富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

七月十一日(月)快晴猛暑。中国湖南省に帰省した香港在住の女性が中国の一人っ子政策「堕胎」強要され危うく難を逃れる、と蘋果日報一面。この女性、1997年に湖南省の田舎から深センに出稼ぎ。そこで香港籍の男性と知り合い香港に来て女児出産し一旦大陸に戻るが三年前に来港し居住権得て昨年男児出産。今年また孕る。先月末に湖南省に住まふ齢七旬の父の古希の祝ひにと二児連れて帰省。昨日十日香港に戻る予定であつたが九日の朝七時に家の扉がノックされ開けてみれば地域の計画出産指導する事務所の職員と名乗る男現れ二児ある上での妊娠が国家の一人っ子政策に反しているとしてこの女性に堕胎勧める。この女性は自分が香港の居住民でありこの政策は香港には及ばないことを説明。だが職員は「香港は中国の一部で中国の政策が及ばないはずがない」と主張。この女性はその場で香港の入境事務処に電話し事情説明し援け求める。入境処はすぐに対応し湖南省の公安当局などと折衝。この女性も地元の警察に通報し公安当局の職員も現れたが、公安当局は計画出産当局からこの女性の旅券や身分証など渡され確認し亦たそれを計画出産当局に渡してしまい一行八名は立ち去る。昨日の朝、この地方の幹部ら一行十名がこの女性の実家訪れ旅券など返して鄭重に今回の件を謝罪。地元の計画出産当局の職員が香港の法律に明るくないため誤解した」と説明。一件落着。だが「さもありなむ」の出来事。この国が21世紀の大国で日本はこの国の巨大市場での商売でどうにか利益得ようと懸命。勝谷氏的に批難するのは易しいがこれほどの現実。早晩に久々にFCC。いつもならジムに寄る時間だがK嬢にある添削依頼されK嬢がFCCのメールボックスにブツを置きそれをドライマティーニ飲みながらの作業。ドライマティーニをロックで、撹拌するな、は通じてもステア(かき混ぜる=stir)するな、は注文の時にいってもバーテンダーはかなりの確実でステアしてしまふ。今晩も二杯のうち一杯目は老練のバーテンダー氏にしっかりステアされ、二杯目は若輩に「本当にステアしないのか?」と念を押される。ステアしないということは「温い」わけで信じられぬことかも。ベストは勿論、バーSやYでのようにまずグラスに大きめの氷だけ入れてステアしてグラスとグラス内の温度を下げたところに酒を注げば酒も薄まらず適度に酒温が下がるのだが、そこまで注文していたら「ドライマティーニをロックで、オリーブは不用、レモンピールだけ。酒はシェイクもステアも不要。ロックグラスに大きめの氷一塊入れて酒をいれる前にステアしてグラス冷やしそこにベルモットを先にほんの少し滴らしてからジンを注いで、絶対にステアせずそのまま供してくれ」と面倒な説明となる。晩飯にチキンアラキングをテイクアウト。ついでに揚州炒飯とクラブハウスサンドヰチも。ふと思へば先月下旬から、月末に東京からY君来港しバンコクからのY氏と一晩飲んだくらいで、ふらりと一人でどこかに飲むことあつても行きつけの店にも行かず晩に殆ど人に会わず。帰宅。下弦の月が西空に浮かびやがて山かげに沈むを愛でる。ドライマティーニ一杯(って三杯目か)。二更に“Why Michael Jackson won?”といふテレビ番組。見ておらぬがマイケル=ジャクソンさんが何故、無罪となつたのか、なぜ陪審員が無罪としたのか、は有罪とする具体的証拠に欠けるなどといふことより、やはり「醜悪なるものを見たい」といふ人々の願望でなかろうか。刑務所に十数年だか廿年だか服役されては「見えない」のである。見えない場合はイラクフセイン元大統領のように刑務所で選択する惨めな姿が隠し撮りされ公表されるが「見えない」より見世物的に醜悪なる姿を晒してほしいといふ願望。まさかここから再度の整形手術で黒人エンターテイナーとして復活……なんてあり得たらもつと凄いことになるが、刑務所に入れてしまふより見世物のほうがさらに極刑かも。ニュース10に外相町村君が登場。サミット、対中政策、国連常任理事国など国際問題について当たり障りのないコメント。司会が今井環君であるから突っ込めるはずもなく只、外相のお話拝聴。結局この出演が町村君のイメージのソフィスティケート狙つたものであること確実。こんな良識的や優しいオジサンなんですよ、といふ外相像。朝五時に起きていたのでさすがに疲れて寝る。
▼香港電台の競馬中継とヒット曲紹介番組の放送中止の決定が実は自称政治家ドナルド曽がまだ行政長官代理であつた時に個人的意向をすでに担当局長から電台側に通告しており但し行政長官「選挙」の頃はまだ個人的発案程度で発表していたが実はすでに五月には決定の傲慢ぶり。やはり「何もしない、できない」董建華以上に怖い、さすが「政治家」である。ところで香港電台だが英国BBC的な公共放送の理念でも一党独裁の国家において政府批判辞さぬ姿勢が攻撃されるのも当然。圧力かかつて当然かも知れぬが年間予算4億三千香港ドルは日本の巨大なNHKの平成17年度事業支出(予算)6,690億円に比べれば1%ほどだが激減が予想されるにしてもNHKは受信料収入が収入の96%を占めるのに対して香港電台は収入の殆どが政府公費でありNHKの交付金と特別収入の合計約115億円に対して一地方政府である香港政府が円換算で62億円捻出していることの負担感の大きさ=「言うこと聞けよ」感覚は強くて当然かも知れぬ。香港電台は受信料を取るにも独立したチャンネルもたず放送条例で民放局に一定の公共放送放送枠を設けそこを借りて放送しており受信料徴収もできず。香港市民が払うとも思えず。
蘋果日報の随筆で査良[金庸]先生のケムブリッジ大学での名誉学位授与式に参列の蔡瀾氏が当日の晴れの日の様子を数日に渡り書いている。これについては徐志摩のこと含みで数日前に日剰で述べたが、今になつてふと思つたのはなぜ武侠小説金庸先生が中国文学を代表する形で名誉学位なのか。確かも中国の現代文学で最もよく読まれているのが金庸武侠小説で内容はけして武侠ばかりか人間の心理や社会関係まで実に内容が厚い、といふ。評論や学術研究もされているほどで金庸文学についての専門家のシンポジウムが開催されるほど。それほどなら、と余も読んだが、やはり池波正太郎と同じでどうしても武侠小説は読めず。個人的には現代中国文学は賈平凹の『廃都』が最も記憶に残る。 
▼余が九日に綴つた「自民党から18人が反対に回れば、郵政民営化法案が否決されるという衆院以上に厳しい状況だが、一方で各派閥のコントロールがききにくい参院の特殊性もある」につき朝日新聞内部の知人より朝日新聞の読み方指南あり。これは「自民党から18人が反対に回れば、否決される。亀井派だけでも18人いるから、否決か?といえばそうでもなく、参院では衆院と違って派閥の親分がやれといってもまとまらない。むしろ青木参院幹事長の意向が重要なので、青木さんが賛成にまわって工作している以上、反対は18人を下回る可能性もある」と。こう説明されれば確かにそうだがここまで読み取れず。読み取れないくらいのレベルなら朝日は読めぬ、といふことか(笑)。
文藝春秋八月号拾い読み。この雑誌は各記事の題が踊るのは今に始まつたことではないが「決定版日vs中韓大論争」で「靖国参拝の何が悪いというのだ」といふ対談で櫻井よしこ田久保忠衛の対談相手が精華大学の劉江永と歩平なる中国社会科学院の研究者。劉と、それにどういう人か知らぬがる中国社会科学院の研究員が「靖国参拝の何が悪いというのだ」と言った?筈もなく雑誌読んでみれば、なんだ「そのはず」でたんに櫻井と田久保が「靖国参拝の何が悪いというのだ」で、それに劉と歩が中国側の立場で論陣を張る、といふいたつて真っ当な構成。「靖国参拝の何が悪いというのだ」のタイトルは単に櫻井・田久保の、つまりは文春側の主張にすぎず(笑)。赤坂太郎の「安倍、福田を陵ぐポスト小泉の切札」も「それが誰か?」と期待して読むと切り札は誰もおらず(笑)。安福で見れば福田二世に利があり記事は終わりで「小沢一郎は次の選挙にすべての勝負をかける」といふ一文を読めば余と築地H君の組閣がさらに現実味帯びるのだが。

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