富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

タカ派の平和ぼけ

fookpaktsuen2013-09-14

陰暦八月十日。快晴の土曜日。官邸にて残務整理。晩に晩夏らしく無花果とハムを合はせ初秋で栗を茹で飰す。赤ワイン飲んでゐたが酩酊もせず文藝春秋十月号読む。「中韓との百年戦争にそなえよ」なんて特集記事は読み飛ばし。最近の文春で気になるのが微妙な安倍自民党との距離の置きかた。この号では何といつても「角栄の裏金を運んだ米国人の告白」が白眉。ロッキード社からの依頼で日本側要人に賄賂となる億単位の日本円を調達し運ぶことになつたのが米国系外国為替会社のデューク社で、香港支店が舞台(実際の持込みはグアムから)。で、この現金を実際に運んだ男が香港に今もゐるといふ。この記事の書き手のライター(徳本栄一郎)は昨年十一月に「ある所用」で香港に滞在しFCCのバーでぼんやりと麦酒を飲んでゐて、偶然隣りに坐つた米国人と四方山話始めると、この男が「そういえば昔、君の国で元首相が逮捕されたロッキード事件というのがあっただろう」とデューク社の話をして「じつは自分はその会社で働いてたんだ」と告白……ってバーでライターさんが偶然聞く話にしては出来過ぎ(笑)。FCCのバーで頻繁にアタシも飲んでゐるが今までバーカウンターで隣の客にそんな大それた話なんてされたこともないよ。で、このスクープ記事!読み進めると、このエイトキンといふ米国人は「現在、ディーク社など金融業界の体験をまとめた本を執筆している」さう。タイトルが“Mr Clean”で各地で政府当局の目を欺き通したといふ意味の由。で、あ、きつとこの本が邦訳は文藝春秋社から出るのかしら、と勝手に納得。
NHK朝ドラ『あまちゃん』このタイミングで北三陸舞台に、といふだけで注目集めるのは解るが絶賛ばかり。「あまちゃん」はアマチュアの「アマ」か、といふくらゐ役者の芝居が下手でも、この「幸せ」がウケるのは晋三の人気高と同じ背景なのだらう。この程度の幸せで、それが実生活的には大切なことはわかる、が「小説やドラマにするほどの「しあわせ」なのか」と、小津の映画と一緒でアタシは昔から馴染めない。この人気ドラマで、一番気にいらねのはトーホグが舞台なのに北三陸でも盛岡でも何処でもいゝが、東北弁さ下手に真似して、そんならズーズー弁風にすることよか、一番大切なのは鼻母音。鼻母音ができてねぇのに下手に子音だけで真似するから耳障り。
集団的自衛権について。文藝春秋(十月号)で外務省(仏大使)から内閣法制局長官になつた小松某につき911の際に米国の日本大使館で柳井大使下の公使だつた小松は米国のアフガニスタン攻撃で海上自衛隊派遣に向け深く関与し「自衛隊を戦時下の海外へ派遣して強力させることができない屈辱を味わったトラウマをもつ象徴的な外交官」と書かれてゐて、それを法制局長官にしたのだから。この集団的自衛権につき「行使容認は中国の猜疑心を招きかねない。もはや米国にとって集団的自衛権は無意味で日本の動きに冷淡な態度を示さざるを得ないだろう」と軍事ジャーナリストの田岡俊次氏。北朝鮮も「冷戦時代のソ連の脅威に比べればましだ。北朝鮮が核を使う確率は低い。核を持っているのは攻撃を受けないため。自分から使えば米国や韓国の反撃でつぶされるから一応抑止はきいている」「中国が尖閣諸島の領有権を主張しながらも『棚上げでいい』と言うのは日本の実効支配を認めるに等しい。互恵関係回復に妥当な落としどころだ。首相は中国包囲網をつくろうとしているようだが、米国、韓国、豪州は加わらず成功しないだろう。安全保障の要諦は敵を減らすことだ。敵になりそうな相手はなんとか中立にすることが大切で、あえて敵を作るのは愚の骨頂だ。タカ派の平和ぼけは本当に危ない」(朝日新聞)。同じ朝日に中国社会科学院日本研究所の張季風教授はアベノミクス評価した上で「日本の景気回復にはいつも決まったパターンがある。輸出の拡大が生産増を呼び込み雇用が改善し所得が増えて消費を呼び込む。つまり輸出が拡大することで今の風景が一変する可能性がある」「そのことを踏まえれば、正しい成長戦略は一つしかない。アジアの高い成長率を日本の需要に取り込むことだ。アジアに中間所得層は9億人、中国だけでも5億人はいる。これが日本企業にとっての市場になりうる。中国を始め、アジアとの関係を良好に保つことこそが、最良の成長戦略だ」と。田岡氏、張教授の主張いずれも正論。こんな正論が今いちばん受け入れられないのだらうが。

文藝春秋 2013年 10月号 [雑誌]

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