二月十三日(日)曇。大埔の林村にある古樹、これに願掛けすれば願い叶ふと伝承あり「許願樹」と呼ばれる。願掛けの作法が奇習にて誰が始めたのか橙を二つ紐で結わえ御札をばそれに添えこの大樹に放り枝にかかれば願い叶ふと言い、大埔から錦田に向かふ途中のこの山間の村には休日や節句となれば沢山の民参り村の集落のこの樹木のまわりには茶店だの橙だの売る店だの土産物屋だの商売も繁盛。樹木の枝々にこの橙が鬱葱となるまで架かった光景は悍ましきほど。それが旧正月で参拝の者甚だ多く橙が樹枝に架かる量も増え村と民政局による橙の排除も追いつかず遂に昨日その重さに樹木の大枝折れて数人が負傷の騒ぎあり。幸せ祈願にて不幸にも災難に遭ふのが元朝参り。人混みに出向くべからず。朝は三日続けてZ嬢の薮用にHappy Valleyに付き合いZ嬢と別れタクシーでビクトリアピーク。山頂には旧正月の連休最後の日娯しむ人々多し。香港トレイルを山頂よりゆっくりと走る。といふか山道ゆへゆっくりとしか走れず。25kmの陽明山荘まで行くつもりが約20kmで止めて灣仔ギャップに上がりタクシーで中環。FCCでステラアルトワ麦酒1パイント。美味なるハンバーガーに齧りつく。やけにチャイニーズばかり昼食の客多し。旧正月はそういうものか。一週間遅れで英国のThe Observer紙読めば一面トップはイスラム系英国市民がテロ組織との関連疑われM16など諜報機関や警察に拘束された事件につき3頁!に渡り詳細なる報道。スコットランド国立美術館で開催のアンディ=ウォーホールのポートレイト展の記事も単に提灯記事に非ず、この芸術家の奇才通り越して今なら犯罪となる、かなり「ヤヴァい面」まで隠さず記述。本紙は三十頁程なのだがその記事の内容の充実ぶり驚くばかり。日がな一日こうして飲んでいては終わってしまふと酒場辞す。ジムに一浴。今晩は湯豆腐でも、と北角の市場の豆腐屋「徳興隆」に寄れば(この店が徳興隆なのか隆興徳なのか看板があまりにも三文字だけで左右いずれかからか判らぬが恐らく語呂からいって隆興徳だろう)他の店が旧正月三が日でどんな遅くても昨日が啓市のところこの豆腐屋は強気でまだ休み。残念。それくらい美味い豆腐なのだが。帰宅。雑用済ませ夕餉に煮込みうどん。NHKの「義経」見る。昨年「新撰組!」殆ど見なかったのに、確かに今年の「義経」は良くも悪くも大河ドラマらしさ。いくら見ても松坂慶子の芝居の下手さ。高嶋屋(左團次)の助演役の上手さ惚れ惚れ。吉次(左團次)が常磐(稲森いずみ)の許を訪れた去り際に礼をする場面など、あの頭下げたまま微動だにせぬ姿勢の良さに吉次の立場、何を願ふかを背で見事に演技。原武史『可視化された帝国』読む。最近ずっと天皇論ばかり。ところで西貢の英国パブ“The Duke of York”は昨年Trailwalkerの練習で西貢に行くたびに何度も訪れたが、いつ行っても西貢あたりの英国人らの飲んだくれが日がな一日麦酒飲みダーツして玉突きして過ごす酒場が見慣れた光景であったのに最後の一回だかすっかり店の入り口あたり改装し、まるでテラスのオープンバーとなり何か居心地悪かった記憶あり。本日のSCMP紙にその顛末記あり。この店開業から16年で西貢では英国パブの老舗だが経営者の西洋人夫妻が経営から退き経営権は共同経営者であった地場のわずか二十歳の女の子(おそらくこの店舗の所有者の家族の者であろうが)に委ねられ、この小娘、この店を流行らすにはよーするに店にうざったく居座る常連客が癌と彼らに売り掛け精算して退散してくれと求め店内も改装。で新規の客取り込もうとしたが、結果、新しい客となる連中は酒などたらふく飲まず。かといって料理屋にあらず厨房もまともな料理など出せず茶やジュースの一杯、二杯では売上げは過去に比べがた落ち。まえの常連客もこの新しい店には一切寄りつかず酒の売上げは全く伸びず。これに経営者の小娘懲りて復た店を伝統的な英国パブに戻しダーツと玉突き台置いて嘗ての常連客に戻ってくること願ふ。客も店が態度改めればまた店に戻り始める。が経営者「売り掛けだけはもう懲り懲りでお断り」と。