富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

金毘羅歌舞伎

辰年六月廿四日。気温摂氏26.9/34.7度。晴。

昨晩NHKで今年春の金毘羅歌舞伎、金丸座の舞台から〈沼津〉を見る。沼津といへば思ひ出すのは吉右衛門Ⅱの名演。それでもアタシは傑作とか名作といはれる、この沼津のやうな「実ハ、実ハ」の偶然の乗倍のやうな劇的な筋は苦手である。

偶然に街道筋で出会つた呉服屋十兵衛(幸四郎)と荷担ぎの老人平作(鴈治郎)。平作の暮らす苫屋に寄れば美しい娘お米(壱太郎)がゐてお米に一目惚れの十兵衛。だが実は平作は偶然にも十兵衛の生き別れた父、つまりお米は妹。さらに偶然にも実はお米と平作は十兵衛にとつて或る仇討ち騒動の敵同士だつた……と。

だが幸四郎の十兵衛、それに鴈治郎壱太郎かずたろう鴈治郎の倅である)の芝居はなか/\よろしく110分といふ長い芝居だが面白く見ることができた。幸四郎は父(白鸚)よりもかうしたこってりした芝居は上手いかもしれない。

昨日、夜にこの劇場中継があるね、と母と話したら母にNHKの「芸能きわみ堂」も金毘羅歌舞伎の特集だつたと教へられ、そちらも配信(NHK+)で見てみる。壱太郎がゲストで金毘羅歌舞伎の金丸座の舞台裏、構造、地元の協力など紹介。舞台は壱太郎の八百屋お七など。京屋も出てインタビューに答へてゐたがハコちゃんと声質、喋り方がそっくりで可笑しかつた。岩下尚史の話し方が雀右衛門に似てゐる、といふべきか。それにしても昨年4月スタートのこの番組、司会は高橋英樹のまゝなのだがにっぽんの芸能(こちら)の頃の播磨屋の名舞台の思ひ出だとか、さういふ真面目さがなくて本当につならなくなつてしまつて見てゐなかつた。なぜ大久保佳代子がレギュラーなのか、が全く理解できない。「にっぽんの芸能」は2022年春の番組改編でだつたか「新・にっぽんの芸能」となつて少し路線変更してゐたのだが1年で「きわみ堂」になつて改悪が続いた。元々、この番組は「芸能花舞台」で歌舞伎に限らず邦楽や舞踊などの名場面をさらりと紹介してゐた。

その前は山川静夫アナ司会の邦楽百選|NHKアーカイブスでこちらも名優の芸談など本当に楽しめる番組だつた。それが今の「きわみ堂」とは。極めるどころか、どん/\おバカになつてゆくばかり。閑話休題昨晩は金毘羅歌舞伎の〈沼津〉をオンタイムで見て、さすがにもう眠くなつてしまつたので残り30分ほどなのだが、それは録画して今晩、雀右衛門染五郎の〈羽衣〉、雀右衛門鴈治郎幸四郎の〈教草吉原雀おしへくさよしはらすゞめ〉を見た。羽衣で染五郎があまりの長身小顔だつたので吉原雀で鴈治郎の雀の精にしては飛ぶこともできないやうな安定感が印象的であつた。