富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

珠江デルタ紀行

fookpaktsuen2012-08-29

農暦七月十三日。深圳羅湖に野暮用あり帰りに羅湖から香港に入るつもりが深圳商業城地下のバスターミナルで行き先眺めてみたら十分後にマカオ行きのバスあり思はず乗車。鉄道が乗客のID確認するのに比べバスは緩いな、と思つてゐたら車掌がいきなり何の断りもなく乗客をデジカメのビデオ機能で撮影して乗客顔映像を記録。何ってこった。呆れて言葉もなし。深圳市街を出て寶安から福永、東莞の長安に入り阿片戦争の激戦地・虎門から珠江を渡る。ここが絶景。日本人的には関門海峡のやうな幅なのだが、ここが珠江の未だ河口でなく下流。何てこつた!で広州の(といつてもかなり広いわけで)トヨタ自動車などある南沙、珠江デルタの田んぼやかなりの規模の養殖魚産業の生け簀など高速道路から眺めつつ孫文の故郷・中山、で珠海市に入りゴルフ人士にはお馴染みなのだらうがアタシは初めて眺めるマカオゴルフ場から臨海の、まるで気分はサンタモニカな高級リゾート地、高級マンション見上げながら珠海市街に入り雨模様のなかマカオ口岸まで二時間五十分。珠江デルタの世界でも有数の工業地帯でありながら風光明媚、まだ農業や漁業も盛んでこのバスルートは社会科学習としてかなりお勧め。イミグレはかなりの行列。マカオに入り何をする予定もないが先日マカオから戻つた際に香港でマカオパス失くしたので東東超市でマカオパス購入(130パタカ)して路線バスでフェリーターミナル。たまにはヘリコプターと一瞬思つたがたまにはジェットフォイルスーパーシートで香港戻り。帰宅して自宅マティーニ
▼昨日から速水健朗『ラーメンと愛国』(講談社現代新書)読んでゐたが読了。戦後の日本のラーメン史で日本人がラーメンがいくら好きだから、とラーメンと愛国主義を重ねたところで、だうしたら280数頁の新書になるのかしら、と思つたら、かなり戦後の日本の社会経済史のお復習ひ多く半分近くがラーメンとは関係ない鴨。たゞこの戦後史も若い読者には必要で、そこは速水健朗ほどのライターさんなので上手にまとめてゐる。ラーメンと愛国は確かにちょっと無理もあるが

1990年代以降、日本のラーメンは、かつてラーメンが持っていた中国的な意匠をはぎ取って、「日本の伝統」らしきフェイクで塗り替えていった。

とまとめて見せるのは、戦後、偽の中国チックだつたラーメン屋を和風居酒屋のやうな内装、カウンターには職人っぽい若者がTシャツでバンダナやタオルを頭に巻き、店内には必ず相田みつを 的な人生訓が下手な字で掲げられ……速水健朗はこれを「作務衣系」と呼ぶのだが(笑)、中国風のラーメンを、そこに「中国系を否定、排斥するやうな心情は無かった」のだが……と断るなら愛国につながらない気がするが、ラーメンのオリジナル化を戦後の日本は目指し、ただ実はそのラーメンの伝統も「ご当地ラーメン」が捏造されたのは偽史だと断言し、ただ固有の風土や特産物をご当地ラーメンという物語にして見せ、大量生産でない職人の匠が評価されるラーメンの世界、のれんわけ……といつた作務衣系のしきたりに日本的な伝統らしきものを見いだす。「ラーメンと愛国」と言つてしまふと多少無理があるが「ラーメンと現代日本」ならほんと不思議と現代日本=らーめん的にいろ/\な事象が語るに能ふから。
▼国会議事堂前のデモは恒例となり朝日小学生新聞でも一面トップで「デモ」の由。たゞナチもデモと民衆運動で台頭といふ歴史もあり「デモの賞賛は「代議士の選挙」への絶望感の裏返し」と佐藤卓己(都新聞、論壇時評)。卓己さんが紹介してゐるが『正論』誌の47人(って赤穂浪士か)の正論社中が推す首相候補はトップが安倍晋三(11人)、石原慎太郎(10人)に続き稲田朋美桜井よしこ橋下徹……と、いくら『正論』だから、っても少しマシな候補がゐないのかしら。で驚いたのはこの47人のなかで「該当なし」と回答したのが園田天光光……ってまだご存命とは。で佐藤先生がかなりきちんと紹介するのが小倉紀蔵「ふたつの民主主義」(「環」夏号)。戦後日本は「孤立」民主主義で朝鮮半島は北は「抗日」、南は「反共」といふ「大義」あり、戦後日本は大義ないまゝに日米安保体制下で「過去の清算」無視して孤立主義に甘んじ「戦後リベラルという陣営は、何を勘違いしたのか、日本国憲法的民主主義に関して極めて理想主義的な気分を高揚させつづけた。しかしそれは日本国内でだけ通用する態度なのである」。これを受け佐藤先生は

この孤立的民主主義は、竹島尖閣の問題で露呈した日本における外交の不在を証明するだけではない。孤立的民主主義はデモを必要としないが、大衆の共感を操作する大義的民主主義とデモの親和性は高い。果たして、「人がデモをする社会」は日本の孤立的民主主義を変えることになるのだろうか

と。……変はらないだらう、残念ながら。

ラーメンと愛国 (講談社現代新書)

ラーメンと愛国 (講談社現代新書)