創業者の加藤馨氏が今年三月に逝去されてゐたと今日まで知らず。私にとつては水戸の下市にあつたカトーデンキ。小1の時にラジオが欲しいと父に強請つたら「ダメだ」と言はれると思つたのに「昔は自分で作ったんだが」と言つてスバル360でカトーデンキに私を連れてゆきSonyの小型トランジスタラジオを買つてくれた。そこで作業ジャンパー着て店番されてゐた社長がこの方。他の地元の感電店がいはゆる白物家電ずらりと並ぶなかステレオや最新型のテレビが並んだディスプレイだつた記憶。そのあと何十年も記憶が飛び水戸のバイパス沿ひにケーズデンキといふ大きな家電店あり「こんな大型店が進出してきたら地元の家電店はたまったものじゃないね」と呟いたら妹に「ケーズってカトーデンキでしょうよ」と教へられ、かなり驚いた。なぜこのK’sやコジマ、ヤマダなど大型家電チェーンが皆、北関東三県なのかしら。

▼香港の長寿世界一についてSCMPの記事(こちら)より。専門家は香港の喫煙対策の早期実施など挙げた上で
“Hong Kong is a city. Japan is a whole country,” he said, explaining that Japanese living in rural areas may have worse nutrition than Hongkongers as well as less accessibility to health care and education – factors in life expectancy. “In general, people in the city have longer lives, and people in Hong Kong have good access to education, clean water and electricity,” he added.
と「おい、おい」な発言。都市は医療福祉など整備されてゐるが辺境は……と。日本なら都会より田舎暮らしのほうが健康的、なのだが。この人の想像する辺境は(中国のやうに)民度が低い、医療福祉は乏しく学校教育すら不十分。それに対して都市たる香港は教育やきれいな水(どこが?)や電化で恩恵を得てゐる、と。この香港の長寿につき劉健威兄は、こんな悪い環境の中で長寿の原因は「風水が良い」とでもしか言ひやうがない、と。あるいは「内地じゃなくて良かった」といふ精神的安定も長寿の一因か。
▼聖上が生前退位につき8月にお気持ち表明の方向で宮内庁が調整の由。平成の玉音放送、ご当今さま乾坤一擲と申すべき御大事と久が原のT君曰く皇室典範と齟齬しない文脈で如何に「お気持ち」を正確に伝へ得るか、現代日本語で最も高度な作文例となりさう。聖上御自らは涼しいお顔で凄いことをサラリとのたまひさうだが平成の一番暑い夏、忸怩たる気分で脂汗は官邸、日本会議神社本庁竹田宮家くらゐかしら。
The Economistの表紙に日の丸を背景に晋三。矢の向きが何とも微妙。Abenomics - What it can teach the world?(こちら)って答へは明確で“Abenomics is a paper tiger”でせう。これまであれだけアベノミクスに期待をかけたThe Economistが“Compared with its own grand promises, Abenomics has indeed been a disappointment”とついに不評をコメント。

If companies are determined to spend far less than they earn, some other part of the economy will be forced to do the opposite. In Japan that role has fallen to the government, which has run budget deficits for over 20 years. Mr Abe set out intending to rein in the public finances. But after a rise in a consumption tax in 2014 tipped Japan into recession, he has backed away from raising the tax again.
消費増税による歳入の確保、高齢化と少子化に対して外国人の受け入れなどアベノミクスの成功に本来必要な政策決定の先送りでは成功があるはずもない。
Abenomics has fallen short of its targets and its overblown rhetoric. That makes it easy to dismiss as a failure. In fact, it has shown that central banks and governments do have the capacity to stir a torpid economy. And in some senses, the hype was needed. Japan’s stagnation had become a self-fulfilling prophecy; Abenomics could succeed only if enough people believed it would. This is a final lesson that Japan’s economic experiment can impart to the rest of the world. Aim high.
と苦言するのは先進国病からの脱出には(サッチャーのやうな)強引な妄想のやうな「かうすれば立ち直る」といふ処方箋を信じる思ひ込みも必要。それなのに自分たちで病状の未回復を嘆くばかりで抜本的な治療をしない。今回、晋三が日銀黒田と蒔いた追加緩和といふカネが異次元の相場介入でどこまで有効なのか、これが最後の賭け(これも失敗なのだが)。“Aim high”といはれても、ねぇ。結局、アベノミクスは(最初から判つてゐたことだが)失策。それでも欧州など日本に続く経済病の国はこの日本の画期的な政策を見習ふべき、と、このへんがThe Economistらしさ。確かに少子高齢化や市場開放など対応が比較的成功してゐる欧州なら、この経済刺激策は有効だらう。でも「アベノミクス」といふ呼称だけは不愉快なので止めてくれたまへ。
▼もう一つ、The Economistからの記事は相模原の殺人行為について。拳銃による殺人が1.26億の人口で昨年1件しか発生してゐない日本(さうなの?)は“Still safe”(こちら)。このやうな殺傷事件の発生で「激増する凶悪犯罪」とメディアは踊り「真相究明に全力をあげる」と晋三が宣つてみせても他の先進国に比べてば市民が安全脅かされてはゐない。むしろ危険なのは過剰反応、と。御意。池田小での児童殺傷で学校は校門を閉じ守衛を置き子どもたちは世の中は危険な場所と教へられる。読売新聞は施設の防犯安全強化を訴へ(てみせ)る。さうしたことをしても
it is hard to protect everyone from the actions of an unstable citizen who is determined to do harm.
と、それが事実。だがそんな当然のことをいふ言論がないのだ、日本には。
▼ジャーナリスト・森健氏の「野党以上に敗れたメディア」(毎日新聞)より。国民の多数が憲法改正について国会の「3分の2」規定をよくわかつてをらず、それでも改憲は「晋三の政権で」には抵抗あつても改憲議論には大方が前向き。国会議員も同様。だがどこをどう変へるか、は曖昧。自民党のトンデモ草案も疑問深まらず。大学生の「憲法をふだん考えておらず、改正には抵抗はない」といふコメントが、これが世間の無関心な空気に近い、と。かうした無関心層をいかに議論に引き入れるかとメディアに求めるが、メディアがさうしたところで無関心層には何も響かず。