富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2008-09-20

九月二十日(土)快晴。暑さ猛々し。今週終はらずの針仕事済ませ着物屋に届け秋の仕事の打合せもあり眼鏡の修理もして夕方にやうやく時間出来て按摩。昼食もとつてをらず夕方に天后の華姐清湯腩。店の隅に置きッ放しの布に包まれた物体あり何かと思へば簡易椅子倒して昏々と眠る華姐の巨体。ほとんどガルシア=マルケスの世界だね、こりゃ。西湾河。電影資料館で「熒幕新潮 ─ 譚家明的電視影片」が今日から始まる。70年代の香港テレビ界のドラマ全盛期。譚家明の「これがテレビで?」と思はせる大胆で深刻な映像世界。で1976年のCIDシリーズ「偉仔」見る。主人公の若い刑事役は任達華が若大将のやう(いまでもギラ/\に芸能人フェロモン発散してゐるが)。30分のドラマで、これに続き1977年の「13」シリーズから『弒父』。脚本が舒琪。 貧困家庭で酒に溺れた父と暮す健気な少女役は陳玉蓮が美しい。父に犯されて、の父殺し。いづれの作品も70年代の香港の市街が、これは彼処、これは此処、と懐かしいかぎり。もう一本の短編は見る時間なくバスで海底潜り紅磡。鈴木清順の『けんかえれじい』の上映は科学館、と思つてゐたら紅磡でバス降りて切符を見ると太空館。上映開始まで10分余、歩いてか、バスに乗るか、タクシーに乗るか、土曜晩とはいへ尖沙咀ぢや渋滞も、と思つて、ふと東鉄(旧KCR)で此処(紅磡)から尖沙咀東に行けるのだッた、と紅磡火車站より1站区間の乗車で21時の上映に余裕で間に合ふ。高橋英樹が旧制中学の少年演じるのに老けすぎ、で、それでも実際に22歳と知ると余計に「なんて老けた22歳なのっ!」とおすぎ的に驚くが、昭和初期のバンカラの旧制中学生が喧嘩に明け暮れるのは自由だが映画冒頭の「昭和10年頃」といふキャプションが出ただけで「中国大陸的には」この若者の無鉄砲な、なんの根拠もない暴力がそのまゝ中国への日本軍の侵略行為と同根か、と思へてならず。まぁ八紘一宇とか大東亜共栄圏とか言葉だけは踊つても英国のやうな植民地経営の青写真や哲学があるでもなく単なる蹂躙、侵略。とにかく喧嘩がしたい、それも愛するカソリックのお嬢様の手を握るも躊躇し、自涜をばせぬがための喧嘩、喧嘩。その無分別の喧嘩の行き着くところが(原作にはなく映画では)北一輝で、高橋英樹演じる主人公・麒六は革命に参画すべく会津から東京へと向ふ。全共闘運動華やかしき当時はこれがウケただらうが結局は鈴木清順がどう考へたのか知らぬが暗喩的には「思想の欠片もない」こと。昭和10年といふのはすでに日本の中国侵略の時代で、その頃を舞台にこの、ただ暴力だけ=純朴も罪である、の日本を中国側でかうして眺めると、いかりや長介的に「やッぱりこりゃダメだ」と思ふばかり。さういふ見方を除けば鈴木清順の映画らしさ、といふ意味では面白く、北一輝役の緑川宏がやぱり凄い。土曜晩でもきちんと静寂なペニンスラホテルのバーに獨酌。週末の新聞をぢつくりと読みつゝドライマティーニ二杯。手が新聞のインクで汚れるころに、さっとおしぼり供されたり、嬉しいねぇ。
厚生労働省の課長補佐が05年9月の総選挙前日に都内の警視庁職員官舎の集合ポストに新聞赤旗号外を配つたことで国家公務員法で在宅起訴され東京地裁は罰金刑の判決。被告は国家公務員としての矜恃はあり休日の私生活上での政治活動として思想信条の自由を冒すもの、と考へる。怖いのはこの赤旗の号外配布中の現行犯逮捕といふ行為。それぢや逆に国土交通省の課長補佐が自由新報の号外配つたり課長が自民党の先生の接待を受けたり、外務省職員が聖教新聞の販拡を知人にしてゐたら、そこで警察が現行犯逮捕するかどうか。されないだらう。
金融危機の今週が終はる。いくつかスクラップの断片。18日のIHT紙でThomas L. Friedmanが There is no such thing as a risk-free return. When you reach too far for yield, sooner or later you get burned. と。今日の同紙には印度はデリーの読者からの投稿“American socialism”で米国は印度や中国の政府による銀行への資金提供を非難したが米国は今まさにそれに必死。社会主義が新だ、なんて嘘。米国で滔々と実践されてゐる。但しこの社会主義は損失を国に集約し収益を国家が私有化するもの、と(言葉はヘンだが、But this socialism nationalizes losses and privatizes profits. といふこの文意では「国有化」とは異る)。週末を締めくくる記述としてはFT紙のPhilip Stephens氏による“Why global capitalism needs global rules”がお勧め。
Alan Greenspan brushed the evidence aside, courting applause and celebrity as mortgage lenders advanced billions of dollars to people who would never be in a position to repay the loans. I am truly mystified as to why people still listen to the former Fed chairman. For now, the only thing politicians can do is to ensure in so far as they can that just the bankers lose their shirts: that depositors and small businesses do not join the millions of homeowners already mired in mortgage debt as innocent victims.

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