富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

観世流正門別會

陰暦五月廿一日。気温摂氏(水戸)19.5 / 東京28.9度で水戸は31度。梅雨だといふのに快晴で太陽ぎら/\で暑さ猛々しい。


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人形町。水天宮。少子化といふがさすがにこちらは生まれたばかりの赤子連れたお宮参りの方も多く賑やか。アタシの近くでご懐妊がお二人もゐてアタシが水天宮に来てもお祓ひを受けて御子守帯(みすゞ帯)を授かるわけにはいかないから(周囲はドン引きだらう)参拝して「祝安産」の絵馬をいたゞく。人形町の地下鉄駅から水天宮往復するだけで汗ぐっしょり。日比谷線で東銀座。歌舞伎座横の木挽堂書店に寄つたらGoogle地図では11時開店とあつたが12時のやうで開いてをらず。『劇評』第3号が出たばかりだつたのだが。日曜日も営業のやうなのだが12時過ぎて電話しても応答もなかつた。木挽堂書店より先の方でなんだかすごい行列。〈You〉といふ喫茶店のオムライスがバズつて大変なことになつてゐるさう。歌舞伎座並びの〈蜂の家〉で野菜カレーライス。野菜はもう蕩けてしまつてゐる。


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あまりの炎天に地下道歩いて尾張町まで。若松で豆かん。正午で他に客もおらず静か。


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観世流お能で正門別會(第50回)。XXV観世左近元正の三十三回忌追善。〈翁〉は三郎太さんの初演。〈翁〉は今年のお正月の観世會でご宗家のものを拝見したのがアタシは初めて。本日は三番叟で野村裕基さんが付き合ふ。ダンスのやうな手足の動きは今様か。お二人ともまだ若く「これから」の演じ手で、あと何十年かすると「三郎太の〈翁〉は初演で見てゐて」なんてなるのかしら。連吟(経正)と仕舞を挟んで万作先生の〈無布施経〉。檀家でお勤め(読経)のあとお布施貰ひ損ねたお坊さまがお布施もらふためのあれこれ……と他愛ない狂言なのだが万作師にかゝると可笑しさを超へた何とも人間の業のやうなものまで漂はせてしまふから(それにしくじつた噺家もゐたが)大したものである。日本に戻つて能を見るやうになり狂言は本当にこの方の至芸に間に合へたことはありがたいこと。梅若桜雪(実改メ)の独吟(勧進帳)と銕之丞の舞囃子(融)。観世ご宗家の〈檜垣〉を見る機会を得られた。小鼓が亀井忠雄師。一噌庸二師の笛がまことに以て素晴らしい。これを聴けただけでも今日はありがたい。檜垣ノ女ノ霊による舞ひはシテが白拍子であるから世阿弥の原作では乱拍子であつたものが観世宗家ではそれが序の舞として継承されてきた由。それはシテはすでに老女であり「老女なのだから静かに舞ふ方がよい」といふ発想。それはそれで理があるところだが何とそれを申されたのは東照大権現!で、それが今日まで守られてきたといふのだからあばからべっそん。それを今回は蘭拍子である貴重な機会。それによつてこの舞ひのときの小鼓がとても重要(なのはアタシもわかつた)で本日の小鼓は観世新九郎師。この間狂言野村萬斎師。この〈檜垣〉は本当にじつくりと物語を味はへた。観世ご宗家のお能の楽しみの一つがパンフレットにあるご宗家の挨拶文。

斯様な社会情勢の中 何処彼処で「型」が崩れつつあります
この機に先人達が守り残した伝統の規範を 今一度省み 崩すことなく安全に未来へと継げる事こそ 大事と考えます

まことの「保守」である。何でもかんでも浅慮のまゝ都合のよいものを適当守りたがる(それでゐて大切なものは平気で毀す)自民党的な似非保守ではない。本当に残るべき価値あるものが残されて守られてきたことが伝統であつて、だからこそその保守が大事となる。ご宗家が別なところで、であつたが「能役者本来の勧進の心というのは亡者供養であり、鎮魂であり、未来への創造や寿福増長でもある」と仰つてゐたが、さういふものを昔から末代までをも引き継いでゆくのが天皇家であり世阿弥からの能のお家なのだらう。どれほどの覚悟の世界なのかアタシには想像もできない。


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日曜晩の銀座では食事の場所も限られる。銀六にある観世能楽堂を出ると〈ライオン〉が直近だが鈴らん通りの〈小ハゲ天〉へ。天ぷらやで半熟卵の天ぷらは要らない。天丼でご飯を黄卵でぐちゃぐちゃにして何が良いのか。半熟卵天が美味しいはずもなく、よけるしかない。銀座5のサンボアは日曜も営業(数寄屋橋の方はお休み)でハイボールを飲む。家人も用事を済ませ室町から東京駅に向かふといふのでハイボールを一杯だけ。

東京を19:53発の常磐線特急が上野では満席になつた(全車指定席で乗客がゐると緑色のランプになる)。コロナ禍で乗客も少なく隣は空席があたり前でアタシも家人と別々に席をとつて隣席を空けてゐたが今日はそんなこともできない。水戸駅前(銀杏坂)の空き店舗で蔦がきれいに伸び始めてゐるが、これが繁殖して「蔦屋」となつた空店舗がいくつもある。