富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

柳沢高志『孤独の宰相 菅義偉とは何者だったのか』

陰暦正月十一日。気温摂氏0.6/7.6度。晴。紀元節。昨晩遅くに降り出した(さうな)雪が朝にはもう止んではゐたが積雪9cmで一面の雪景色に。夜中には水戸は大雪警報が出たのだとか。常磐線も取手から勝田で午前中は運休措置。

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陋宅の傍は水府の旧市街でも有数の急坂で田見小路の角にから通行止めとなり早朝から市役所の委託で作業員が除雪と融雪剤散布。ありがたい。気温も上がり雪は溶けるばかりで夕方には今朝の雪景色が嘘だつたやう。

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午前中は陋宅地下の車庫から急坂に自動車を出すのも厭はれたが昼にはもう大丈夫さうで午後、NHO(国立病院機構)の水戸医療センターに入院した叔父のところに届け物。昔は水戸の国立病院(なんて呼び易かつたのかしら)が市街の旧制水戸高校跡地にあつて昭和40年までは水戸駅から市電で便利な場所にあつたのだが今は郊外の農地の中でかなり不便な場所。病院は古呂奈感染対策で親族すら面会も困難と聞いてゐたが検温、消毒をして入館登記すれば病室のあるフロアのナースステーションまで辿りつけて面会も希望すればできるやうな感じではあつた。

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千波湖畔の茨城県近代美術館ではフランスのランス(Reims)美術館コレクションで「コロー(Corot)から印象派へ」と題した展覧開催中でこれを鑑賞。ランス美術館が4、5年かゝりの大規模回収で作品が各地で巡回してゐるのださう。
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19世紀中頃のフランスは鉄道とチューブ式絵の具の発明!によつて、それまで宮廷や泰西の時代物など描くのが主だつた画家たちが郊外に出かけて自然の光をとらへ農村の日常生活を描くやうになる。これまでは絵の題材には考へられなかつたもの。そんなものに美を見出したことで、それが「単なる印象に偏重してゐるにすぎない」と片づけられてしまつたことが後に印象派として美術史に、そして音楽や思想にまで大きな影響を与へることにならうとは。そんな風景画を見たあとだと美術館の外の光や風景がまた違つたものに見えるから。今年の水戸の梅まつりは古呂奈で「延期」となつてゐるが「探梅」といふにはあまりにそこらにもう早咲きの梅が咲いてゐる。今朝なら雪梅がさぞや美しかつたであらう。雪が溶けぬ早朝のうちに弘道館公園まで歩いてくればよかつた。

孤独の宰相 菅義偉とは何者だったのか

柳沢高志『孤独の宰相 菅義偉とは何者だったのか』(文藝春秋)読む。日本テレビのニューヨーク特派員だつた著者が2015年に政治部で突然、内閣官房長官番に。「官房長官って何をするのだらう?」くらゐ何も政治を知らない番記者は素直さからか、スガの顰みに叶ひ週に数回はメシを一緒する仲に(スガと食事や好物のパンケーキを一緒にしても美味しくはないだらう)。そこでこの記者しか知り得ないスガの本音が聞けることになるのだが晋三の「桜を見る会」にしても官邸の対応の悪さから怖いものなしだつたスガの官房長官力にも翳りが見えてしまひマスコミも容赦をしなくなる。

朝日新聞毎日新聞北海道新聞の長官番記者が連日“桜”関連の質問を徹底的に行うようになったのだ。森友・加計問題で菅を質問攻めにした東京新聞の望月衣塑子記者が増殖したような有様だった。

おい/\キミも本来そこに入つて疑問を投げつけるべき立場ではないのか?しかしスガの懐に入り込んでゐるから、そんな幼稚な真似はできないのであらう。ではキミはいつたい何者なのか?と訝しくもなるが、それでもやはり、この懐番?にしか書けないことが少なくない。スガが晋三を襲ひ総裁選に名乗りをあげ首相に!と覚悟を決めたのは「このまゝ自分が出なければ岸田さんが総理になる可能性は高い、それでは国のためにはならない」からなのだといふ。マジかよ? でスガか? たしかにスガは1年といふ短命政権だつたがいろいろやつてゐるのだ。デジタル庁など果たして本当に必要なのか?と疑ふが不妊治療支援、外国人労働力の受け入れと滞在定着化、利水ダムの防災活用、携帯料金引き下げ、それに古民家再生やジビエの普及なんてこれが国策か?と首を傾げるさまざまなことまで規制緩和をやつてゐる。だが魅力がない。それでも自分は国のためになれば男子の本懐なのだと努力を惜しまない。そんな自分を誰もが蔑ろにするから夜な夜な、正月の元旦にまで、この日テレ記者に電話してくる。もはや首相番記者といふよりもスガの親友である。いや、息子ほど年下だが自分の息子は東北新社総務省接待に恥ずかしい姿を晒してしまひ、この記者君には「こんな息子がいたら」と自分の地盤を継がせられたのにとでも考へたのか。それくらゐ、もう誰も割つて入ることのできない仲である。誰もスガとそんなに親しくしたいと思はないが。

そして結局、私は菅に対して自ら退陣することを進言できなかった。総理として、やり残したことの大きさを知っていたからこそ、口にできなかった。帰りのタクシーで、暗澹たる思いで、胸の中が重くなるのを感じた。

これは小泉進次郎のコメントではない。この日テレ記者である。すごい……もはやいくらスガとはいへ一国の首相に「退陣を進言」の域なのだ。昨年9月2日、スガが総裁選不出馬を決めたときも複数の自民党議員からこの日テレ記者に「本当か?」と真偽確認の電話が入るほど。それどころか「ある保守系言論界の重鎮」ってナベサダ以外の誰でもないが、その大御所に「あなたに折り入って話がある」自宅に呼ばれ御大は「気まずさと申し訳なさを織り交ぜた雰囲気で」「このままでは自民党衆議院選で惨敗する。そうなれば菅さんはボロボロになる。だから菅さんの花道を作らなければならない」「今、自ら辞めれば自民党は息を吹き返せる」ので「そのことを菅さんに伝えてほしい」と託されてしまふのだ。それを伝へることが到頭できず、それが上述の「暗澹たる思ひ」である。かうなると、この記者は「令和のナベツネか?」といふ予感さへしてくる。しかしナベツネは番をした相手は大野伴睦であつて盟友が中曽根大勲位。首相とはいへスガで党の有力者が二階、で君臨するのが晋三ぢゃ格が違ひすぎる。

この本で描いた菅義偉という、最後の“たたき上げ”の政治家の生き様は、これからの難しい時代の国の舵取りを担う新たなリーダーたちにとって大切な“手がかり”になるはずだ。それこそが、菅があの日、私に託した願いだったのだと、信じる。

……すごい。そこまで託されてしまつたとは。しかし、この本を読んで「スガさんはじつはこんなに頑張った、再評価されるべき」なんてコメントもあるにはあるし東京新聞の望月記者がTwitterで「菅氏の功罪を描き菅氏の本音が見えた一冊。面白く一気に読了」「これと決めたら省庁を動かし政策遂行する剛腕さは流石だが結局それも権力闘争のため」「側近のスキャンダル対応に追われ日々の支持率に一喜一憂。これが最高権力者の姿とは」とこの本を好意的に評価。それでもやはりシビアな見方もあつた。

 星浩「永田町で話題の菅義偉氏の内幕暴露本に見る政治報道の落とし穴」論座(朝日新聞社)

そりゃさうであらう……「それでも」である。内幕暴露には暴露された本人が不愉快に思ふのと本人が書かれてまんざらでもないのとがある。この本は間違ひなく後者。スガはかうして自分のことを包み隠さず綴つてくれた本を出せと言つてゐてもおかしくない気がしなくね?


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中央政府が全力を挙げて香港の防疫に乗り出すのだといふ。一国一制あつてのかうした迅速な取り組みである。