富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

七月廿四日(日)今年はOxfam HK主催のTrailwalker2005の抽選に幸いなことに外れ十一月のこの百キロトレイルに出場はないのだが「せめて練習だけでも」と昨年これに伴に出場のI隊長、O君と朝八時に坑口のMTR站に集合。写真家Y氏と東莞から八月には恒例で瑞西のアルプス登攀に行くといふO氏も本日参加で計五名。昨年恰度同じ七月廿五日に歩き始めた通り。西貢の北潭涌よりMaclehose TrailのStage-1歩き始める。坑口からのミニバスの車窓から眺めた西貢はいい具合に曇り空であつたが北潭涌から歩き始める頃には快晴。肌を灼く陽光に今回は持参の傘が活躍。香港の山歩きのオヤジ連中見習ひ上半身裸に短パンで傘をさす。これがじつに快適。何より涼しく体力消耗もかなり軽減され汗もかかぬから摂る水の量もかなり抑えられる。今回はデジカメ持参しておらず画像は昨年七月のものだが空と海の青さは全く同じ。本来はStage-2終点まで25km歩く目標もあつたが昨年同様に暑さ猛々しく12km歩き標高315mの西湾山に海抜0mから登り全員一致で「勇気ある撤退」決定し西湾の海岸の茶屋にも向かわず吹筒凹より西貢西湾路の車道終点まで引き返しタクシーで西貢に戻る。午後二時。お決まりでパブ Duke of Yorkに寄りカルスバーグ麦酒がぶがぶと飲み涼す。ミニバスで坑口に戻りジムに一浴し帰宅。早晩にZ嬢と西湾河。太安楼の商場にある泰式小食館は湯粉が美味と評判で牛南湯米粉など食す。確かに美味い。この肆に食す間も「チョキ、チョキ……」と軽快に鋏音が聞こえてくるのは近隣の「牛什が美味いと評判の電気部品屋」(画像)が牛什を串刺しにするのに切る音。晩に香港電影資料館にて抗日戦期映画特集でニュース映画フィルム短編「香港重光」と「長相思」を観る。「香港重光」は日本の敗戦で東京に入城する進駐軍マッカーサー最高司令官の勇姿。鬼畜米英で育つたはずの子どもらが笑顔で星条旗振る姿印象的。それに続く香港は八月十五日以降も総司令部(ペニンスラホテル)に籠る日本軍の抵抗と降伏、降伏の調印式で軍刀を英軍に差し出す司令官の姿。で「長相思」は監督が何兆璋。戦後の香港映画だが物語も制作者も俳優も上海。主演は周旋(「旋」の字は正しくは「王」扁に「旋」)で相手役が舒適。周旋は歌ふアイドル女優の第一号。日本で云へば「湖畔の宿」で高峰三枝子。実際に似ている。歌唱も芝居も一本調子のところまでそつくり。高峰秀子ではない。知的な美男子の舒適は佐野周二佐分利信。どこか魅了される影のある点では佐分利信に似ているだろうか。で話は太平洋戦争開戦前夜の上海が舞台。開戦で国民党の将校である夫が遊撃隊の一員として戦地に向かい、妻(周旋)は盲目の母と残される。それを援けるのが夫の親友である舒適。上海で職業訓練学校を営むが国民党の地下諜報員でもある。戦時下の上海で夫は行方不明のまま周旋は歌唱上手活かしてナイトクラブで歌手をして老母を養い親友の妻である周旋を舒適も実は恋いこがれ金銭的にも精神的にも援け続ける日々。日本軍に拘束された舒適を釈放に尽力した周旋。周旋は夫が戦死といふ訃報を受取り悲しみつつも舒適との間に恋が芽生える。終戦。新しい日々が始まるかと思いきや戦地から還る夫。それを喜びながらも周旋への愛は叶わぬものと失意のまま去つて行く舒適。と戦時下の苦しい生活の中での恋愛物語。で非常に興味深いのは、この舒適が冒頭、周旋を思い出しながら海岸でレコオド聴く場面から始まるのだが(ここから戦争中への回顧での本筋)舒適のいる場所が学校であることから舒適は教師であることがわかり学校の建物には「台湾省国民学校」の看板。で物語は1941年の上海に戻り舒適が国民党のシンパであることから映画の最後には上海を失意のうちに去つた舒適は国民党とともに台湾へと逃れたのか、と思ふに易いが実はそうぢゃないところが興味深い。この映画の制作は1947年。上海の映画人が国共内戦の戦禍逃れ香港に来て一連の「国語片」制作を始めるのだが、この「長相思」はその国語片のなかでも黎明期の作品。で1947年であるから蒋介石率いる国民党が台湾に逃れるのが1949年であるから、この映画はまだ内戦期に該り、つまり非常に重要なことは舒適が失意のうちに上海を去り台湾に渡つたのは国民党とは関係なく失恋で「できるかぎり周旋のいる上海から遠く離れたい」気持ちの表れ。この時期であれば上海の映画人のように上海から香港に逃れるのが当たり前。台湾も勿論、日本の敗戦で国民党の統治下にはなつているが蒋介石が渡る前で台湾はこの1947年は国民党による台湾居民弾圧の二二八事件の起きた年。非常に情勢不安定な年。上海との往来の多い当時の香港でなく孤島を選んだところに舒適の心の悲しみが痛切に描かれているといふこと。

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