富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

fookpaktsuen2007-06-04

六月四日(月)昨晩遅く読みかけの有吉佐和子「中国レポート」読了。唐家?(現・外交部長)が若造扱いで通訳に勤しむ態が可笑しい。この本で有吉佐和子の傲慢さ指摘するのは易しいが当時、文革での拘束から解放された巴金に会い老舎の死について感想を聞き取ったり、劇作家の杜宣(1932-2004)と対談など実に面白い。杜宣は日本に遊学の折り築地小劇場によく通い、細川ちか子がいかに素晴らしい女優であったか、杜宣が初舞台を観たという杉村春子、そして山本安英などについて語る。本日、午前中、養和病院で胃の検査。胃カメラは移動式の寝台に寝かされガスと何かの注射を手の甲にされた瞬間に意識失い気がつけば2時間経過。あたしゃ眠りが浅いのだが医療機器がピーピー耳障りな中ほんとに熟睡。覚醒作用あり、なんて話も聞いていたが確かに気持ち良し。胃カメラは要らぬが1000ドルくらいで「ちょっと疲れが溜まってんで一発打ってくんねぇかい、旦那〜」って、それじゃシャブか。午後は何事もなかったかのように快適(胃痛除く)。本日は天安門事件から18周年。早晩にヴィクトリア公園通りかかり晩の追悼集会の準備の様子など眺める。主催者団体がスタッフ集め最終打ち合せの中で「では警察の担当者からの連絡」と警官が一人紹介される。警察の現場指揮部の場所、予期しない事態がおきた場合の対応、警察のホットラインの連絡先の紹介などなど懇切丁寧。けして警察vs市民運動団体といった対立の構図に非ず。当然、機動隊なども駐在せず(いつでもスタンバイはできているのだろうが)。晩の追悼集会は主催者側発表5.5万人(警察発表2.7万人)で猛暑のなか昨年を1万人上回る。民建聯の馬力・主席の「天安門虐殺はなかった」発言の反響か、まさに馬力効果。馬力君はあの発言以来、広州での抗癌治療から香港には戻らず。追悼会場で無料配布していた月刊誌『北京之春』をもらう。帰宅して鮪の中落ち丼。NHKのNW9では青森だかに流れ着いた北朝鮮亡命者の報道で「脱北の背景には何があるのでしょうか?」って、そんなもの小学生でもわかる子は答えられるんじゃないの。報道がただの言葉遊び化、陳腐なセンセーショナリズム。「のだめ」のテレビビデオ第11話見る。のだめ、のコンクールでの決勝での演奏曲が『ペトルーシュカ』からの3楽章、で、ただドラマ中では「ペトルーシュカの3楽章」と言っていたように聞こえた(実際の演奏はペトルーシュカからの3楽章、の第1楽章)。であとからMichel B?roffの演奏でペトルーシュカを聴く。このアルバムはB?roffのピアノに小澤征爾指揮のパリ交響楽団でストラビンスキーのピアノとオケのための……が3曲入っているCDなのだ。胃が痛いので文字通りの痛飲もできず(する気もなく)白面なので本でも読むしかない。Economist誌、FEER誌とアサヒカメラなど通読。
▼英国Economist誌は首相退任するTony Blair君について“What I've learned”と、さすが英国やねぇ、退陣する首相に対して天下のエコノミスト誌が首相の立場で「わたしは何を学んだか」と記事にして首相になってから勉強したこと、あとになっての反省を列挙してみせブレア時代を総括する、という、皮肉もここまでくると立派、と感心したが、読み始めて驚いたのは、こりゃTony Blair君本人の首相退任にあたっての本人執筆の手記なのであった(愕然)。マジに10だかの項目立てて首相の立場で学んだこと列挙……おいおい、大学新卒のインターンじゃないんだから。一国の、それも英国の首相でブッシュのイラク征伐にあれだけ寄与して、その決定権と責任有した人が青二才の如く「学んだこと」とは。首相になってから学んでもアトでどうそれを活かすのか。そりゃカーター元大統領とかゴア副大統領の例もあるが。日本の松下政経塾とかでアマちゃん、と嗤っていたが、国際政治とかこんなアマちゃん感覚でなされていいのかしら。
▼Far Eastern Economic Review誌は特集が“China's Bid for Asian Hegemony”ともはや中国の経済成長どころか覇権が関心事に。前世紀に日本がどんなに経済成長遂げた時でも覇権だの脅威にはならず(せいぜい恐れたのはデトロイト自動車産業くらいだったか)。ただ日本人が『ザ・ジャパニーズ』だか『ジャパン・アズ・ナンバー1』なんて(明らかに日本で売れること期待した)米国の親中派御用学者の本で日本への称賛読んで喜んでいただけ。だが中国の覇権はまさに21世紀的大きな課題か。このFEER誌で面白かった記事はBertil Lintnerなるタイ在住のジャーナリストによる“Staley Ho's Luck Turns Sour”という記事。マカオのカジノ王と呼ばれるStanley Hoだが実際はマカオのカジノ独占も彼は表の顏を演じただけ、で裏には親中派資本があり、米国がいま問題視する北朝鮮マカオでの洗錢行為も含め活気あふれるマカオ経済の闇にちょっと言及。
▼アサヒカメラ6月号。荒木経惟の「67路地」という写真を見ながら思う……荒木経惟という名前のクレジットがなかったら何人の人がこの写真を素晴らしい、と評価するのかしら。13枚の作品のちアタシがギョッとするほど驚いたのは2枚。かなりスナップ距離での人物撮影。これは巨匠でなければ撮れない。というのは1枚はアラーキーに対する笑みであり、もう1枚はアラーキーでなければ背後からこの距離で撮影したらストーカー扱い。というわけでアラーキーだから撮れる写真があるのだが……。
▼『北京之春』の無料配布していたのは四月号。方励之や香港の司徒華などが編集顧問に名を連ね于大海が発行人、社長が王丹という錚々たるメンツだが(米国に亡命した直後の王丹が森進一に似ていると思ったのはアタシだけかしら)この号の圧巻はチベット問題特集。読むに値する論文が続いたが、とくに新西蘭からの陳維健という人の寄稿「行政大西蔵和文化大西蔵」が興味深い。西蔵の中国からの分離・独立であるとか語る際に常に「西蔵は中国に非ず」の判断は容易だが、逆に中国というか正確にはシナがどれだけ逆に西蔵の影響も受けているか、という視点。例えば北京の白塔寺護国寺西蔵から伝来の仏教の寺院であり、承徳の外八廟であるとか中国の仏教の名山・山西省の五台山が西蔵仏教にとっても聖地(五台山の黄廟は西蔵から遣られたラマ僧が主管する由)。シナと西蔵が文化伝統面で不可分の歴史的関係があること。だから西蔵が独立できぬとは言えないだろうが(欧州の宗教地図など見れば)。他にもかなり読ませる記事多く驚く。

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