富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

一月十五日(火)小雨。まことに少なき下雨なれど町中の埃雨に打たれ大気に舞うこと少なく呼吸するも多少は不快にならず。Q姐に般若心教を広東語で聞けばかなりイケるのでは?と話せば週末にQ姐北角にある香港仏経流通処にて広東語の般若心教テープを調達してくれる。予想通り日本語もいいが更にあっちの世界の響きあり。一月十日の日記に綴りし北京政府出先機関が地方役場の条例違反になる身分証の代理人持参を求める問題を先週役場入境署にメールで送れば本日返事あり関心ある事柄ゆえ検討し後日返答と。中上健次『讃歌』読了。この物語、新宿の濃い物語であったうちはこれは馳星周とか『新宿鮫』の大沢在昌とかよりもつともつと強烈でしかもリアルな新宿の形相にてゾクゾクするほど最高なのだが話が熊野の路地からの続きになつてしまふと途端に中上熊野物語の後日譚となつてしまひそれまでの性のサイボーグと化したイーブのオーラが消へてしまふ。熊野の世界の物語性は言うまでもないがそれが新宿の話と混ぜてしまふとどちらともつかず残念。半身欲で入浴剤もいいが香油に勝るものなくしかも白檀(Sandal Wood)は至極にて高価ながら重慶マンションのインド雑貨屋にでもいえば廉価かと思案しながら島田雅彦編『少年』読了。このなかに中上健次の『帽子』という文章あり夕食の湯気の向こうにある父母の姿がありありと目に浮ぶ秀作。島田雅彦の『帝国の学校』も秀逸。この中に花田清輝が『十代の夢』の中で書いているのだが花田も参加した「太陽族映画是か非か」なる座談会にて佐々木基一(文芸評論家)がフランス映画の若者たちと対比させて「ただ、がむしゃらに暴れるまわるだけで、なんにも夢らしい夢をもっていない」「じつに陰惨な感じがする」太陽族という評に対して花田はけしてフランスのユートピア的な若者がいいというわけではないがと前置きしながらも「太陽族のほうがエネルギッシュだというわけではない」のであり「猫のひたいのような東京湾のなかをヨットをのりまわしているような連中に遠大の志のないことはいうまでもない」と。四十年経って何もかわってないどころか更にひどくなつた太陽族都知事か。A氏より拝借した都築道夫『推理作家の出来るまで』読み始める。▼合州国総統小布珠君休日に独逸パンのブリッゼル頬張り乍らテレビにて蹴球観戦中にブリッゼルを咽喉に詰まらせ卒倒し机角にコメカミを強く打ち数秒卒倒せし報道あり。かりに民主党ゴア君総統に当選したれば9・11襲撃起らずと迄は言わぬが少なくともテロリストに今回の卒倒を見られて膝を叩いて嘲笑されることはなし。米国の典型的初老男を襲うはアラブのテロリストにあらず蹴球のテレビ中継を興奮して観戦しながらのブリッゼルなり。▼豪州のOne Nation党党首Pauline Hanson女史党首辞任す。98年にはクイーンズランド州議会にて25%の得票率を得て11議席獲得し同年の連邦議会選挙にて9%の得票率を得たもののHanson女史自ら上院議員選挙での落選は党に陰りが生じ選挙資金不正など女史の逮捕も予見。女史の豪州原住民とアジア系移民蔑視は国際的問題となるがHanson女史の側に立てば政治を志すまで地位も資産も学歴もなく容姿もお世辞にも美貌とは程遠き女史は白人社会にあっては所謂中下層階級にて自らの更に下層にいずれかの民でも置かねば「やってらんねーんだよ、あたしゃ」となる心境もわからぬでもなし。されど現実には彼女の蔑視する原住民なり黄色人種より寧ろ女史こそ野蛮。南無阿弥。