富柏村日剩

香港で2000年02月24日から毎日綴り始めた日記ブログ 現在は身在日本

縛られる日本人

辰年四月初五。気温摂氏15.6/24.9度。曇。

本日の競馬(G1)はヴィクトリアマイル。3番人気のウンブライル(川田)を軸に馬券を組んだが6着と振るはず優勝は15頭だて14番人気のテンハッピーローズ(津村)。1-1/4差で2着にファラスプライド(ルメール、4番人気)、首差3着がマスクトディーヴァ(モレイラ、1番人気)。払戻金は単勝20,860円でこのレースレコードでG1歴代4位(1位は1989年エリザメス女王杯のサンドピアリスの43,060円)。津村騎手もGRAのG1初勝利。本日、武豊騎手がヴィクトリアマイルでは2番人気のナミュールは8着だつたが2RでJRAで通算4,500勝。ちなみにJRA重賞は360勝で同G1では81勝でいずれも歴代最多記録で自身で記録更新中なのださう。競馬も大波乱なら大相撲もまさかの横綱、4大関の総崩れ。まさかこんなことにならうとは。

Marry C. Brinton『縛られる日本人 人口減少をもたらす「規範」を打ち破れるか』(中公新書、2022年)通読。読む前からわかりきつたことだが日本は人口減少もたらす「規範」打ち破ることなどできないことは明白。著者はハーバード大学ライシャワー日本研究所所長の社会学教授。まことに社会学の教科書のやうな日本社会の分析。だが、いくら分析したところで日本の社会的病理の解決はできない。

日本は治安がいいし、住宅は閑静で、道路は清潔。人々は親切で礼儀正しい。鉄道やバスも時間通りに運行し、もし遅れることがあれば車掌や運転手が丁寧にお詫びの言葉を述べる。多くの住宅地では、日曜でも郵便ポストの郵便物が回収される。宅急便も利用しやすく、配達も早い。外国に行くとき、重たいスーツケースを引きずって空港まで行かなくても、近所のコンビニから宅配便で空港まで送ってくれる国なんて、ほかにあるだろうか。日本はとても便利で秩序立っていて、暮らしやすい国と言っていい。(序章より)

日本人が大好きなこの日本への好印象である。確かにこんな素敵な国なんて他にないだらう、と。しかし少子高齢化といふ問題にも何ら解決策が見出せない。この著作でも「問題を解決するために、一人一人の日本人が、カップルが、企業や政府がどのような行動を取るべきかを論じたい」としてゐて細かい提案はいくつも述べられてゐる。だがさうした問題を総じて解決できないのは日本といふ国家のもつ、解決できてゐない病理そのもの。近代革命を経ることなく近代化した(ことになつてゐる)社会の、これまで誤魔化してきたものぢたいの問題。

縛られる日本人 人口減少をもたらす「規範」を打ち破れるか (中公新書)

人権、個人主義天皇のお世継ぎ……何一つとつてもきちんとしたポリシーを見出すこともできないのだから、この「子ども社会」で自分たちが少子高齢化の問題の解決などできるはずもない。

齋藤誠「一経済学徒として常木淳『国民国家とは何か』を読む」(東大出版会『UP』2023年7月号」もさうした点への考察として興味深かつた。戦前の政体について。伊藤博文を中心とする明治国家立ち上げの大立者たちが大衆向けの「顕教」として「無限の権威と権力を備えた絶対君主」としての天皇を国民に対して提示する。それに対して「密教」として生み出された現実の統治手法で「天皇憲法に基づく制限君主として、自分たちの政治目的を効果的に実現する操作対象(ロボット)としてきた。後者には美濃部達吉も相乗して天皇機関説が認識され陸軍統制派、革新官僚民政党がこれに加担したのに対して前者(顕教)が政友会的なもの、陸軍皇道派や右翼となる。政友会の大敗、226事件など政治クーデターの失敗、陸軍皇道派の失脚で政治が密教的となる。しかし、その勝利した側も立憲民主主義体制は棄却して政党内閣制も形骸化させてゐて、そこで「寡頭制による立法手続きを通じて経済社会を統制していく合法的ファシズムが確立した」。「日本のファシズム天皇ファシズムと規定することがいかにミスリーディグであるのか」。戦後は戦前の顕教的な体制が戦後は「平和と民主主義」に置き換はり、密教の方はアメリカとの軍事的協調により軽武装下で経済復興を優先する現実主義(吉田ドクトリン)となる。「日本の国家が直面している現況は、クーデターで政権を奪取した独裁者の政策ではなく、立憲民主主義の正当な手続きに従った政策の帰結であった」。戦前は政治体制の行き詰まりの結果「合法的ファシズム」の体制を立ち上げ、戦後は革命すらないまゝに平和と民主主義を希求できる。この曖昧さこそ上述の『縛られる日本人』で悲しき現実と捉へられる日本の病理の根本的に同じものなのでせう。