農暦八月十五日。中秋。午前一時に寝ても何故に五時過ぎには目覚めるのか、まさに老いそのもの。今晩の中秋の名月は九年ぶり大きさ。月までの距離が36.3万kmで98年の35.5万kmに次ぐもの。次は2015年まで待たねばならぬ由。早晩にFCCに寄しハイボール二杯。Z嬢と待ち合せFCCのダインに食す。晩に油麻地のCinematiqueで映画鑑賞。この映画館ならいつもなら美都餐室など油麻地界隈の料理屋に参るところ中秋の晩は休む食肆少なからず逆に開く料理屋は中秋の家族団欒に混雑すること確実。でFCCで夕餐済ますのが賢明か、という判断。菠薐草のサラダとReubenを食す。で晩にCinematiqueでHo Yu Hang監督の映画“Rain Dogs”(太陽雨、Tai Yang Yue)を見る。今年のヴェネツィア映画祭のOrizzonti部門で上映されたマレーシア映画。壊れかけた家庭に育った十代の若者が自分と家族の再生のために?く姿を描く、ありがちといえばありがちな物語。特筆すべきはHo Yu Hangというこの監督がマレーシアの郊外と都会の闇を実に見事に画像にとらえる、その洗練ぶり。マレーシア映画だが、その主人公らの家族やほとんどの登場人物が広東語、それに普通話もあり、の華僑映画。映画館出ると中秋の晩で外に人多し。油麻地の廟街や天后廟のあたりで中秋の月を愛でる。
▼The Economist誌の今週号は表紙に大きく安倍三世。特集記事を読むと安倍三世の首相就任に外交問題としては実に楽観的。外交は確かに対中韓では関係改善あるはず。安倍三世に問題があるのではなく何があっても全く不感症、思考回路停止状態の「おまかせモード」の国民が過半数占める中で、自民党も本来の党内政治の政治構造が、そして良くも悪くも官僚制が小泉三世により壊滅的に破壊された中で、総理大臣が「なんでもできる」状態になってしまったことなのだが。
▼マカオの観光の隆盛と香港のそれの衰退につき数日前の蘋果日報に陶傑氏の文章あり。国慶節大型連休に大陸より香港旅行の客は昨年同期比で二万人減。反面、ラスベガス系大型賭場開幕相次ぐマカオには大陸から多く集客あり。陶傑氏曰く賢い米国人は中国の官僚の上は上海市党委書記から下は郷鎮企業の幹部まで公金着服など汚職贈収賄が中国の官場で永久に続くことに目をつけマカオのラスベガス化で彼らに遊び場の提供は、賭場開業から一年で投資資金回収可の大成功。これこそハーヴァードのMBA課程では教えぬ投資成功の見事な例であろう、と。それに比べ香港は北京、上海、深?の何処にあるのと大差ない巨大ショッピングモールの建設しか能がなく、大陸から来た観光客が香港の中文紙見れば人民日報より極左の論調に驚き、国内の繁体字の復活に比べ香港の簡体字化も奇妙に映るところ。英語を解す大陸人には香港のテレビの英語チャンネルのニュースも明らかに香港の地場の「一口半鹹不淡的前植民地英語」は中央電視台第九台のアナウンサーの流暢な英語に比べ明らかに劣り「国際都市」と威張る香港をかつて訪れた紐育と比べ「こりゃダメだ」と思われてお終い、と。
▼三越や香港日本人倶楽部が入居の、近日中に取り壊しとなる銅鑼湾のHennessy Centreの高層ビル、これも利家財閥の所有で設計がEric Cumineによるものであった、と知る。戦前の上海、そして戦後の香港の建築におけるEric Cumineの意義は昨年十二月廿一日の日剰に述べた通り。銅鑼湾にとくに多くCumineの建築物があったが、近代的な高層ビルとしてのHennessy Centreはあまり建築史的には評価されず。取り壊しは今となっては残念。