富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

玉簪記、琴挑、岳美緹の潘必正と張靜嫻の妙常

fookpaktsuen2011-01-06

陰暦十二月初三。小寒。晩に西湾河。鰂魚涌にゐたZ嬢と彼女の勧めで合時小厨といふ食肆で夕餉。あつさり至極美味。坑口村にも同店あり。Z嬢と別れ西灣河文娛中心劇院。南蓮園池中樂系列*1で崑曲聴く。崑劇のうち名場面の謡曲をじっくりけを聴かせるわけで今晩の目玉は何といつても「玉簪記」の「琴挑」で岳美緹の潘必正と張靜嫻の妙常。岳美緹(写真)も鬘の下の鬢はすつかり白髪で、そりゃ崑劇の大役者ももう今年で喜寿靜嫻ももう舞台より後進の指導、演出に多忙な重鎮。この二人が折中戯とはいへ、かうして往年のコンビで舞台に立つのももう珍しくなつたわけで今回は寧ろ「崑曲雅樂」と題した謡曲聴かすが趣の舞台でそりゃもう往年のファンには垂涎の催し。じっくりと「琴挑」を聴かせるが(二人の崑曲が素晴らしいは当然として)期待以上に面白かつたのは何より二人の「琴挑」の演技ぶり。一線で主役を張つてゐたころになら謹んでをり、何かアイデアはあつてもやつたら「やりすぎ」と思へて控へたであらうやうな表現を、それはいくら多少コミカルな「玉簪記」の芝居とはいへ伝統的な崑劇のルールから逸脱してしまふような表現を、それを大御所の二人がやつてみせるから、それがまぁ面白い。客もわかつてゐるからその逸脱に喜ぶ。演じ手と観衆のお互ひに何十年といふ付き合ひがあり余裕があるから赦される、この「掛け合ひ」がアタシも末席から体感できることがやたら嬉しい晩となつた。さらに「琴挑」は「寒夜」琴挑。小寒で実に冷える晩に舞台で必正役の岳美緹が凍へてみせるのが、これがまた乙。今晩あらためて思つたが、大和屋には悪いが、やはり崑劇は崑曲。崑腔。崑腔がなければ崑劇にあらず。あらため歌劇なのだ、と学ばされた。また特筆すべきは楽隊で上海崑劇団より笛の銭寅はまぁ見事な奏で。香港の古筝の演奏家、謝俊仁が「琴挑」の琴を舞台に合わせ袖で演奏。

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*1:南蓮園池は九龍にある志蓮浄苑なる新興の寺院の庭園。其処で屋外の歌舞音曲聴かせる一連の楽会(がくえ)あり、その一つがこれで週末は南蓮園池だが今晩は西湾河の劇院で開催あり。週末の晩に九龍まで往くのも、とあきらめてしまつたが南蓮園池で岳美緹らの演じる牡丹亭や玉簪記を一幕物で見るのも乙なこと。