富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

七月十二日(火)快晴猛暑。地下鉄でもう何年だろうか無料配布定着の新聞メトロ紙に続き、じり貧の星島日報社が起死回生かけて頭條新聞なる無料タブロイド紙を本日創刊。不動産大手の中原地産も近々「am730」なる同じタイプの新聞発行とか。新聞スタンドには『多維月刊』なる月刊誌見かける。多維新聞網の活字版。政治論評に多少スクープ、醜聞をかませ「李嘉誠夫人自殺」説の検証だのグラビアも北京の中南海の盗撮写真だの面白い。創刊号かと思えばすでに第4号で、だが新聞スタンドで大々的に売り出されたのはこの号が初めてと思うが記事豊富だが今後どれだけ内容が続くか、が見極め。昼過ぎ車で東區走廊を行けば突然の渋滞に何かと思えば交通事故。貨物トラック車線変更で急停車し後続のタクシーが追突。高速運転に数メートルの車間距離。後続のトラックも衝突してタクシーはサンドイッチ。倫敦で爆破テロに遭うより香港で交通事故の確率はかなり高い。中環のプリンスビルディングのラフルローレンで買い物。晩に上環に工作任務あり久しぶりに九如坊の路地抜けて九記でカレー牛南麺。隣席の客は入るなり名前を呼ばれかなりの常連。注文も「伊南加湯」と符丁で伝え何かと思えば「牛南伊麺と別に上湯ひとつ」で、やはりカレー麺食すのは邪道かとそういう客の隣で思つたのだが、その初老の常連は牛南伊麺が運ばれ一口頬張ると卓上のチリソースを鷲攫みにして思いつきり伊麺の上にたつぷりとかける……そんな、と唖然とするほどの量に驚く。食後、九記とGough街向かいにある大排档の茶屋(名前知らぬ)で美味なるミルクティー。暑いが敢えて熱いのを注文。美味。上環のK氏のオフィスで香港でなら四両(約120g余)三百ドルという鉄観音をご馳走になる。晩十時に任務終了しバーで飲まずに帰宅。夜空は青い空に白雲が見事に映える。晩遅くに新聞読んでいたら、信報の連載で劉健威氏が「なんのための死か?」と倫敦での爆破テロ取り上げ、近々倫敦訪れる劉氏に友人が「大丈夫か?」と心配するが劉氏は「香港で市街歩いていて空から窓枠が降ってきて死傷する確率のほうが倫敦で爆発テロよかずっと高い」と。余の交通事故遭遇への懸念も同じ。さすが劉氏は米国のイラク侵略がこのテロの主因であり、この終わりなき戦いの犠牲者が無辜の市民である悲劇、戦争で犠牲になるにしてもナチスファシズムに抗して死ぬような大義もなく何のための死なのか誰も知らず、と慨く。御意。蘋果日報では陶傑氏がやはり「爆発テロより香港で窓枠降ってくる危険性のほうが確率高く、旺角を歩いていて洗衣街で空から窓枠降ってきて路上での物売りなどが見守るなかで命落とすことの死の尊厳のなさを慨く。無差別テロも老朽化したビルの窓枠が降ってくるのも、同じ乱世。 ▼本晩、民建聯の結党十三周年記念。全国政治協商会議副主席(笑)の董建華君現れる。自称政治家ドナルド曽も初めて参加。北京政府の香港代表部である中聯弁の主任、外交部駐港特派専員、香港政府からは財務官(馬ヅラ)唐英年、法治破壊の司務官エルシー梁愛詩に加え七名の問責制局長も出席。さすが親中派御用政党だけのことある馴れ合いぶり。
朝日新聞で「政態拝見」といふコーナーで曽我豪(曽・我豪という中国人じゃなくて曽我・豪である、我豪であればかなり傲慢な名前だ)といふ政治部記者の「非常識好む首相にドキドキ」という文章あり。傑作。実に傑作。朝日の政治部が箱島経済部主導から多少自由になつたといふ噂あるが本当かも。小泉三世が非常識であること前提として郵政民営化が実は小泉三世は自民党不利の情勢でも衆院を解散したかたつたのではないか?を関係者の証言などからこれまでのハンセン病訴訟などの話も含め面白可笑しく裏付ける。結局、小泉三世は非常識なことをしてドキドキすることが需要で(それを国政でやられてしまふのだからたまつたものぢゃないが)実は一番ドキドキしているのは首相周辺で、ここで解散されたら政権党を本当に小泉三世の言葉通り「ぶっ壊す」ことになりかねず。トップが党を破壊すると宣言して始まつた政権の矛盾がこの土断場であらわになつた、と曽我記者。確かに。もしかすると小泉三世は本当に公約通り自民党ぶっ壊すために今日まで四年以上かけて任務遂行してきたのかも。靖国神社参拝もその一環か……。としたら今日まで小泉政権を支持した国民が実に目聡く小泉三世批判などした余は国賊である。
▼ここ数日、築地のH君とリベラル政権の話が続く。ことの発端は『世界』での後藤田先生の立派な発言。『論座』での衆院議長河野洋平君の発言も立派であるし先日の朝日での野田君の発言も「胡散臭い」と思われていた野田君がかなり好印象となつたらしい。こうして考えると自民党がいいように利用する村山富市君の「村山談話」こそ立派。だが問題はリベラル派は現役の時に不振であること。H君の言う通り確かに村山内閣(こちら)など村山首相、河野外相、武村蔵相と、これが十年前に存在していたことが今では嘘のようなリベラル内閣。河野洋平君を総裁指名は後藤田先生。あらためて眺めると「自社さ」内閣は歴史的に再評価されるべきかも。当時も今も村山内閣を評価する論調は確かに左右どちらの側もないが。H君の言う通り「社民もリベラルも一方的にやられてたわけではない」のであり「ちゃんとチャンスは与えられていて、それでダメだった」のが事実。それゆへ安倍晋三も小泉三世も石原都知事も「自社さ」が批判され、それが失敗したからこそ登場。社会民主政党への不信と非難がファシストの政権獲得に加担したとか、ワイマール共和国批判がナチス台頭を招いた過去の歴史。日本の九十年代前半も同じような歴史的誤りかも。だがH君の反思は、当時、社民リベラルも当時の「今」がだれだけ重要な局面か見えておらず。まだブッシュ二世も安倍二世もおらず小泉三世はただの自民党の変な議員にすぎず「ここで失策つたたら彼らが台頭する」といふ危機感はなし。その象徴が細川殿様内閣。なんとなく「バブルは終わつたけど、なーに、不景気といつてもこのくらいが恰度いいんぢゃない?」の不況といつても平均株価は一万八千が底値といふ甘い期待感、の温い空気。そのなかで「このへんでちょっと政界再編成でも」と懐石のお口直しの如く細川内閣だの青島都政だの。共産党もあの当時は勢いあり選挙毎に議席伸ばし共産党社共共闘どころか旧社会党叩き左翼票の獲得に熱心、というH君の回顧は確かにその通り。その結果、なんだ細川も青島も何もできないよ、で景気低迷と社会の窒息感のなかで変人が首相となり安倍某や石原某への期待感。それぢゃ安倍と石原が何をしてか。安倍先生は北朝鮮拉致問題以外で何か具体的な成果ありやなしや、石原都政もホテル税は敗訴、都知事就任で最初のスマッシュヒットがディーゼル車規制。積極的なのは都知事の仕事の範疇には入らぬ日本領土の保全。話題となるのは国旗国歌の都内の学校での強制。ではどうなる?、どうできる?は空白。空白。
▼香港フィルで音楽監督Waart氏との確執あつたコンサートマスター解雇処分。Waartの楽団指導ぶりに反発しコンサート直前に指を怪我したと「病欠」したコンサートマスター氏、その病欠期間中に米国で他の楽団のオーディション受けていた(笑)ことが発覚し今回の処分。Waart氏も強引さに楽団ついて来ぬといふ話だがこのコンサートマスター氏ら反発組も楽団のなかで浮いていたようで今回の処分は喧嘩両成敗にあらずWaart氏には契約のあと一年頑張ってください、の判定。
▼香港政府の政治的介入が話題の香港電台は立法会での公聴会に出席の電台長 Chu Pui-hing氏が「我々は大きな問題と対峙しているが、この状況で、私は孤独なセールスマンでなく(香港電台の)職員をサポートする立場であることが光栄だ」と発言。見事。この「孤独なセールスマン」は自称政治家ドナルド曽が行政長官「選挙」の中での遊説でドナルドが政府公務員になる前、高校卒業してからの数年、薬品会社のセールスをしていた過去を回顧し「四十年前に私は孤独なセールスマンだった。しかしずっと孤独は続かなかった。なぜなら、私は香港で生まれ育った「香港の子」の一人だからだ。みんなの信頼を得られれば私も多くの香港市民と同じ道を歩むことができた」と述べた、その言葉。自称政治家ドナルド曽の介入に対する不偏不党を理念とする公共放送のトップとしてのこの姿勢。実に見事。
▼信報で劉迺強氏が先日まで連載された練乙錚氏の文章について四万字、半月に及ぶ連載はかなり期待したが、結果「平淡」の一言が感想とずばり指摘。読者として「どんな内幕の暴露があるのか」と練氏が「どんな見方、考え方をしたのか」に期待したのだが、結局は練氏個人の感受と怨念のほかは、公共住宅の八萬五千戸提供の政策の取消し発表中止の作為が董建華本人でなく林D8の入れ知恵であつた、といふほんの小さな内幕の暴露あつた程度で、連載の当初、香港での問題の多くが北京中央に因あり、と諷しておきながら具体的な事実の指摘もなく、連載後半では曽徳成など親中派についてがそれぞれみんないい人である、と、本来は叱責すべきことを叱責せず連氏の偏見ではあるまいか、と劉氏指摘。寧ろ、と劉氏が指摘することは興味深く、英国統治時代に「最後の総督」パッテン君就任までの中英の蜜月時代には「副総督」を設けるという中英間の黙契があり、これは返還後の香港首長養成のための職位。その後、中英関係が拗れ、英国側は行政長官は名誉職的なもので行政の全般は政務官が執行することを主張、中国側はそれに同意せず。実際に97年からはその政務官に就任の陳方安生女史が十八万人公務員のトップとして精力的な姿勢見せることで、これは実に英国が期待したことだが、これは元首(行政長官)に対しての首相(政務官)制度に非ず「虚君制」(事実上の行政長官無用論)であり相対的に董建華の立場が脆くなり中国側はこれを良しとせず。今回の自称政治家ドナルド曽が政務官に元同僚の許仕仁を招いたことはドナルドが行政長官として執行権、決定権を保持したまま実務を許に任せるわけで、政務官はアンソン陳方安生が董建華の立場襲ふような競合制のあるものでなく、許君がどうしてもドナルド曽襲わぬように、これは従来の行政長官と政務官の制度の構造的矛盾を解消するためには有効、と劉氏。確かに上手く機能すればその通りなのだが……。
▼信報に在香港日本国総領事北村隆則君の「国連改革と日本の考え方」なる文章掲載あり。戦後の日本は先の大戦の悲惨な教訓を汲み反省して新たな出発をして世界の平和実現のために尽力し戦後六十年新憲法の下で民主体制と経済復興の維持と発展に努め平和国家として戦争行為を行わず大量殺傷兵器も有さずに今日に至つた。小泉首相も戦争でアジア諸国を侵略統治したこと事での多くの損害と苦しみについて深刻な反省と謝罪をしている。国連常任理事国である中国が日本の常任理事国を支持することで日本と中国が協力して国際平和のために尽力していきませふ、と。正論。だが本当にアジア諸国からの日本への信頼を得て国連常任理事国になること成就したいなら、この総領事の文章でもこれだけ強調されているように戦後日本を成功に導いた、世界に誇る平和憲法を今後とも尊重して平和国家としてやつて行きます、と言えてこと周辺諸国の安心と信頼を得られるといふもの。周恩来に象徴される戦後の日本への信頼はまさに此処にあり。それが、これまでこの憲法できちんとやつて来ました、ですが現実に合せて改憲いたします、はやはり信用されず。

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