八月十日(月)明け方大雨。頗るよく降る。その雨の中、新宿。南口の禁断のマップカメラに開店と同時に往く。カメラには目もいかないが美しいレンズの数々。品薄のはずのリコーのGRのL式が6〜8カメラ円で並びノクチはさすがに55カメラ円だか。GRのL式の28mm F2.8は1997年に三千本の限定発売のうち四本が此処の商棚に鎮座し数年度に1.7千本限定のうち二本が目の前。この邂逅を逸することも出来ず……と苦悶。だがふと目を転じると「新品コーナー」にコシナ社がBessaシリーズ発売十周年紀念で発売のNOKTON 50mm F1.1が其処に。先月だか発売でメーカー価格13.5カメラ円が七掛。しかもアタシは消費税免税優遇もあり。ノクチに50カメラ円は三歩くらゐ退くがこれだと一歩退き、でもまた一歩踏み出してチョンだらう。商談成立……つて店との、ぢやなくてアタシの中の良心と真心との、だが。心うき/\、いまは雨期。安田火災海上ビルが損保ジャパンビルになつてゐるのを見上ながら常圓寺。祖母の墓参。新宿Lタワー地下に潜み鮨いしかわで握りを頬張る。東口の伊勢丹。メンズ館徘徊。今回はせつかくパナマ帽かぶつて日本に来たのに連日の悪天候でパナマもかぶれず。プラハの長徳先生は夏の陽ざし楽しんでいらつしやるのに。で(それを理由に)雨でもかぶれる灰色の混合素材のパナマ風帽子購ふ。地下鉄で銀座。ライカ銀座店は月曜定休。八丁目の宮脇賣扇庵で消耗品の扇子を二つ。雨が幸ひにして歇む。「らんぶる」に珈琲飲む。この珈琲専門店ももうお盆で銀座の珈琲飲みもをらぬかしら、で閑散。やつぱり美味い。アタシは高校の時に知人から「らんぶる」のポットいたゞきドリップ珈琲を独り愉しんでゐた、ドリップはどう熱湯を注ぐか、なんて講釈して。銀ぶらして若松で豆かん頬張る。歌舞伎座で母と待ち合はせ。八月納涼で第二部。累ヶ淵(豊志賀の死)と船辨慶。累ヶ淵で豊志賀役の福助、この人は踊りでは芝翫譲りで輪をかけたやうに無表情だが人情物など芝居になると極端に演技の濃さが面白い。この師匠に惚れられる新吉役の勘太郎も子役の頃の個性豊かな?顔がだいぶ整つた感あり。お久は時蔵の子の梅枝。彌十郎(勘蔵役)がかなり存在感あり。幕間で観客の一人が携帯で「いま歌舞伎見てるんだけどね、お岩さん」つて累ヶ淵は四谷怪談とは違ふぞ。さう/\お岩さんといへば長徳先生がブログ(八月三日)「いふぉんの悲しみ」でアタシの綴ったiPhoneの製造現場での管理責任者の自殺の件を取り上げていたゞき、そこでこの「1台足りない」を番町皿屋敷のやう、と書かれていた。確かに云はれてみればその通り。この話をば先生もご自分が「いふぉん(iPhoneをチョートク先生はかう呼ぶ)で読むのは何か複雑な気持ちである」と……御意。閑話休題。中入後の船辨慶はアタシは世話物、人情話より松破目物が好き、でこれが楽しみ。勘三郎(静御前と平知盛の二役)、福助(義経)、橋之助(辨慶)に三津五郎の船長と八月らしい顔ぶれ。なんたつてアタシは昔からハッシー贔屓。すつかり辨慶役者然。三津五郎の踊り。勘三郎、静御前の今様の踊りはさて置いて謡ひが良くない。知盛も怨霊で暴れる役は誰彼でもない。「熱演」といふのが中村屋にとつて先代からの賣りなんだらうけど、それぢや熱演ぶりと愛嬌を取ると果たして何が残るのかしら、と母と語る。座長なのだらう、やはり。芝居跳ね歌舞伎座の前でZ嬢と待ち合はせ。今晩は日本橋の「みかわ」のご主人が大川の向かう(門前仲町)に出した店で天ぷらを楽しみにしてゐたがアタシの胃痛がどうにもひどく天ぷらはご免なさい。まだ夕食には早いので三人でいつたんバラけてアタシはサンボアでハイボール一杯。読書。アタシにとつては万能薬のハイボールも、しかもサンボアのでも胃痛に効かず。母とZ嬢と再会して京橋の越州は母のお勧め。長岡の朝日酒造の直営で越州でも久保田でも飲みたいが胃痛が何ともしがたく梅酒の水割りちび/\と舐めつゝ肴をほんの少し頬張る。黒ビールを美味さうに飲む母、越州をきゆつと「アンタは吉田健ちやんかひ?」のZ嬢がうらやましい。アタシが今日着てゐた開襟シャツ談義となる。Z嬢の話ではアタシが実家から貰つてきた品だがきれいに畳まれたまゝ袋に入つてゐて父が着た形跡なし。ただ母曰く開襟シャツなんて仕立てたはずもなくデザインもあまりに古い胸の両側のポケット。しかもサイズが胸板の厚かつた父にしては小さく、結論は「結婚前に誂へて何十年も、ッて半世紀近いがずつと着ないで畳んだまゝだつたんぢゃないかしら」。それをアタシが譲り受けアタシも今回の旅行前に行李から出して初めて着た次第。胃痛ひどく地下鉄乗り換へも厭ひタクシー自動車で母を銀座に降ろし鳥居坂までZ嬢と戻る。胃痛にかなり苦吟。
▼昨日、千葉駅前のバス停で「モノレール頭上注意」と看板あり。何を注意するのかしら。モノレールが降つてくるとか。
▼女芸人の覚醒剤に因する逮捕で「芸能界に麻薬蔓延」だの「芸能界を蝕み始める覚醒剤」なんて報道が續く。だが芸能界と麻薬なんて今に始まつたことに非ず戦後の寄席の楽屋なんてヒロポン蔓延甚だし。「現代社会に忍び寄る麻薬覚醒剤」なんてベタな報道を信じるべからず。
富柏村サイト http://www.fookpaktsuen.com/
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