十二月四日(土)曇。昨晩バーSで邂逅の(といつても半ば予定調和的であつたが)K氏にZ嬢お誘ひ受けアタシも一緒に炮台山で早茶。一つ仕事済ませてからZ嬢と中環。立法議会議事堂の公開日。年中行事だが来年には金鐘の香港政府新庁舎に隣接となる新議事堂に移る予定でこの歴史的な議事堂の一般公開は今日が最後、ですでに長蛇の列で二時間待ち!は70名だかのグループ毎に入場させご丁寧に議事堂内部の説明が部屋毎にあるから70名というのは議事堂で立法会議員の議席60名+閣僚席で全員が着席して説明を受けられるわけで実際に議事堂ではアタシらの時間は公民党の陳淑荘(Tanya Chan)議員から説明あり最前列の議席(個性派弁護士で旅遊業界枠で選出の謝偉俊議員の席)に坐つてゐたZ嬢一瞥して「あれ、日本人?」と尋ねられたのも広東語グループに混じつてゐたからで今日は広東語の他に普通話と英語のグループもあり入場者は普通話と英語は入場者も少なく時間指定で上手くすれば一時間も待たずに入場できるのに広東語だけは時間指定もなく二時間以上も待たせるのは不公平とそれも道理。まぁ議員には至れり尽くせりの快適な議事空間。結局午後二時に至つてしまひFCCでお茶して小休止のあと旧中央警察署。こちらは香港撮影節(www.hkphotofest.org)で香港最早期照片展とdeTour2010(www.detour.hk)というアート展ありいずれも旧中央警察署の歴史的建造物をどう使ふか、殊に後者は中央警察署裏手のヴィクトリア監獄の密集建築、迷路的な空間をどう使ふか、が見もので申し訳ないがもう見飽きたやうな歴史写真やアート作品は二の次。それにしても香港にこんなアートシーンがあつたの?と思はせる若者たちのアート活動はそれなりに立派。夕方一つ打合せが、それも石硤尾でありZ嬢と別れ急行。終はつてから九龍バスの2E系統はアタシにとつて何年ぶり?の冷房なしの旧型バスで石硤尾の白田〜九龍城まで直線距離なら九龍塘から新蒲崗を抜け2kmくらゐを深水埗〜大角咀〜佐敦と抜けて九龍城に往くかなりディープな経路で而も空調なしは本当に身体に良くない。アタシの目的地は九龍站で渡船街でバス降りて歩くつもりが深水埗〜大角咀は土曜早夕でも少し渋滞あり奥運站近くでバス降りてMTRで九龍站。圓方の映画館でZ嬢と待合せ映画『酒徒』見る。原作は劉以鬯(1918〜)。劉以鬯とへば荷風散人のいはゆる花柳小説とは違ふが戦前の上海趣味、モダニズム色濃厚な小説を戦後、旅居の香港で発表し続け、これまでも王家衛のモダニズム映画「花樣年華」や「2046」は劉以鬯の多大な影響があるさうだが「酒徒」は映画化困難といはれていたものを黄國兆(映画評論家)が初監督の由。明報や信報で「なか/\佳作」と評あり上映がChinematiqueと圓方の一番小さな小屋と揮わぬのが寧ろ臍曲りのアタシには興味深し。主人公(張國柱)は上海から戦後は母と香港に移住し通俗的な小説を新聞連載する云はヾ三文文士。原稿料が入ればナイトクラブに遊び朝からウヰスキー痛飲は上海での抗日戦の悲惨な記憶がトラウマもあり。映画は延々とこの作家の酒と女、文学の日々が続くがアタシには予想以上に飽きない作風。劉以鬯の作品だから、でせうが主人公のダンディズムがアタシには素敵だし演じる張國柱は(今では張震の父といつた方が通り易い加茂)今どき文士役が出来る数少ない役者(日本でいへば山崎努)。戦後モダニズムのかなり昔を描いた作品と思つて見てゐたが映画の中でラジオから流れるニュースがキューバ危機でケネディが云々とアタシにとてはちつとも古くない話。アタシがいかに老ゐたか、の証左。圓方のなかでアタシたちに食べるものもなく、いつものやうに渡船角に往く。隨變麻辣雞煲は相変はらず爆満、添記法式三文治は売り切れ、で和記海鮮飯店に食す。しみじみと美味いと感じる。ミシュランだのグルメ評がなんだ、かういふ底力のある料理屋が市街に点在する香港の素晴らしさ。
富柏村サイト www.fookpaktsuen.com
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