八月十六日(土)快晴。午前中ヴィクトリアハーバー沿岸を小一時間走りジム。午後、Z嬢と油麻地から歩いて渡船角。添記で法式三文治(フランス風サンドヰッチ)を食す。なんとも美味。九龍站の圓方にある映画館で塚本連平監督の映画「ぼくたちと駐在さんの700日戦争」を観る。ブログ小説がオリジナルの由。物語の舞台が栃木県の烏山なのか、なぜ時代設定が昭和54年=1979年なのか、アタシの知らぬところ。だが烏山は那珂川が流れ、映画に登場する町中もコンビニが出来た程度で昔と何も変はつてをらず。烏山が話題になるのなんて旧国鉄が上野発で「銀河鉄道999」を走らせ、その確か終点になつて以来かしら……と思つて調べたら、あの運行は偶然にも昭和54年で、この映画の舞台になつた年のこと。キョービと違ひ若者がまだ実直で純朴であつた時代ださうだが映画の高校生たちの余りの健全さがさすがに美化しすぎ。サザエさん家族のやう。ネット社会で理想型なのかしら。中環に戻りZ嬢ご用達のオリンピアグレコ珈琲店にて珈琲豆購ひハリウッド街の表具屋で「象のババール」と「熊のプーさん」の額縁の誂へ受け取り帰宅。日が暮れてから湾仔に出で北京餃子皇で餃子食し芸術中心。市川崑監督の映画「雪之丞変化」(1963年、京都大映)観る。長谷川一夫の女形役者・雪之丞と義賊闇太郎の二役。長谷川一夫の映画出演300本記念でこの年に映画から引退。55歳でさすがに雪之丞役は贔屓目にも秀麗とは言へぬが闇太郎役はさすが色気あり。女盗賊お初役の山本富士子の気風の良さ、闇太郎に張り合ふ若い盗賊・昼太郎妬くの雷蔵の二枚目ぶりに勝新太郎と役者揃ふが雪之丞の敵役演じる鴈治郎(二代目)と何といつても雪之丞の一座の座頭・菊之丞役の八代目中車が素晴らしい。かういふ役者が今はゐないねぇ。それにしても土曜の夜九時からこんな映画に百数十名の客が入るのだから。この香港の観客にコテコテの時代劇に合はせた芥川也寸志のあの赤坂のキャバレーミカドのやうな音楽はどう聞こえたかしら。この1963年の同作はテレビの映画名作劇場だかでも観てゐるのだが昭和10年の衣笠貞之助監督の同作での林長二郎時代の同作の美貌をアタシはまだ観てをらず残念。十五夜に一日遅れの満月が見事。秋近し。
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