富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2008-09-21

九月廿一日(日)多忙と疲労にて予定のマウンテントレイルに参加も能はず。スーパーで食料品買ひ物の際、一つだけ開いたレヂは行列。隣のレヂが開かうとして順番的には直近のアタシがそのレヂに並ばうとすると傍らに企つてゐたのがアタシの後ろの客の女房でそのレヂが開くのを虎視眈々と狙つてゐた由。実際にそのレヂに入つたのはアタシのはうが早かつたので女も不愉快さうながらアタシを睨みながらも譲る。これで済んだが、ふと、かりに苦情言はれたらだうするか、と考へる。彼女にしてみれば自分はこのレヂが開くのを期待して待つてゐた。さういふ意味では彼女にしてみれば順番をとられた、となる。が彼女はレヂに直かに並んで開くのを待つてゐた、でもない。さういふ意味では今回はアタシに分ががあらう。がこれが空港のイミグレのパスポートコントロールとなると、よくある光景だがカウンターが一つ開くと早い者勝ちで列が出来て、当然、自分より後から来た客に先を越されることもある。そこでは「自分の方が長く待つてゐた」といふ理屈も通るまい。で今日のレヂで気がついたことは、此処の空港のイミグレとの違ひは、空港の入国審査では必ず全員が各自旅券を有して審査を通るのに対して、スーパーのレヂの場合は二人だが「レヂでの消費単位としては一つ」といふ意味(うーん、経済学者みたいw)で公平を期す為には二人で2つのレヂへのアプローチは正しくない、といふことか。いろ/\仕事済ませ午後遅くにFCCで白ワイン二杯獨酌。中環の三聯書店を通りかゝり、ふと香港歴史博物館の丁新豹・前館長が「香港歴史散歩」なる歴史書(商務印書館刊)上梓を思ひ出し「商務印の本ぢゃ三聯にはないか……」と思ひつゝ店内に入ると混雑で書棚に並ぶ本は叩き売り状態で、この書肆が家賃高騰で急きょ閉店なのを思ひ出す。残り少ない在庫から慌てて歴史写真集など数冊購入。夕方の尖沙咀に渡り太空館で大島渚監督の映画『日本春歌考』見る。出演は荒木一郎串田和美宮本信子吉田日出子伊丹一三と大したものだが60年代の左翼運動盛んな頃に大学生が主人公……ッてだけでつまらない(笑)。ふと思ひ出したが昨日見た譚家明のドラマ『偉仔』が映画『イルカの日』のテーマソングを借用、思はずちよつと目頭があつくなる不覚。それに比べ「日本春歌考」見てもなぜ彼らに全く共感もないのかしら。タクシー雇ひ馬頭角に急ぐ。白宮冰室で先に来てゐたА夫妻、Z嬢と軽く夕食。レトロさで最近また脚光浴びるこの食肆も日曜晩はガラ/\。今どき冷房のなく、窓が開けつ放しで扇風機がまはり、肆の内装ばかりかトイレまで数十年前のまま。歩いてすぐの牛棚劇場。流山児★事務所の公演「狂人教育」を見る。劇団主宰者の流山児祥さんがブログに書いてゐるが、さすが寺山が上海異人娼館を撮り昨年は寺山修司のほゞ全作品の映画上映がされるだけの土地柄かマチネ含む5ステージだか100人収容の小屋で爆満。寺山修司逝去から早四半世紀と言はれると「えッ、もうそんな?」と驚くが舞台はかなり観てはゐるが日本のこのテの芝居は20年前くらゐに唐十郎のテントを観て以来かしら。舞台が始まるまで牛棚のなかでビール立ち飲みで涼を得る。ちゃんとZ嬢が落花生、新潟出身A夫人が柿の種を持参してきたところが良い。今回の作品は中国系の女優も揃へ「狂人教育」の中国語バージョン。字幕は中英文。言葉の氾濫にさすがについてゆくのがやっと。それにしても狂人の家庭を舞台に家族がみな自分が狂人とされることを厭ひ家族の中で娘一人を狂人に見立て自分たちは皆同じ動作をすることで集団で自らを非狂人と括る、まさに現代社会そのもの。寺山修司のこれが初期の舞台作品だと思ふとやつぱり素晴らしい。香港出身の女優、地元での公演の最後で感涙。舞台跳ね小屋の外に流山児祥さん、照れ性のアタシは目礼で「今日は良い芝居を見せていただきました」と伝へるのがやっと。鳥渡、交通が不便さうだが牛棚の近くから香港島東に向ふ106系統の路線バスで帰宅。
細川護煕君曰く「戦争や貧困、環境、エネルギー、教育など、政治がどうするのか非常に関心があります。でも政局にはまったく関心がない。自民党の総裁選も興味ない。ただ、ときどき政権交代があるのが国にとってはいいと思いますね」と朝日新聞読書欄のインタビューに答へる。最初から世捨て人か粋人なら良い。が政局を変へると日本新党なるものつくり首相にまでなつた人の台詞と思ふと呆れるばかり。それなら最初から政治に関はるな、と。この肥後の殿様や青島、巨泉といつた方々は彼らに投じた票が無駄になるだけ政治家であることにしがみつく代議士の先生方より始末にをへぬ。
▼FT紙の先週末号で同紙の行楽担当のRahul Jacob氏が“The case for mass tourism”といふ記述のなかで昨今の、英国人旅行者の希臘でのご乱痴気騒ぎ(アタシはこの詳細知らず)やベトナムで少女売春で捕まり服役終へアジアでの逗留企てた結果、失敗し英国に戻つたミュージシャン Gary Glitter(香港やタイで入境拒否され英国に送還)のことなどに触れ旅先での不徳、乱行続くことで
Paradises are being lost, again and again.
と書いてゐる。だが欧州にとつてのオリエントはゴーギャンやサマセット=モームの時代から、まさにかうしたご乱痴気の時代の賜物なのではないのかしら。

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