富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2008-08-18

八月十八日(月)朝九時前に家出。Z嬢と紅磡站より羅湖へ。羅湖のボーターの一つ手前の站「上水」はホームにて担ぎ屋らしき輩多数荷物の仕分けの光景。一等車の車内でもビリビリッビリビリッと突然の異音に何かと思へば善良さうな乗客の一人がズボンの裾捲し上げ恐らく腕時計か何かをケースごと脛にテープで巻き付け「密輸」の作業中。列車が羅湖の站に着き内地に向ふ手前でオヤヂたちがやたらトイレに入るのはさういつた密輸の準備作業の由。やたら個室ばかりが混み便所の中から「ビリビリッビリビリッ」と皆さん下痢か(笑)。深圳火車站より和諧号で一路、広州。複々線化したとはいへ十数分間隔で最高時速180kmの列車が広州〜深圳間を一時間で走るのだから隔世の感あり。広州に正午すぎ到着。タクシーに乗ると猛暑に炒る強烈な陽射しと温い冷房の車中、客用のテレビモニタで北京五輪の中継、緊急記者会見で何かと思へば「欄王」劉翔退出の由。三月に開業のホテルリッツカールトン広州に投宿。珠江岸に近接で天河の中信広場より真直ぐ南の絶好の一等地、だが周囲は新都心開発の真つ最中で殺伐とせし工事現場。案の定、タクシーの運転手も珠江新城で「興安街つて何処だ?」でこのホテルどころか新しい道路名も皆目見当つかず。とにかく珠江新城に行けばアタシも何となく場所はわかるから、と。ホテルもまだ/\この場所ぢや客も期待できず静か。慇懃迅速に部屋に通され投宿手続きは良いが旅券を一旦お預かり、と何で?と思へば後になつて知つたが客の旅券の顔写真をスキャンまでして宿泊客情報に加へる。本来であれば退出後なら残る必要なきデータも温存され「有事の際は」官憲にまで利用される仕組みか。ご優待でホテルのレストランのビュフェで昼食いただく。B級のグラスワインが150元、高すぎ!でさすがのアタシも二の足を踏み、お食事だけで払つたら二人で460元なのに地場の優雅なお客様方たち。西洋人のマネージャーがビュフェの寿司カウンターに入り込み言葉の通じぬ料理人相手に何かかにかと指示し「見ただけで不味さうな」カリフォリニア巻らしき巻寿司を自分の昼飯用に作らせてゐるのもご愛嬌。かつてのバンコクでも今のサイゴンでも想像も出来ぬ道路渋滞のなかタクシー雇ひ海珠広場。渋滞で運転手がみな苛々はわかるが僅かの隙間あらば隣車線に突つ込むから(殊に交差点やロータリー近く)必要以上に二進も三進もいかぬ塞ぎ状態となる悲劇。幹線道路の渋滞のひどさに辟易だが鳥渡、横道に逸れゝば並木繁るかつての静かな広州がまだ健在。広州で写真機材店密集すると教へられた大沙头二马路へと向ふ。そのすぐ手前(魯迅故居に近し)まで路線バスでちやうど辿り着いたは良いが珠江渡る江湾大橋の橋袂の幹線道路(東華南路)は市街地で誇張にあらず1km以上に渡つて対岸との横断歩道も歩道橋も地下道もなし。で片側4車線の車道を命がけで渡り高架道の橋桁を潜り反対車線の復た4車線を……となる。ここまで歩行者に不親切とは呆れるばかりの道路行政。で大沙头二马路の写真機材街。予想以上の品揃へ、キョービのデジカメばかりかかなりクラシックカメラ陳列の店もありライカもコンディションは多少疑問あるが散見される。チョートク先生が七月末に広州カメラ事情取材の由。富士フィルムのポジフィルム、プロヴィアやヴェルヴィアが1本33元は香港よりお買ひ得。でアタシが使ふBillinghamのカメラバッグ扱ふ店が多く驚いたらよく似たコピー商品(1軒のみ正規の扱ひ店)。いま流行のナショナルジェオグラフィックのカメラバッグも黄色いロゴが三角(本当は四角)。クラシックカメラで鳥渡、食指動きさうになつたが如何せんZ嬢同行で何も手を出さず。カメラ街抜けると巨大なデジタル製品と携帯電話市場。いつたい何百軒?の携帯電話屋か……。更にマッキントッシュ真空管アンプなどハイエンドのオーディオ製品ばかり扱ふ店が並ぶ高級感溢れる商場まであり驚くばかり。スピーカー一対で日本円なら100万円以上が売れるから商売になるのだらうが。夕方の渋滞(つて終日だらうが)のなかタクシーでホテルに戻る。晩に広州在住のO君と待ち合はせ、でホテル内のチャーチルバー。まるで倫敦のプライベートメンバーズクラブの如き重厚な内装のバーで書室、ビリヤード室などの空間もあり酒の品揃へも立派。客はアタシらだけ。残念なのは酒の値づけは強気だが正規のバーテンダーをらず数名の女給はまだ/\経験足らず、難しいものは頼むの止さうとウォッカオンザロックで注文したらジュースでも飲むやうな細長いトールグラスに氷を入れウォッカを注ぎ(ここまではまだ驚かぬが)ストローつき(笑)。「オンザロックはロックグラスがあつて」と教へると「さういふものですか」と女給が感心するのもご愛嬌。ホテルに近い洗村にも(村といつても旧地名が村ですつかり高層ビル立ち並ぶ開発区だが)母米粥あり。余は六月に来廣の際に食したがZ嬢が「未だ」なので母米粥に食す。天河の焼酎バー輪葉葉に飲む。女将の気風佳し。バーの御不浄に
新豐美酒斗十千 咸陽遊侠多少年 相逢意氣爲君飮 繋馬高樓垂柳邊
と王維の「少年行」の漢詩あり。客のお一人がご自身による漢詩解釈を貼つていかれたさうな。少年行を読み耽つてしまつたが悪酔ひで嘔吐でもしてゐると思はれた鴨。O君の話では天河の新都心のうち珠江新城の開発の多くがこの富力地産によるもの、でその一帯への5ツ星ホテル誘致がこれ。あまり期待もしてゐなかつたがスタッフの服務水準とホテルのハード面の殊に客室内のハイテク充実はお見事。目覚ましラジオ兼用の iPod dock ばかりか持参のノートブックから画像や音声を室内の巨大な液晶モニタに映すことまで可。ところでO君、昨日、郷里の福島より成田経由で広州に戻つたが広州の空港の税関で福島の桃「あかつき」と岡山の白桃が持込み禁止で没収処分。アタマにきて熟した桃をば指で潰さうとしたら税関職員が「止めろっ!」と(笑)。明らかに高級果物狙つた没収かしら。

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