富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

マカオに遊ぶ(3日目)

fookpaktsuen2016-07-03

農暦五月廿九日。ホテルのチェックアウトは午後3時まで延長してくれてラウンジで早い朝食は香檳酒に酔ひ朝寝。ぼんやりとマカオ市街、中共側の土建開発を眺めて過ごす。マカオの西沿岸から珠江デルタの海向かうを眺めると珠海の横琴の鄙びた漁村が点在してゐたがみる/\うちに埋め立てと開発進み高層マンションなど建ち始めマカオ大学がコトもあらうに横琴キャンパス造営し(学問の自由もあつたもんぢゃない)マカオと連携した開発と銘打ち、その極めつけが横琴にドバイの如き国際金融中心を、といふ狂気の沙汰。宿から眺めてゐると対岸の下流に完成間近の高層ビルは珠海中心大厦(330m)で66階建て。コンベンションセンターを備へ、このビルの下層は今更どんな企業が入居するのか、37〜65階はSt. Regisホテルなんださうで、シェラトンのStarwoodホテルチェーンにしてみれば「どうせ中国企業への名義貸し」にしても誰が好き好んで、こんな珠海でも辺境でビジネスなどしようものか、この開発は無謀すぎ。しかも計画では横琴总部大厦なる高度470m、108階建ての超高層ビルも建設予定でマカオと連携したビジネス、観光の目玉に、と意気込むさうだがマカオの賭場観光が已に下火で中国の経済発展も頭打ち。開発会社も資金繰りは已に厳しく開発中止もあり。廃墟なら造らないほうがマシだが開発経済で巨万の富得た連中はすでに海外に逃亡済みか。昼は部屋で果物頬張り空腹を満たしジャグジーに浸かり、またぼんやり。ジャグジーのお湯は眼下の東亜ホテルと同じ碧色。退房。路地を抜けマカオソウル。普段なら午後遅く店開けのところ本日はご亭主夫妻が晩遅く倫敦に夏の一ヶ月の帰省で、それなら店は昨晩を最後にすればいゝのに今日は正午からでワイン商のT氏が顔を見せた以外は結局のところアタシらだけ。DouroのAndrezaといふ白のGrand Reserva 2010年飲み「今日で休みだから」と美味しいチーズ振舞はれる。好物のこの酒場自家製のオリーヴ漬けを持ち帰りでいたゞく。まだ日も高く漫ろ歩き陸軍倶楽部に行くがドレスコードで男性のショートパンツはダメで(自分の格好をすっかり忘れてゐた)、路線バスで氹仔。いつも通る路地で、レストランの勝手口にゐる犬を愛で、またバスで旧市街に還る。乗つたバスの行き先が高士徳大街通るので二晩続きで三盞燈。昨晩食べ損ねた香馨緬甸餐廳。改めて食べると塩っぱくコクがありすぎで昨晩の小店の方がアタシの好みかも。市場街を抜け路線バスでホテルに戻り荷物受け取りホテルのシャトルバスで波止場。三連休のしまひで香港戻りの乗客多し。途中大雨。香港は快晴の晩。

▼週間読書人(6月24日号)で柄谷行人インタビュー「無意識の超自我としての憲法9条」読む。憲法9条を授かつたことを神の摂理だとか神の計らひで、下手すると「日本は神国」で大東亜共栄圏や近代の超克になつてしまふが……としつゝも「こんなことは日本にしか起こり得なかつた」、これは「有り難い」ことと行人センセイ。戦争放棄は無力のやうで実は力強く、国連の常任理事国になつて国連で9条の戦争放棄を高らかに謳ひ各国の市民革命を促し世界同時革命を……と読んでゐる方が恥ずかしくなつてしまふやう。確かに資本主義は資本の蓄積(自己増殖)が限界に近づき、それで資本主義は終焉を迎へても(つまり反資本主義の革命運動は不要といふことか)人間の生活は残るのだから、と柄谷行人老いユートピア的観念論に。天皇制について「かなり長期にわたって日本の社会に残っていくと考えている、今、これを変えようなんて一切主張していない」と述べ、自衛隊に関しても「今の東アジアの(安全保障)環境の中で、なくせるわけはない」とする代々木の方がよっぽど現実的。
官房長官菅某がダッカ騒動の対応必要な昨日、新潟で選挙応援してゐたことにてついて日経で宮家邦彦といふ方(キヤノングローバル戦略研究所)の冷静なコメント(こちら)。

邦人保護は基本的にプロの仕事だ。内閣危機管理監や外務省領事局、在外公館などつかさつかさで行政の専門家が最善を尽くす。政治家の仕事は判断だ。決断が必要な時に政治家としての力量が発揮できれば良い。政治家と官僚の役割分担を理解すべきだ。
今回の事件は政治レベルの判断が必要になる余地は限られていた。官房長官首相官邸に残っても状況に変化はなかっただろう。
選挙応援に世論や野党が反発し、政治的に批判されても、それは行政と政治のバランスに関する官房長官の政治判断の問題だ。

「つかさつかさで」って言葉がいゝねぇ。縦割り行政とか官僚主義と悪くは言はれるが「つかさつかさで」ってのは「あり」なはず。
▼日経で英国EU離脱につきエマニュエル=トッド先生の英国寄りな?EU危機説(こちら)、一読に値す。

  • 英国のEU離脱は転換点。歴史的な循環の始まり。直近の〈循環〉は1980年代にサッチャーレーガン新自由主義が現れグローバル化が進み「国家や社会の境がなくなる」という夢があったが(EU離脱選択の)英国や(トランプ現象に見られる)米国で、この循環が終わった。保護主義の台頭。移民問題の普遍化。
  • 沈みそうなEUから英国が出ていくのは普通のこと。離脱に投票した社会階層はブルーカラーより上で、中間層の下位グループなのは社会経済学的な意味で自然なこと。格差が最も広がり、新自由主義が最も蔓延している国。一方で「エリート層に反乱を起こす」のは英国の伝統ではない。グローバル化が進み、社会の苦しみが耐えがたい水準になったのだろう。
  • 離脱という今回の結果は年齢層の高い人々、少なくとも45歳以上によって齎された英国やフランスでグローバル化の痛みを受けているのは若者のはず。彼らは優しすぎ、お人よしすぎる。
  • 英離脱はEU崩壊のプロセスの始まり。英国の選択は「反民主主義的で破綻に向かいつつあるEUのシステム」からの離脱。かつて自由で平等な国々の共同体だつたEUは今はドイツを筆頭とするひとつのシステム。世界経済を不況に陥れドイツがフランスとともに周縁国にダメージを与えかねない政策を進める。
  • 欧州の選択は「倫敦をリーダーとする国家からなる欧州」に緩やかに戻るか、ドイツを頂点とするシステムに所属するか。欧州についての懸念は深刻な権威主義。英国は大きなバランス役でドイツの権威主義の防波堤だった。欧州は最終的に大惨事に陥る。問題は政治エリートが歴史に無関心で、短期的に何かを決めようとすること。それは経済主義の影響でありエリート層は金融市場のリズムの中にいる。

トッド先生は英国のEU離脱が「冷戦の本当の終わり」だと言ふ。西側世界の内部で対立激化。ロシアとの対立は徐々に二次的なものに。東西冷戦といふ擬似的な対立の終はりは本当の終はりの始まりになるのかしら。